エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
報告:津布楽 杏里 (つぶらく あんり/小学校音楽科特任講師、ピアニスト)/座席:1階9列30番
投稿日:2006.03.31
3月末にしては肌寒く感じられる春風の中、オフィス帰りのサラリーマン、OLの足並みとは逆方向に歩を進めた。第一生命ホールに向かうためである。僕にとって第一生命ホールは、残念ながらあまり馴染みのない場所である。その理由は多々あるのだろうが、やはり一番の理由は、自宅から近いとは言えないからであろう。そのことも手伝ってか、第一生命ホールを含めた「晴海」という場所がとても新鮮に感じられた。
この日に第一生命ホールで行われた催しは、メンデルゾーンの弦楽四重奏を二回に分けて全曲を演奏するという企画の第一回目である。プログラムは、第1番変ホ長調作品12、第5番変ホ長調作品44―3、第4番ホ短調作品44―2。演奏者はエルデーディ弦楽四重奏団。昨今のクラシック音楽会ではあまり見られない、珍しいプログラムではないだろうか。弦楽四重奏には門外漢である僕にとって、この日のプログラムは少し物足りなく、また不安に感じていた。しかしその不安は演奏が始まった途端に消え去った。弦楽器をCDなどではなく生で聴く機会が多いとは言えない僕にとって、弦を擦る作業は非常に興味深く、その瞬間は心地よい緊張感を覚えた。まるで細い糸を紡いでいくかの如く繊細であった。ヴァイオリンの音色は優しさを感じさせ、聴いていて嫌みのないものであった。ヴィオラの音色も暖かみがあり、頭脳的であったように感じた。また、弦楽四重奏を支えるチェロの響きにも感銘を受けた。長い持続音で支えていることもあれば、ヴァイオリンに負けないような早いパッセージもこなすチェロは、見ていて、聴いていて心強かった。特に早いパッセージの場面は、バッハなどの音楽を好む僕にとっては、非常に新鮮であった。
弦楽四重奏とは耳を驚かすような大きな響きはなく、少し耳を傾けて聴く音楽であろう。力強いオーケストラにはない優しく包み込むような響きが弦楽四重奏にはあるのではないだろうか。弦をハンマーで叩くピアノと違い、ヴァイオリンに代表される弦楽器からは、直接的ではない暖かさを感じた。勿論ピアノの響きにも様々な暖かさはあるのだが。
演奏前に感じていた恥ずかしい不安などのことを忘れさせる優しく包み込むような、品の良い演奏会であった。
アンコールが終わり、席を立ち出口に向かう中で心暖まる光景が見られた。聴衆の多くの人々がロビーなどで談笑しているのである。連れ添って来たわけでもない聴衆たちが、これまでの演奏会や催しなどで顔馴染みになり、談笑しているのであろう。このような光景を他のホールではあまり見受けられない。
音楽会や催しを通して顔馴染みになり、人間通しの暖かな交流を育んでいくことこそが音楽会などの魅力の一つではないか、とふと考えさせられた。そんなことを頭に浮かべながら暖かい気持ちになり、ホールを後にした。動く歩道に乗る気にもならず、馴染みの薄い「晴海」からの夜景を見ながら演奏会の余韻、暖かな光景を思い出しゆっくりと家路に向かった。これからはこの「晴海」と顔馴染みになるかも知れないと感じた。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#47〉
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会1
日時: 2006年3月29日(水)19:15開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(Vn)、桐山建志(Va)、花崎薫(Vc)]
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12、
第5番変ホ長調作品44の3、第4番ホ短調作品44の2