育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
報告:須藤久貴/大学院生/第1部むんちぎ組・第2部2階C1列1番
投稿日:2006.03.31
去年に引き続き今年も「育児支援コンサート」を聴くことができた。クラシックの西洋音楽がメインだった前年とは対照的に、今回は日本音楽集団による日本の伝統楽器を用いた演奏会であった。
第1部ではまず、子どもたちは4つの音楽スタジオに入り、年齢別に音楽体験をする一方、大人たちはホールで別プログラムの演奏会を楽しむ。そして第2部は大人と子どもが一緒に音楽を聴きあう、という流れだ。前半の第1部は、6歳児のむんちぎ組の様子を見学させてもらった。
始まる前のスタジオでは、サポーターの皆さんが忙しく熱心に働いていた。靴を脱いで中に入ると、子どもたちは楽しそうに折り紙をしたりサポーターの方と一緒に絵本を読んだりしている。この演奏会が、多くのサポーターに支えられて成り立っているということを改めて実感させられる。
3時を回ったころ、むんちぎ組(年長組)に三味線の山崎千鶴子さんが現れた。赤い布の上に座っていきなり激しく弦を打ち鳴らし始めると、各々の遊びに夢中だった子どもたちは「何だろう?」という表情で山崎さんへ眼差しを向ける。テンポが速まるにつれ、30数人ほどの子どもたちは三味線を食い入るように見始めた。曲が終わると山崎さんは三味線を「江戸時代のギター」と説明した。次に彼女が弾き始めた曲は、どこかで聴いたことがあるな、と思ったら「千と千尋」のテーマだった。「みんな歌ってね」と山崎さんは言って、サポーターの方も熱心に歌っていたし、三味線の伴奏もきれいだな、と僕は感じたけれど、子どもたちの多くはこの曲を知らなかったみたいだったので、ちょっと残念だった。
次に「江戸時代の曲をみんなで歌ってみましょう」と、みんなに「おてもやん」の歌詞カードを配り、弾き語りをしてみせた後で、唄の意味や音楽を分かりやすく山崎さんは解説された。唄いながら「おてーもーやーーあ、あん」とこぶしをきかせたり、音楽なしの語りの部分を「ラップのようなものです」と説明したり、リズムの面白さを強調しながら、子どもたちの興味を引くように工夫されていたと思う。でも、6歳の子どもたちにはやや難しかったかもしれない。独特の節の唄い方はなじみにくかったのか、唄の部分では子どもたちの声は小さく、語りになると急に声が大きくなったので、笑ってしまった。
後半は三味線を実際に試し弾きしてみるワークショップだった。去年、楽器体験は(ブームワッカーを使ったひとつのスタジオを除いて)ほとんどなかったが、今年は実際に音を鳴らしてみるということに重点が置かれていたように思う。ふたつのグループに分かれて、ひとりずつ山崎さんは右手のバチの持ち方、左手の弦の押さえ方を丁寧に教えてまわり、それぞれ音色の違いを実際に弾くことで、子どもたちに体験させていく。ひとりにつき二、三分かけているから当然、時間はかかるし、自分の番でない子たちは騒がしくなったり遊んでいたりもしたのだけれど、各々ひとりずつ三味線にじかに触れるという体験をすることができた、という点をより評価すべきだと思う。
もちろん子どもたちは初めて三味線音楽に接しているのだから、すぐに音楽を理解するというわけには行かないだろう。むしろ大事なことは、これが子どもたちにとって三味線に接する最初のきっかけとなったということである。いまは分からなくとも、いつか小さいころに三味線に触れたという経験があったことを思い出すことがあれば、人生の奥行きのひとつになるかもしれないのだから。
第2部「みんな一緒のコンサート」では、まず吉松隆≪星夢の舞≫から5曲演奏された。吉松隆は、邦楽器で演奏してもやっぱり吉松隆だなあと分かる。メロディーが美しくて、感傷の波にさらわれる心地がする。拍子木を大きくしたような木板を豪快に打ち鳴らす<点々>や、笛の奏者や三味線の奏者が立ち上がってリズムよく演奏する<舞戯之舞>といい、聴いているだけで楽しくなる。
最後に「ヘチと怪物」という韓国の絵本が、朴範薫(パク・ポンプン)作曲の<日本楽器によるシナウイ>に乗せて、佐々木梅冶さんが感情こめて朗読された。話の内容と絵の雰囲気は、「日本むかし話」で言えば、後半の第2話の怖い方の話という気がした。太陽の神ヘチがパクチギ大王などの四兄弟に太陽を盗まれた場面に差しかかると、会場の子どもたちも静まり返っていたのが印象的だった。
今回の育児支援コンサートでは、去年のスタンダードなクラシックコンサートとは趣向を変えて、知っているようで知らない日本や韓国の音楽・文化を見つめるきっかけになったのではないかと思う。本来、身近であるはずの日本の三味線だって実際のところ、大人の僕でもあまり知らないわけだから。そのため第1部のスタジオは、山崎さんの解説に目からうろこという思いだった。「おてもやん」は、子どもたちは歌詞の意味もよく分からぬまま口ずさんでいたであろうけれど、大人になってから実はこの唄がダメ亭主を揶揄した曲だと気付いたら、さぞかし愉快だろうと思う。ともあれこうした演奏会の活動を地道に続けていくことによって、草の根から私たちの音楽の裾野が広がっていくと期待したいと思う。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート17〉
育児支援コンサート~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2006年3月26日(日)15:00開演
出演者:日本音楽集団、佐々木梅治(劇団民藝/朗読)
演奏曲:
第1部
・子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象/
4歳児~6歳児まで、4つのスタジオにわかれ、演奏家と一緒に楽しい音楽体験をします。)
・大人のためのコンサート(小学生から)
~楽しい初めての邦楽器アンサンブル~
長沢勝俊(作曲):二つの舞曲より
三木稔(作曲):「四季」ダンス・コンセルタントⅠ、
指揮者による楽器紹介つき。(演奏楽器:笛、尺八、三味線、琵琶、十七絃、打楽器)
第2部
・みんな一緒のコンサート
音楽と韓国の絵本「ヘチとかいぶつ」(全国学校図書館協議会選定)