2006.3
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
これほどひとつの調性が意識された演奏会もめずらしいことではないだろうか。
エルデーディ弦楽四重奏団によるメンデルスゾーン全曲演奏会の第1回は、変ホ長調に始まり変ホ長調に終わる演奏会であった。同じ調性ばかり集めるのは、ややもすると響きが似通ってしまうから「取り扱い注意」だが、うまくやれば逆に、同じ調性の中に幾重もの異なった音色が存在していることを、よりはっきりと理解させることができる。エルデーディの演奏はもちろん後者だった。彼らはひとつひとつ音楽の糸を丁寧に紡いで、繊細なニュアンスの違いも細やかに描き出していた。
今回弾かれた三つの弦楽四重奏曲は、前半に二つの変ホ長調、後半にホ短調の作品、そして最後のアンコールに、作品番号のない四重奏曲の一部が演奏されたが、これが再び変ホ長調だったのだ。たとえ曲を知らなくても馴染みやすく思えるのは、ヴィオラの桐山健志さんがプログラムの解説で指摘したように、変ホ長調を聴くとメンデルスゾーンの場合、弦楽八重奏曲を想起するからだろうし、ホ短調はヴァイオリン協奏曲をイメージするからだろう。
第1番変ホ長調(作品12)は蒲生克郷さんの第1ヴァイオリンに特に、みずみずしさを感じた。少しずつクレッシェンドしながら一足に駆け上がってテーマを朗々と歌い上げるところには心地よい緊張感があった。第4楽章の後半は、ほぼまるまる第1楽章からの引用で、曲の終わりもまったく同じである。重苦しいヘ短調の圧迫感から、雲間から陽光が射しこむように変ホ長調に戻ったときの解放感は、何と穏やかで満たされたものであることだろう! 最後に木の葉が舞い降りるようにひらひらと静かに音楽がピアニッシモに収斂していくときの、心地よい穏やかさは見事だった。
第5番変ホ長調(作品44-3)は第1番と同じ変ホ長調で、まるでその写し絵のようにも思えてくるが、個々の楽器が第1番以上に緊密なアンサンブルを保ちつつ、チェロもヴィオラも主張し始める。2楽章に各々の楽器にそれぞれ現れる半音階的進行には4人のアンサンブルが強く意識されているのが伝わってきたし、第3楽章でも和音のバランスを慎重に音を選んでいるのがよく分かった。
休憩を挟んだ後半、第4番ホ短調(作品44-2)の1楽章においても、ト長調の第2主題に移る直前の和音の繊細な動きを、四人の奏者はきわめて慎重にひとつずつ響きを確かめるように丁寧に弾いていた。休憩前の前半以上に表現が細かく、音量を抑えていくポイントを緻密に計算しているという印象を受けた。それは2楽章の小洒落たピチカートにも現れていた。叙情的で美しい旋律を持つ3楽章は、この日の演奏の白眉だったと思う。蒲生さんのヴァイオリンといい、それに続いて朗々と歌い上げた花崎さんのチェロといい、最後のヴァイオリン二人の静かにゆらゆらと舞い降りる様子といい、ここでも第1番で聴いたような充溢した穏やかさに浸ることができた。3楽章を終えてそっと弓を下ろした蒲生さんが、うんうんとうなづいていたのも得心されよう。
4楽章が駆け抜けるように終わると、ブラヴォーという数がかなり多かったので驚いてしまった。聴衆の反応もとてもよかったみたいだ。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲をこれほどまとまった形で聴けること自体、素晴らしいことだと思う。次回の5月の第2回もとても楽しみである。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#47〉
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
日時: 2006年3月29日(水)19:15開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(Vn)、桐山建志(Va)、花崎薫(Vc)]
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12、
第5番変ホ長調作品44の3、第4番ホ短調作品44の2
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
去年に引き続き今年も「育児支援コンサート」を聴くことができた。クラシックの西洋音楽がメインだった前年とは対照的に、今回は日本音楽集団による日本の伝統楽器を用いた演奏会であった。
第1部ではまず、子どもたちは4つの音楽スタジオに入り、年齢別に音楽体験をする一方、大人たちはホールで別プログラムの演奏会を楽しむ。そして第2部は大人と子どもが一緒に音楽を聴きあう、という流れだ。前半の第1部は、6歳児のむんちぎ組の様子を見学させてもらった。
始まる前のスタジオでは、サポーターの皆さんが忙しく熱心に働いていた。靴を脱いで中に入ると、子どもたちは楽しそうに折り紙をしたりサポーターの方と一緒に絵本を読んだりしている。この演奏会が、多くのサポーターに支えられて成り立っているということを改めて実感させられる。
3時を回ったころ、むんちぎ組(年長組)に三味線の山崎千鶴子さんが現れた。赤い布の上に座っていきなり激しく弦を打ち鳴らし始めると、各々の遊びに夢中だった子どもたちは「何だろう?」という表情で山崎さんへ眼差しを向ける。テンポが速まるにつれ、30数人ほどの子どもたちは三味線を食い入るように見始めた。曲が終わると山崎さんは三味線を「江戸時代のギター」と説明した。次に彼女が弾き始めた曲は、どこかで聴いたことがあるな、と思ったら「千と千尋」のテーマだった。「みんな歌ってね」と山崎さんは言って、サポーターの方も熱心に歌っていたし、三味線の伴奏もきれいだな、と僕は感じたけれど、子どもたちの多くはこの曲を知らなかったみたいだったので、ちょっと残念だった。
次に「江戸時代の曲をみんなで歌ってみましょう」と、みんなに「おてもやん」の歌詞カードを配り、弾き語りをしてみせた後で、唄の意味や音楽を分かりやすく山崎さんは解説された。唄いながら「おてーもーやーーあ、あん」とこぶしをきかせたり、音楽なしの語りの部分を「ラップのようなものです」と説明したり、リズムの面白さを強調しながら、子どもたちの興味を引くように工夫されていたと思う。でも、6歳の子どもたちにはやや難しかったかもしれない。独特の節の唄い方はなじみにくかったのか、唄の部分では子どもたちの声は小さく、語りになると急に声が大きくなったので、笑ってしまった。
後半は三味線を実際に試し弾きしてみるワークショップだった。去年、楽器体験は(ブームワッカーを使ったひとつのスタジオを除いて)ほとんどなかったが、今年は実際に音を鳴らしてみるということに重点が置かれていたように思う。ふたつのグループに分かれて、ひとりずつ山崎さんは右手のバチの持ち方、左手の弦の押さえ方を丁寧に教えてまわり、それぞれ音色の違いを実際に弾くことで、子どもたちに体験させていく。ひとりにつき二、三分かけているから当然、時間はかかるし、自分の番でない子たちは騒がしくなったり遊んでいたりもしたのだけれど、各々ひとりずつ三味線にじかに触れるという体験をすることができた、という点をより評価すべきだと思う。
もちろん子どもたちは初めて三味線音楽に接しているのだから、すぐに音楽を理解するというわけには行かないだろう。むしろ大事なことは、これが子どもたちにとって三味線に接する最初のきっかけとなったということである。いまは分からなくとも、いつか小さいころに三味線に触れたという経験があったことを思い出すことがあれば、人生の奥行きのひとつになるかもしれないのだから。
第2部「みんな一緒のコンサート」では、まず吉松隆≪星夢の舞≫から5曲演奏された。吉松隆は、邦楽器で演奏してもやっぱり吉松隆だなあと分かる。メロディーが美しくて、感傷の波にさらわれる心地がする。拍子木を大きくしたような木板を豪快に打ち鳴らす<点々>や、笛の奏者や三味線の奏者が立ち上がってリズムよく演奏する<舞戯之舞>といい、聴いているだけで楽しくなる。
最後に「ヘチと怪物」という韓国の絵本が、朴範薫(パク・ポンプン)作曲の<日本楽器によるシナウイ>に乗せて、佐々木梅冶さんが感情こめて朗読された。話の内容と絵の雰囲気は、「日本むかし話」で言えば、後半の第2話の怖い方の話という気がした。太陽の神ヘチがパクチギ大王などの四兄弟に太陽を盗まれた場面に差しかかると、会場の子どもたちも静まり返っていたのが印象的だった。
今回の育児支援コンサートでは、去年のスタンダードなクラシックコンサートとは趣向を変えて、知っているようで知らない日本や韓国の音楽・文化を見つめるきっかけになったのではないかと思う。本来、身近であるはずの日本の三味線だって実際のところ、大人の僕でもあまり知らないわけだから。そのため第1部のスタジオは、山崎さんの解説に目からうろこという思いだった。「おてもやん」は、子どもたちは歌詞の意味もよく分からぬまま口ずさんでいたであろうけれど、大人になってから実はこの唄がダメ亭主を揶揄した曲だと気付いたら、さぞかし愉快だろうと思う。ともあれこうした演奏会の活動を地道に続けていくことによって、草の根から私たちの音楽の裾野が広がっていくと期待したいと思う。
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〈ライフサイクルコンサート17〉
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2006年3月26日(日)15:00開演
出演者:日本音楽集団、佐々木梅治(劇団民藝/朗読)
演奏曲:
第1部
・子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象/
4歳児~6歳児まで、4つのスタジオにわかれ、演奏家と一緒に楽しい音楽体験をします。)
・大人のためのコンサート(小学生から)
~楽しい初めての邦楽器アンサンブル~
長沢勝俊(作曲):二つの舞曲より
三木稔(作曲):「四季」ダンス・コンセルタントⅠ、
指揮者による楽器紹介つき。(演奏楽器:笛、尺八、三味線、琵琶、十七絃、打楽器)
第2部
・みんな一緒のコンサート
音楽と韓国の絵本「ヘチとかいぶつ」(全国学校図書館協議会選定)
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
エルデーディ弦楽四重奏団のメンデルスゾーン(第1回)を聴いて
エルデーディ弦楽四重奏団のSQW約一年振りの登場を聴きました。前回はハイドン生涯最後の弦楽四重奏曲9曲を全3回で集中度の高い演奏を聴かせて頂きました。今回は、回数こそ2回ですが、同様若しくはそれ以上に大変そうな(素人目に)メンデルスゾーンの番号付6曲で、その第1回でした。演奏された作品は、順番に第1,5,4番。
前回も、また、SQWに登場する多くのクァルテットが「全集」や「選集」という形で一人の作曲家の作品を集中して取上げていますが、なかなか大変な事だと思います。集中して演奏するからこそその作曲家特有のものが醸し出されるかと思いますが、その中で個々の作品の個性を表現されるのはクァルテットの腕の見せ(聴かせ)所ではないかと思います。実演でこの様な形で聴けるのは、作品ごとの個性などを、聴き逃すまいと、楽しみながら必死に聴ける醍醐味が味わえるのも魅力の一つです。また、その作曲家の世界に浸れるのも嬉しいところでしょうか。
今回、聴く際に気にしたいと思っていたのはパート・バランス。メンデルスゾーンの作品に良く現れるフーガやメロディのバックとなる、音の刻みや移弦を多用した反復音型がどの様に聞えるのか、この辺りが特に聴いてみたく、楽しみな所でした。フーガもある特定のパートだけが目立つのではなく、全パートがここぞという時に主張するのは、実演では聴かせ所であり、また、難しい所でもあると思います。また、音の刻みや移弦を多用した反復音型はある程度の主張をしつつ、メロディを際立たせるのも同様ではないかと思いますが、どの作品の演奏も素晴らしいバランスで響いていて、その作品の世界へ引き寄せられるものでした。また、度々現れる全パートのユニゾンや、スケルツォや終楽章に現れる高速の無窮動の醍醐味も味わえ、次回の演奏が大変楽しみです。
併せて、日本のメンデルスゾーン研究の第一人者でもあるヴィオラの桐山さんの解説も作曲家の世界に引込んでくださり、更に次回も是非足を運んでみたいと思う演奏会でした。
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〈クァルテット・ウェンズデイ#47〉
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
日時: 2006年3月29日(水)19:15開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(Vn)、桐山建志(Va)、花崎薫(Vc)]
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12、
第5番変ホ長調作品44の3、第4番ホ短調作品44の2
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
第一生命ホールで行われた「育児支援コンサート」を手伝わせていただきました。
自分の周りにあまり子供の存在がないためか、役に立てるかどうか、不安な気持ちもありました。しかし、一月ほど前の中央区勝どき児童館で行われたアウトリーチ「弦楽器ワークショップ」をお手伝いした際、楽器を手にした時の子供たちの生き生きとした笑顔を見て、お手伝いすることにしました。
コンサートの前半、親御さんがホールで鑑賞している間、子供たちが邦楽器の奏者の方の演奏を聴いたり、一緒になって音を出す事を楽しむクラスの担当。自分がお手伝いをしたのは最年少の子供たち(4歳)のクラス。
親御さんに連れられた子供達を預かり、靴を脱いでもらって入ってもらうことに。部屋の中には折紙や絵本などを用意し、始まる迄遊んでもらいましたが、子供達の名前がわからないので、機転の効くサポーターの方が受付時に使用した名札に名前を訊き、書き始めました。子供達も名前を呼んでもらい親近感が生れた様です。
もうすぐ始まるから片付ける様声を掛けるとみんな一斉に片付け始めたのはこれからの事を期待していたからでしょうか。時間となり、尺八・笛の奏者添川さんが来られ、尺八や様々な笛を演奏。古典作品から始まり、祭囃子、鳥の啼き真似のできる笛、大きな古時計やトトロの曲、など子供達にも親しみ易い曲迄を取り上げられ、子供達は、普段身近に接する機会の少ない楽器から、親近感のある音やメロディがながれたせいか、関心を寄せていた様です。
楽器の体験のコーナーでは添川さんが一本一本竹を削って用意された、ミニ尺八を吹いてみる事に。原理はフルートと同じとの事なので、コツを掴むまでが一苦労。しかし、その末に音を出す事の出来た子供達は何にもまして輝いた表情をしていました。難しいだけに達成感は充実でしょう。なかなかできない子供達と一緒に吹き方を繰り返し、その一生懸命さには心打たれるものがありました。
親御さんが迎えにいらした際、別れの挨拶を満面の笑みで返してくれた子供達は、手伝いができて、最高の贈り物を頂いた気持ちになりました。
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〈ライフサイクルコンサート17〉
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2006年3月26日(日)15:00開演
出演者:日本音楽集団、佐々木梅治(劇団民藝/朗読)
演奏曲:
第1部
・子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象/
4歳児~6歳児まで、4つのスタジオにわかれ、演奏家と一緒に楽しい音楽体験をします。)
・大人のためのコンサート(小学生から)
~楽しい初めての邦楽器アンサンブル~
長沢勝俊(作曲):二つの舞曲より
三木稔(作曲):「四季」ダンス・コンセルタントⅠ、
指揮者による楽器紹介つき。(演奏楽器:笛、尺八、三味線、琵琶、十七絃、打楽器)
第2部
・みんな一緒のコンサート
音楽と韓国の絵本「ヘチとかいぶつ」(全国学校図書館協議会選定)
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
3月末にしては肌寒く感じられる春風の中、オフィス帰りのサラリーマン、OLの足並みとは逆方向に歩を進めた。第一生命ホールに向かうためである。僕にとって第一生命ホールは、残念ながらあまり馴染みのない場所である。その理由は多々あるのだろうが、やはり一番の理由は、自宅から近いとは言えないからであろう。そのことも手伝ってか、第一生命ホールを含めた「晴海」という場所がとても新鮮に感じられた。
この日に第一生命ホールで行われた催しは、メンデルゾーンの弦楽四重奏を二回に分けて全曲を演奏するという企画の第一回目である。プログラムは、第1番変ホ長調作品12、第5番変ホ長調作品44―3、第4番ホ短調作品44―2。演奏者はエルデーディ弦楽四重奏団。昨今のクラシック音楽会ではあまり見られない、珍しいプログラムではないだろうか。弦楽四重奏には門外漢である僕にとって、この日のプログラムは少し物足りなく、また不安に感じていた。しかしその不安は演奏が始まった途端に消え去った。弦楽器をCDなどではなく生で聴く機会が多いとは言えない僕にとって、弦を擦る作業は非常に興味深く、その瞬間は心地よい緊張感を覚えた。まるで細い糸を紡いでいくかの如く繊細であった。ヴァイオリンの音色は優しさを感じさせ、聴いていて嫌みのないものであった。ヴィオラの音色も暖かみがあり、頭脳的であったように感じた。また、弦楽四重奏を支えるチェロの響きにも感銘を受けた。長い持続音で支えていることもあれば、ヴァイオリンに負けないような早いパッセージもこなすチェロは、見ていて、聴いていて心強かった。特に早いパッセージの場面は、バッハなどの音楽を好む僕にとっては、非常に新鮮であった。
弦楽四重奏とは耳を驚かすような大きな響きはなく、少し耳を傾けて聴く音楽であろう。力強いオーケストラにはない優しく包み込むような響きが弦楽四重奏にはあるのではないだろうか。弦をハンマーで叩くピアノと違い、ヴァイオリンに代表される弦楽器からは、直接的ではない暖かさを感じた。勿論ピアノの響きにも様々な暖かさはあるのだが。
演奏前に感じていた恥ずかしい不安などのことを忘れさせる優しく包み込むような、品の良い演奏会であった。
アンコールが終わり、席を立ち出口に向かう中で心暖まる光景が見られた。聴衆の多くの人々がロビーなどで談笑しているのである。連れ添って来たわけでもない聴衆たちが、これまでの演奏会や催しなどで顔馴染みになり、談笑しているのであろう。このような光景を他のホールではあまり見受けられない。
音楽会や催しを通して顔馴染みになり、人間通しの暖かな交流を育んでいくことこそが音楽会などの魅力の一つではないか、とふと考えさせられた。そんなことを頭に浮かべながら暖かい気持ちになり、ホールを後にした。動く歩道に乗る気にもならず、馴染みの薄い「晴海」からの夜景を見ながら演奏会の余韻、暖かな光景を思い出しゆっくりと家路に向かった。これからはこの「晴海」と顔馴染みになるかも知れないと感じた。
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〈クァルテット・ウェンズデイ#47〉
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
日時: 2006年3月29日(水)19:15開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(Vn)、桐山建志(Va)、花崎薫(Vc)]
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12、
第5番変ホ長調作品44の3、第4番ホ短調作品44の2
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
オオシマザクラの白が映える,3月終わりの日曜日の午後。テラスの噴水近くでは,子どもたちとお母さんが縄跳びをしている。グランドロビー脇の径では,幼児が歩いている。その姿を見守るおじいちゃんの顔は,薄曇りの暖かな日差しを受けてほころんでいる。
――このような親密な場で,「育児支援コンサート」が開かれるようになって,早くも5回目を迎えた。ソールドアウトが続き,好評をよんでいるこの取組み。さて今回はいかがと,次々押し寄せてくる子どもへの対応に余念のないディレクターのM氏に話を聞くと,「今年は,あえて,満席になる前に打ち止めにしたんです」。
第1部は,年少組2部屋,年中組1部屋,年長組1部屋の計4室を用意して,TANが子どもたちの世話をする一方,保護者はふだんの育児からほんのわずかな時間離れて,自分のためだけの音楽の世界に浸ることができるよう考えられたプログラム。毎年このコンサートを見て感心していることの大きな一つは,トラブルらしきものが起こっていないこと。当日配布された資料を見ると,2つの年少組はそれぞれ34人・36人,年中組は41人,そして年長組は41人の子どもを受け入れている。これだけの人数を預かるだけでなく,いかに子どもたちに思い出いっぱいの音楽を伝えることができるか。そのため持てる組織の力と知恵を集中させ,最大限の効果をあげることをねらっているのである。つまり,見かけの「量」と「形」を整えるだけでなく,当日訪れた観客をいかにもてなそうかといった「質」に重きを置いているということである。
今年は第1部・第2部を通じて「邦楽」に的を絞った内容だ。しかし,昨年は,特に第2部の「オペラ・キャット」がおおいに成功を収めたはずなのに,なぜ今年は方向を一変させたのだろうか。
「中期的なプログラムづくりの一環ですね」(Mディレクター)
幼稚園年少・年中・年長の3年を見通したプログラムを提供していくことで,子どもたちは多彩な音を体験していく。そして,それが,一人の人間のライフサイクルの中で,音楽と長きにわたって付き合っていくための土台になっていくのであろう。
今回指定された「ぷんぎ」組(注:各部屋の名称は,第2部のプログラム・音楽と絵本《ヘチとかいぶつ》に出てくる4体の怪物君の名前からとられている)の部屋に入ってみると,新聞の折り込み広告を使って,一心不乱に,折り紙をつくっている子どもたちの姿が目に入ってきた。頭には出来上がったばかりの「兜」をかぶっている。
「さあ,始まるから,お片づけをしようかあ」というスタッフの指示に素直に従い,みんなで箏の久東さんをお出迎え。その中で,同じ幼稚園のお友達なのだろうか,一組の男の子と女の子がじっと手を握り合っている。音楽が始まる前の期待する一瞬を仲良し同士で迎えられたこと,それを何十年経っても,「昔こんなことがあったよね」とずっと語り合ってほしいと思った。
プログラムはまず,観賞から始まった。飽きてむずかる様子もなく,特に最前列の子どもは,演奏家の指の動きから目を逸らすことがない。
続いては,子どもたちが実際に楽器に触れての体験活動。「どうすれば音が変わるか,知ってるよ!」と大きな声をあげる男の子。部屋の中には10梃の箏が用意されており,4~5人が一つのグループになって弦をはじいていく。
「好きな食べ物はなあに?」「リンゴ!」「じゃあ,『リ・ン・ゴ』って音を鳴らしてみよう」
久東さんとのこんなやりとりを通して,ポン・ポン・ポンと子どもたちは音を鳴らしていく。
「こんどは,胴の下を叩いてみようか」
ドン・ドン・ドンと,小さな手をいっぱいに広げて打ち鳴らされる音が響き渡る。
各グループにはサポーターが一人ずつ付き,子どもたちの様子を見守り,声をかけていく。その中で,演奏に夢中になって,ヒモがリボンでできた名札が首からはずれた女の子がいた。それをかけ直すサポーターに,「ねえ,ねえ,これパパがつくってくれたんだよ!」とニコニコと語りかける子ども。音楽体験だけでなく,よそ行きの服でおめかしをして親と一緒に遊びに来たということ,やさしく接してくれる演奏家とサポーター,そしてお手製の名札......。そういった諸々のことが一つになって,この子の中には楽しい時間が流れているようだった。
残念だったのは,サポーターの手が回らないグループが一つあったこと。そこでは4人の子どもが所在なげに弦に触っていた。子どもは,自分を取り巻く環境から「何か」を感じ取る。そしてそれを誰かに聞いてもらい,受け止められることを欲している,改めてそんなことを考えさせられた。「さあ,今度は,一人ずつ音を出してみましょう」
久東さんはこう言いながら,子ども一人ひとりの前まで行って「上手ねえ」などと声をかけるともに,「爪,痛くなかった?」と手をさすってあげたりもする。
サポーターもその様子を見守りながら,「あら,音,出たじゃない」と褒めてあげている。
最後は,久東さんの演奏をバックに,みんなで「さんぽ」の合唱。
「楽しかったあ~!」「ありがとう!」
このような光景が展開されている折,途中でトイレに行きたくなった子どもの手を引いて何度となく部屋を出たり入ったりしていたのは,若い男性サポーターだ。今年で3回目の参加であり,TANのサポート以外にもカンボジアや新潟など被災地での支援活動も行っているという。「トイレに行くまでの道のりが分かりづらいので」と言いながら,この活動で一番楽しいことはとの問いかけには,笑顔でこう話す。
「子どもたちが,音楽を通じて"創造"する場面に出会えることです」
前半の報告が長くなったので第2部のレポートは割愛させていただくが,コンサートが終わり,ホールを後にするエスカレーターの前に立っていたのは,第1部で新聞の折り込み広告で作った「兜」を,いまだ被り続けている一人の子どもだった。
そうか,この子にとっては,兜がいま宝物なんだと感じながらも,自ら創ったその作品に,「量より質」をめざす育児支援コンサートの考えが受け止められているような気がした。
そして,その子の手は,親が,しっかりと握りしめていた。
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〈ライフサイクルコンサート17〉
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2006年3月26日(日)15:00開演
出演者:日本音楽集団、佐々木梅治(劇団民藝/朗読)
演奏曲:
第1部
・子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象/
4歳児~6歳児まで、4つのスタジオにわかれ、演奏家と一緒に楽しい音楽体験をします。)
・大人のためのコンサート(小学生から)
~楽しい初めての邦楽器アンサンブル~
長沢勝俊(作曲):二つの舞曲より
三木稔(作曲):「四季」ダンス・コンセルタントⅠ、
指揮者による楽器紹介つき。(演奏楽器:笛、尺八、三味線、琵琶、十七絃、打楽器)
第2部
・みんな一緒のコンサート
音楽と韓国の絵本「ヘチとかいぶつ」(全国学校図書館協議会選定)
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
前半:子供音楽スタジオにTANサポーターとして参加。
今回の持ち場は打楽器コーナー。音楽集団団員の慮さんと一緒に4才の子供達と体験するとんちぎ組(絵本のキャラクター)。それにしてもこの怪物クン、何ともユーモラスな顔だなとつぶやきつつ会場のリハーサル室に向かいました。軽い打ち合わせとお昼を済ませていよいよ本番。
慮さんは穏やかな語り口かつ丁寧に我々サポーターに一つ一つ説明して下さいましたが、これが演奏に入ると一気にテンションアップ。三十数名の子供達を前に「模範演奏」をなさった時はすっかり音の世界に入っていて、子供達も身を乗り出して聴き入っていました。
スタジオに来た子供達と体験タイム開始まで折り紙や絵本読み聞かせで一緒に過ごしましたが、皆ぐずる事なく待ってくれました。
今回は何故か絵本読み聞かせが多く、その昔多く当てられた国語や英語のリーディング光景を追体験。更に折り紙遊びでは私達の知らない折り方を教えてくれたりする子供達もいて、最初からたじたじ。
「太鼓の先生」慮さんが登場し、サワリ部分を閉め太鼓で打ち始めると、さっきまで騒いでいた子供達がバチの一つ一つの動きに見とれていました。更には謡曲らしい掛け声にも聴き入っていた様子。おもむろに太鼓の先生はボードに書いた「大きな古時計」のリズム(ターンとかタタタンとか)を膝打ちで練習。それにしても子供達の飲み込みの早い事、早い事!!以前合唱でリズム読みの練習経験のある私の方が、実は間違えたりしました(大汗)。
ここで慮さんは楽器毎に3つのリズムを振り分け、早速実際の楽器体験へ。今回オルゴールが大人気で、一緒のスタジオだった他サポーターさんのお話では、「何が何でもオルゴール!!」という子供達が何人もいたそうです。ちなみに私は木鉦担当だったのですが、ちょうど碁石を入れる入れ物の大きさ。これを体験した皆は非常にリズム感が良くて感心してばかりでした。お隣の大太鼓は力いっぱい打つ子供達がいて、慮さんも大わらわ。途中で御自分で見本演奏なさる場面もありました。大騒ぎになりつつも皆で「大きな古時計」を2回も3回も通しているうちに
皆それぞれの楽器の世界に「入り込んで」いました。よく子供は吸収が早いと聞きますが、自然と集中しているうちに自分の中に音なり形なりしみ込んでいくのでしょう。大人の部(第1部コンサート)の後にお迎えに来た親御さん達の前で子供達は生き生きと歯切れよい打楽器アンサンブルを披露していました。こんなに夢中でやっているんだ!!と驚きとも嬉しさともいう表情の親御さん達の様子が印象的でした。その後楽器を前に記念撮影しながら「これやったのー!!」「スゴイ大きな音がしたよー」と話す子供達の姿には嬉しくなりました。
後半:2F C1列-3番
さて、片付け後は生き生きとしたスタジオでの興奮覚めやらぬまま今度は客席へ。ロビーやビュッフェではついさっきまでのスタジオ体験を興奮しながら報告する子供達がいっぱい。エスカレーター上で日頃忘れかけていたナマの音への純粋な興奮を思い出していました。
第2部「みんな一緒のコンサート」では吉松隆の組曲「星夢の舞」から(太鼓の先生、予告通り手を振って下さいました!!)。
北斗七星をモチーフとした組曲冒頭「序の舞」ではE音の連打に乗って笛と琴の絡みがいかにも「春が来た!!」と周りに知らせているよう。三味線をはさんで流れるようなアンサンブルが展開されていきました。2曲目「綺羅々」(きらら)では涼やかな鉦の音に琴ソロと笛ソロが加わり、物思いにふけるような響きが演奏されました。続く「点々」はスケルツォっぽく小太鼓と琴が止め拍子を交えており、この「ストップモーション」がこの上ない緊迫感とライヴ感をもたらしていた
ように思います。笛と尺八とのメロディラインの震えるような響きには私も身を乗り出して聴きました。2巡目では太棹が入って響きに厚味が増し、トリル音が小回りきいた舞を連想させる印象でした。丁々から舞戯之舞(←ブギもこのように書くとなかなか洒落たもの!!)へ展開していくところでは、やはりE音連打から展開、何気なく笛がノリに乗っていた印象だったが、テンポが上がると尺八ソロと弦パートのアルペジオ風に奏される広がりを持った響きとがホールで上昇気流気味に掛け合っていき、「舞戯之舞」ではいよいよパワー全開!!
実はこの部分はリハーサルを拝見出来たのですが、単なる演奏にとどまらず、各パートがジャズバンドよろしく各ソロパートで立って演奏してみようという事も言っていたので、実際本番でそれぞれの見せ場を見られたのが大満足でした。春の催しにふさわしくパステル調の和装も交えてのアンサンブルでは邦楽でもここまで「見せる」演奏が可能というのが見られて大いに満喫しました。中でも三味線パートのいわゆる「ベンベン」する部分が何とも格好よく、指揮者も大変ノッておられました。会場からもブラヴォーと掛け声が飛んでいましたっけ。
続いて音楽と絵本「ヘチとかいぶつ」太陽を守る善玉ヘチと地中深く住んでいつも悪さをしている4匹の怪物兄弟のお話でした。朗読佐々木梅治(劇団民藝)さんは語り部っぽく作務衣のような昔のいでたち。音楽集団の奏でるダイナミックな音楽に乗って、豊かな声色で怪物達の物語を語っていました。
ここで使われた音楽は朴範薫(パクパンブン)作曲「シナウイ」。昨年5年の音楽集団定期演奏会で聴きましたが、今回の絵本にもちょうどよく合っていました。太陽を守るヘチの正義の角のモチーフや怪物4兄弟の紹介場面では独特の音楽。スライドに映し出された険しい山々光景や、イタズラで太陽が4つ照らされる場面では打楽器のたたみかけるような動きが効果的。またヘチが怪物4兄弟におしおきする場面では琵琶と三味線が緊迫した語り口で盛り立てていました。
本番後、さっきスタジオで折った折り紙を取りに来ながら面白かった!!(首から下げている名札が目印!!)と満足そうに帰って行く子供達。きっと今日は子供達も親御さんも熱く語るんだろうなと想像しつつ、後片付けに入る私達。逆に皆から聴き手の原点とでも言えそうな素直に楽しむ心を教えてもらった気がしました。
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〈ライフサイクルコンサート17〉
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2006年3月26日(日)15:00開演
出演者:日本音楽集団、佐々木梅治(劇団民藝/朗読)
演奏曲:
第1部
・子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象/
4歳児~6歳児まで、4つのスタジオにわかれ、演奏家と一緒に楽しい音楽体験をします。)
・大人のためのコンサート(小学生から)
~楽しい初めての邦楽器アンサンブル~
長沢勝俊(作曲):二つの舞曲より
三木稔(作曲):「四季」ダンス・コンセルタントⅠ、
指揮者による楽器紹介つき。(演奏楽器:笛、尺八、三味線、琵琶、十七絃、打楽器)
第2部
・みんな一緒のコンサート
音楽と韓国の絵本「ヘチとかいぶつ」(全国学校図書館協議会選定)
ショパンのアンサンブルを、19世紀のサロンの響きで
私は第一生命ホールのすぐ近くに住んでいるので、足繁くコンサートに通いたいものなのですが、あいにくあまり機会がありませんでした。特にピアノの独奏なら忙しくても聞きに出かけたいところですが、室内楽が中心のホールとのことで、致し方ありません。さて今回は、「ショパンのアンサンブルを19世紀の響きで」という演奏会だったので、聞いてみることにしました。プレイベントで静岡文化芸術大学の小岩信治先生のお話もお聞きすることができるとのことで、楽しみにしていました。
さて、プレイベントでのお話は、アンサンブル音楽としてのピアノ協奏曲がテーマでした。ショパン時代のピアノ文化、室内楽版ピアノ協奏曲などについてです。19世紀における音楽をめぐる状況は現代と大きく異なっていたため、フルオーケストラの演奏会などを聞きに行ける人たちはごく限られた人たちにすぎませんでした。このために、貴族のサロンや家庭内で室内楽版の演奏を楽しもうという場合がしばしばあったそうです。CDなどで手軽に音楽が楽しめる現代には想像もできないことですね。そうした需要から楽譜が協奏曲でありながら、ピアノ独奏版、室内楽版やオーケストラ版などに分かれて販売されていたのだそうです。限られたメンバーで演奏するのですから、管楽器のパートをピアノや弦楽器が補っているなど、作曲家も苦心していたようです。大変興味深く拝聴致しました。
また、プレイエルのフォルテピアノの音も新鮮でした。現代のピアノはいつも私が主役よ、といわんばかりにステージ上では実に堂々としています。反面、アンサンブルや伴奏では、音が目立ちすぎるので、控えめに演奏することがいつも求められ、ピアニスト泣かせ(腕の見せどころ?)だったりします。でもそれは、現代の究極的に進化したピアノだからなのですね。フォルテピアノは控えめな音で、ピアノ程クリアではないけれど、独特な味わいがあって、チェンバロに少し似た感じがするかなあ、と思いました。実は、他の楽器と仲良く協調していた楽器だったのか、と、ちょっと納得しました。
そして、コンサート当日です。プログラムはショパンのピアノ三重奏、ノクターン、バラードそしてピアノ協奏曲です。ピアノ三重奏を除くとよく演奏される曲目なので、いつも聞いているあの曲が異なったイメージで響いてきました。ショパンはいわゆるコンサートホールでバリバリ弾くタイプの人ではなかったらしく、きっと貴族のサロンで演奏されたときの雰囲気が、こんな感じだったのではと思いました。ピアノ三重奏は今回初めて聞きました。ピアノ版も聞いてみると、違いがわかっておもしろいかもしれません。
古楽器を用いてバロック時代の曲の演奏会が開かれることはありますが、ピアノの一世代前のフォルテピアノはなかなか聞く機会がありません。保存が難しいということなのだと思いますが、博物館に展示されていた楽器の演奏を聞くことができて、貴重な体験となりました。フォルテピアノの小倉貴久子さんはじめ弦楽器の方々の演奏も素晴らしかったと思います。今後も、こうした試みを私達聴衆にご披露頂けることを楽しみにしております。
公演に関する情報
レクチャーコンサート
「ショパンの室内楽、ショパンのピアノ」
日時: 2006年3月11日(土)15:00開演
場所: トリトンスクエアX棟5階会議室
出演者:お話:小岩信治(静岡文化芸術大学講師)
演奏:小倉貴久子(フォルテピアノ)
〈TAN's Amici Concert〉
ショパンのアンサンブルを、19世紀のサロンの響きで
~浜松市楽器博物館所蔵のフォルテピアノ(プレイエル、1830年)を使って~
日時: 2006年3月14日(火)19:00開演
出演者:小倉貴久子(フォルテピアノ)、桐山建志(ヴァイオリン)、白井圭(ヴァイオリン)、
長岡聡季(ヴィオラ)、花崎薫(チェロ)、小室昌広(コントラバス)
演奏曲:
ショパン:ノクターン 変ホ長調 作品9-2、バラード 第1番ト短調 作品23、
ピアノ三重奏曲 ト短調 作品8、ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
(ドイツ初版(1833)に基づく「室内楽版」)楽版)
レクチャーコンサート
「ショパンの室内楽、ショパンのピアノ」
3月14日の「ショパンのアンサンブルを19世紀のアンサンブルを19世紀のサロンの響きで」というコンサートのプレイベントとして、レクシャーコンサートが演奏会に先立ち開催された。
当日は、静岡文化芸術大学の学生さん2名が遠路浜松からサポーターとして手伝いに来て下さり、一緒にサポーターをさせていただいた。
会場の中をみると、浜松市の楽器博物館から運ばれてきた1830年製のプレイエルが置かれている。聞くところによれば、世界でも、浜松の楽器博物館のように楽器をコンサートのために持ち出しを許可してくれるところはほとんどない(唯一?)だそうである。
ショパンの生きていたときの楽器である。どんな音がするのだろうという興味が高まる。
レクチャーの最初に題名は解らなかった(作品番号op.25?)が小倉さんにより演奏された。 この曲は「シューマンが「エオリアンハープを聞いているようだ。」と言ったという。この曲は、自分は全く知らないのだが、そう言われればその通りだが、「現代ピアノで聞いたらシューマンは、そんなこと言わなかったのだろうなぁ」と想像した。
静岡文化芸術大学の小岩先生からショパンのピアノ協奏曲についてレクチャーしていただく。 その中で面白かったのは、ピアノ譜、弦楽器、管楽器と楽譜が別売されていて、(例えば、この協奏曲をよく知った人には物足りないかも知れないが)ピアノソロでの演奏が結構楽しい。(小倉さんがピアノで実演)また、弦楽器のパート譜には、管楽器がないときは弦楽器でカバーできるように小さな楽譜で示されている。そして、弦楽器が弾きにくい所は、ピアノがカバー出来るような配慮(この部分も小倉さんが実演)がされている。
室内楽版でやるとチェロ、コントラバスは、殆どフルオーケストラの楽譜を弾き、さらに管楽器の部分の手伝いもやるので大忙しらしい。(これは、演奏会の時の楽しみである!)
ショパンの楽譜が、フルオーケストラ版と室内楽版に互換性があるのは、時代背景にも大きく影響されていたようだ。
プレイエルをこのレクチャーコンサートで聞いた感じでは、小倉さんは、とても鳴りやすいとはなされていたが、音は、重く鳴りにくそうに聞こえた。また、低、中音では、弦の張りの強い現代ピアノよりは彫りの深い音が魅力だが、高音にはピッチが低いためか若干、違和感を感じた。それに、スケールみたいなところを弾くときにはあまり気にならないが、和音を聞くと、きれいに響く和音もあるが、あまりよくない響きもあったように思えた。そして、ホールではちょっと他の楽器に音が負けちゃうかもとも感じた。
でも、場所が変われば、音も変わるだろうから、ホールで聞けばまた違う印象なんだろうと考えながら家路についた。
最後に、本番の印象。レクチャーで感じた、プレイエルのピアノフォルテは、違うピアノフォルテではないかと思うくらい美しい音を出していた。音量的にも、弦楽器の後ろに位置しているが、見事に弦楽器と調和してバランスがよい。最近のピアノ協奏曲は戦うという意味が強いが、実際初めて調和するという協奏曲を聴いたように思えた。
今回のレクチャーコンサートでは、演奏会当日は、都合が悪いので、レクチャーコンサートに参加してくださった方も何人かいらした。レクチャーでも、名器プレイエルの音が感じられたのは、貴重な体験であったと思う。でも、機会があれば、ホールに足を運び、この楽器の響きを聞いてみていただきたいと思う。
公演に関する情報
レクチャーコンサート
「ショパンの室内楽、ショパンのピアノ」
日時: 2006年3月11日(土)15:00開演
場所: トリトンスクエアX棟5階会議室
出演者:お話:小岩信治(静岡文化芸術大学講師)
演奏:小倉貴久子(フォルテピアノ)
〈TAN's Amici Concert〉
ショパンのアンサンブルを、19世紀のサロンの響きで
~浜松市楽器博物館所蔵のフォルテピアノ(プレイエル、1830年)を使って~
日時: 2006年3月14日(火)19:00開演
出演者:小倉貴久子(フォルテピアノ)、桐山建志(ヴァイオリン)、白井圭(ヴァイオリン)、
長岡聡季(ヴィオラ)、花崎薫(チェロ)、小室昌広(コントラバス)
演奏曲:
ショパン:ノクターン 変ホ長調 作品9-2、バラード 第1番ト短調 作品23、
ピアノ三重奏曲 ト短調 作品8、ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
(ドイツ初版(1833)に基づく「室内楽版」)楽版)
クス・クァルテット
Homage to Mozart-モーツァルト生誕250年に寄せて
カルテット・ウェンズディをシリーズで聞き始めて約半年が過ぎた。最近は会社を早退するのもだいぶ慣れ、時間に余裕を持ってホールにつけるのが何となくうれしい。
電車の座席に座って居眠りをし、少し体力回復させることもできるし。そういえば合唱団に入っていた頃、たまに先生が冗談で、「合唱の練習のある日は、あまり一生懸命仕事をしてはいけない。体が疲れすぎていると合唱の練習にならないから」と言っていましたが、コンサートに来るにも、これは結構的を射ているのではないかと思う。 さて、今回は2回目の来日となるクス・カルテット。
私は、前回聞いていないので、今回が初めて聞くカルテットになる。曲は、前半がモーツァルト「弦楽四重奏曲第1番」と「アダージョとフーガ」の間にベルク「弦楽四重奏曲」を挟んだものである。「どうも、モーツァルトとベルクでは、不釣り合いではないか」と思っていたが、3曲を通して聞いてみると、なかなかベルクがいい味を出していて面白い。そして、後半のメインディシュはベートーヴェンの「ラズモフスキー第2番」である。
コンサートの最初の曲は「モーツァルト弦楽四重奏曲第1番」曲の冒頭、第1音めから、透明感のある暖かい音がホール全体に響いた。音楽が瑞々しく、自然に美しいメロディーがあふれ出てくる感じがした。
2曲目のベルクは、この曲の美しさが前面に出た素晴らしい演奏。曲の中に自然にひきこまれ、とても音楽が聞き易い。現代音楽というと、不協和音や必ずしも快い響きの音ではないことが多い。しかし、このカルテットの演奏を聞いていると、「現代音楽だからといって食わず嫌いにならないで。この演奏なら、現代音楽も親しめるでしょう。」と、話かけられているようであった。だから私には、不協和音が、曲を引き立てるためのスパイスのようにさえ感じられた。
前半最後の曲は、モーツァルト「アダージョとフーガ」この曲を個人的には、きっちりとした重い音楽と感じていた。でも、この演奏を聞いてると、フーガがとても楽しい音楽のように思えた。そして、曲がとても新鮮。この曲を聴き終わった時、私は2曲目のベルクよりも新しい音楽ではないかという印象を持った。
後半は、本日のメインディシュであるベートーヴェン。この2楽章がめちゃくちゃに美しい。強面のベートーヴェンのどこに美しくて透明なところがあるんだろうと思った。今度、ベストなんとかというCDを出すところがあったら、このカルテットでこの楽章を演奏したものを入れて欲しい。この曲のフィナーレはとても上品で熱い演奏であった。
アンコールは、バッハ「我は悩みの極みにありて」(オルガン曲。ライプツィヒコラール集より)である。
このカルテットを聞いて感じたのは、アンコールのバッハであれ、モーツァルトであれ、時代に関係なく、音楽が新鮮に聞こえた。クスカルテットをこのホールで聞けてよかった。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#46〉
クス・クァルテット
Homage to Mozart-モーツァルト生誕250年に寄せて
日時: 2006年2月22日(水)19:15開演
出演者:クス・クァルテット
[ヤナ・クス/オリヴァー・ヴィレ(Vn)、
ウィリアム・コールマン(Va)、フェリックス・ニッケル(Vc)]
演奏曲:
モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80
ベルク:弦楽四重奏曲作品3
モーツァルト:アダージョとフーガ ハ短調K.546
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調作品59の2「ラズモフスキ-第2番」
クス・クァルテット
Homage to Mozart-モーツァルト生誕250年に寄せて
カルテットは自分でも友人たちと演奏して楽しんでいるのですが、4人で作る音楽は大人数のオーケストラや、たった一人のソロとはまた違った音楽の世界が広がります。4人で一つになったり、2対2になったり、1対3であったり・・・。難しくもあり、楽しい空間です。ですが、今回のプログラムは全く聞いたことがなく、しかも予習ができなかったので、直感による感想ということになり、その楽しさをお伝えすることがきっと十分ではないと思いますが、お許しください。
<モーツァルト: 弦楽四重奏曲第1番ト長調 K.80>
この曲は、多数の弦楽四重奏曲を書いているモーツァルトの記念すべき一曲目のカルテットの曲です。1770年に作曲された、とあるので、1756年生まれのモーツァルト、14歳の時の作品です。今の日本でいえば中学生でこんな曲を作ってしまうとは、天才とは恐ろしいものです。
それを演奏するのは、たまたま聞きにきていた知人曰く、「上手すぎる」クス・クァルテットのンバーです。昨年12月に同じこの第一生命ホールで聞いたミロ・クァルテットとはまた違った音がします。ミロ・クァルテットはどちらかといえば、全体的に軽やかな印象でしたが、クスは第一音から、とても重厚な響きが聞こえたかと思うと、躍動感溢れる演奏にぐっと引き込まれました。
<アルバン・ベルク: 弦楽四重奏曲 op.3>
日本でも人気のあるアルバン・ベルク四重奏団の名前の由来となっているアルバン・ベルクの四重奏曲ですが、ベルクの曲自体初めて生で聞きました。予習の予習でCDのネット販売のサイトで、1分弱、一部を試聴したのですが、まったくそこからは全体もつかめず、いったいどんな曲かとある意味恐れていました。なんといってもベルクの時代の曲はいまだ私の中では"現代曲"なのですから。
案の定、チャイコフスキーや、ドヴォルザークのように、メロディーを追っていけるようなフレーズはありません。しかし、スルタスト(指を押さえ込まず、弦に触れただけの状態で弦を鳴らす奏法)を効果的に使ったりして、混沌とした音楽が広がっていきました。シェーンベルク、ベルクといった作曲家の無調、12音技法については、よく分かりませんが、この四重奏曲が作曲された数年後には第一次世界大戦が始まっていたことなどを思うと、作曲という手段を用いて、世相を表そうと考えたりしたのかしら、と少し想像が膨らみます。
<モーツァルト: アダージョとフーガ ハ短調 K.546>
モーツァルトにしては重い曲、という印象です。モーツァルトといえば、やはり軽やかで、明るくて、楽しい、というのが私の中での大雑把なイメージですが、短調の曲を聞くとき、天才に色々悩みはあったわけで、モーツァルトの影の部分を感じます。
<ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調 op. 59-2「ラズモフスキー第2番」>
昨年のミロ・クァルテットはベートーヴェンのカルテットの初期の作品を一夜で一気に演奏したわけですが、これらはアマチュアでもなんとか演奏できる、と言われており、自分自身でも少し演奏したことがありました。だから、という訳ではありませんが、弾いていても比較的分かりやすく、楽譜もすっきりしています。ですが、このラズモフスキーあたりになると、かなり構成も複雑になり、聴いていても難しいのだろうな、と感じましたが、それがベートーヴェンの作曲家としての成長でもあるのでしょうね。それにしても、1stのクスさんはとても小柄なのに、ぐいぐい演奏を引っ張っていく姿には圧倒されました。
ところで<クァルテット・ウェンズデイ>には、いつもカルテットを楽しむために、とプログラムに手作りのサブテキストが添えられています。そこに、この曲の2楽章にはBACHの名前が織り込まれている旨が書かれていました。折角のサブテキスト、そこを聞き逃すまい、と必死に聴いていたお蔭か、BACHを聴くことができました。テキストのお蔭で、ベートーヴェンのいたずらに楽しむことができてよかったです。
さて、最後に。演奏内容とは関係のないことですが、このクス・クァルテットも、プログラムのエッセイにもありました、クスと同じくアルバン・ベルク四重奏団に学んだベルチャ・カルテットも、1stバイオリンが女性で、その女性の名前をグループの名前をしているのは、同性として、ちょっと嬉しくもあり、益々の活躍を期待せずにはいられません。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#46〉
クス・クァルテット
Homage to Mozart-モーツァルト生誕250年に寄せて
日時: 2006年2月22日(水)19:15開演
出演者:クス・クァルテット
[ヤナ・クス/オリヴァー・ヴィレ(Vn)、
ウィリアム・コールマン(Va)、フェリックス・ニッケル(Vc)]
演奏曲:
モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80
ベルク:弦楽四重奏曲作品3
モーツァルト:アダージョとフーガ ハ短調K.546
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調作品59の2「ラズモフスキ-第2番」