2008.6.30
〈フェスタ第2日 #67〉死をめぐる断章
死をめぐる断章 「死をめぐる...」というなんだかおどろおどろしいフレーズにドキドキしながら、 初めてこのホールにやってきました。 きりさめの降るあいにくの空模様でしたが、6月まぢかの午後六時はまだまだ明るいですね。 海を渡る動く歩道がきれい。 ビルの入り口へとガラス屋根がつづいていて、それほど濡れずにたどり着くことができました。
そよ風が吹く晴れた日は、きっと開放的で気持ちいいんだろうな。
6日間にわたるフェスタの2日目という為か、天気に恵まれなかった為か、客席は少しまばら。 曲目や副題のイメージもあるのかな? ちょっともったいないなぁ。 こういうときは他のお客さんの行動がはっきり見えるもので 休憩時間中の客席反対側の男性二人組のおしゃべりが妙によく聞こえました。 自分も友人と来るときは気をつけようっと。
さてさて、 プログラムに軽く目を通しているうちにいよいよ開演。 前半のステージはバルトーク。 ヨーロッパを離れる直前に書かれた曲だそうで、全体を悲しみのメロディが貫きます。 ううっ、これは初心者にはちょっとつらいかも。 でも随所に東欧の素朴な旋律が散りばめられて、バルトークの故郷への愛情がうかがえます。 カルテットの女性メンバーのドレスがどことなく異国情緒が感じられて素敵でした。 もうちょっとよく見ようと身を乗り出したのですが、 2階席の角は椅子の向きが横を向いてしまっていて舞台が見えづらいのが残念。 2階席ならステージ近くか正面の席がお勧めです。
長めの休憩でコーヒーをいただいてから、後半のベートーベン。 こちらもはじめて聴く曲でしたが、とてもベートーベンらしい勢いのある演奏で ノリノリで聴き入ってしまいました。 「死の断章」という名の、生への感謝が伝わってきます。 演奏会のタイトルが見事にうらぎられた感覚でした。
弦楽四重奏は、一人一人の個性を見せながら、 アンサンブルがしっかりと見えるのが楽しいですね。
4人だけで1時間半、最後まであきないかな、と心配していたのですが あっというまにすぎてしまいました。
公演に関する情報
<クァルテット・ウィークエンド08-09 フェスタ>
〈フェスタ第2日 #67〉死をめぐる断章
日時: 2008年5月31日(土)18:00開演
出演者:ボロメーオ・ストリング・クァルテット
ニコラス・キッチン/クリストファー・タン(ヴァイオリン)
元渕舞(ヴィオラ) イーサン・キム(チェロ)
演奏曲:
バルトーク:弦楽四重奏曲第6番Sz.114
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番イ短調op.132
〈フェスタ第3日 #68〉ときめきと憧憬
ナマの音を聴く喜び
まだ現役の企業戦士のころ、ひと時の癒しを求め、月1回のペースでクラシックコンサート会場通いをし、感動と癒しに接することで明日への精神的糧をしていました。企業のメセナでクラシックコンサートが数多く開催されていた時代でした。
その後一戦を退き、精神的にも時間的にも余裕ができ、たまに安物のCDコンポで音楽を聴く日々に何の疑いも抱かず過ごしていました。
久し振りだった当日、初めての会場にも関わらず、妙な懐かしさを覚えました。開演してすぐの、一瞬の静寂の中、弓が弦をこする独特の音を耳にした瞬間、深く心に響きました。
「やっぱりナマは好いなあ」
演奏者の技術は当然ながら、会場の音響効果の良さに感心しました。
当日のプログラム意図からすると、初日から続けて聴かないと、今ひとつソノ意図が理解できないのではないか、と思うほどで、小生には少しレベルが高すぎる気がしました。
聴き手してのレベルの低い小生に、かの演奏に対する批評はできませんが、演奏者としての完成度の高さと、ホールの音響に感激致しました。
また弦楽六重奏を聴くのも初めての体験でしたが、弦楽器がたった2丁増えただけなのに、あの繊細な中にもダイナミックな音には驚きでした。
最後まで洗練された演奏に浸り、心地よさを感じながら帰路に就きました。
これを機会にクラシックのコンサートに通い直すのも好いかもしれない。
公演に関する情報
<クァルテット・ウィークエンド08-09 フェスタ>
〈フェスタ第3日 #68〉ときめきと憧憬
日時: 2008年6月1日(日)18:00開演
出演者:ボロメーオ・ストリング・クァルテット
ニコラス・キッチン/クリストファー・タン(ヴァイオリン)
元渕舞(ヴィオラ) イーサン・キム(チェロ)
クァルテット・エクセルシオ
西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン)
吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)
演奏曲:
ハウェルズ:ファンタジー[演奏:クァルテット・エクセルシオ]
バルトーク:弦楽四重奏曲第1番op.7 Sz.40、
チャイコフスキー:弦楽六重奏曲ニ短調op.70「フィレンツェの想い出」
[+吉田有紀子(ヴィオラ)、大友肇(チェロ)]
〈フェスタ第6日 #71〉昼下がりの19世紀
この演奏一曲にて千秋楽―メンデルスゾーン弦楽八重奏曲―
グァルネリ・デル・ジェス作「バロン・ビッタ=ゴールドベルグ」。男爵の尊称を以て遇される名ヴァイオリンを携えた米国の俊英ボロメーオ・ストリング・クァルテットと、春秋に富む我国屈指の四銃士、クァルテット・エクセルシオ......SQWフェスタを締めくくるに相応しいこの競演、否、大一番が今や始まろうとしている。曲はメンデルスゾーン=バルトルディ不朽の名作、弦楽八重奏変ホ長調。二つの弦楽四重奏ががっぷり四に組むのに此程相応しい曲はない。さぁ、どんな勝負を聴かせてくれるのか......堂内に居座る全ての人はこれから展開されるであろう丁々発止を固唾を飲んで待った。
鞭声粛々夜河を過るが如き気迫と緊張を漂わせ乍、強者達が入場して来た。暫しの静寂の後、その張り詰めた空気を一気に解放する様な冒頭で一頭飛抜けて鳴る男爵の響きに私は唖然とした。それは既にヴァイオリンの音でなく明らかに人の声、それも威厳に満ちた貴人の肉声なのだ。流石は男爵の御者を務めているボロメーオの面々、主人を気持ちよく語らせる為に絶妙なバランスで会話を取り持つ。その持て成しを受け一層尊厳を増した男爵の威風に圧倒され、土俵際へ追い遣られたエク......あ、危ない、と思った正にその時である。私は第二チェロを務める大友氏の背中に気焔が上がるのをはっきり見た。そして譜面台越しに火の付いた様な両の眼を同士にしっかと差し向け乍
「負けてなるものか。ここが働き処ぞ。皆、押せ押せ、押し捲れ」
大音声の叱咤が籠められた目差しに、エクの三人は奮い立ち、捲土重来を期し突き進み始めた。対する男爵は流石、百戦錬磨の古強者。好敵手いざご参なれと、その怒濤の様な猛進に単騎なりとも立ち向かおうとする。その雄々しさ、その逞しさに名器の名器たる所以を感じたのは私丈ではないだろう。私はその火花の散る様な凄まじさに圧倒され乍、エクの迸る情熱と男爵の潔さに目頭を熱くした。
二つのクァルテットという境を越えた八人の奏者が、持てる全ての力と業を尽くし華々しい終結音を奏し終えた刹那、聴衆の感激が賞賛の嵐となって舞台上の勇者達を襲う。その歓呼は天上を衝き、拍手は驟雨が如く堂内に響き渡った。嘗てこの第一生命ホールで此程迄の喝采があっただろうか。少なくとも私はそれを知らない。
こう云う演奏会に立ち会うと心底草臥れる。然し、此こそ生きた音楽の醍醐味なのだ。私は真っ赤になった掌を握りしめ、気持ちの良い疲労感に浸った。
公演に関する情報
<クァルテット・ウィークエンド08-09 フェスタ>
〈フェスタ第6日 #71〉昼下がりの19世紀
日時: 2008年6月8日(日)15:00開演
出演者:ボロメーオ・ストリング・クァルテット
ニコラス・キッチン/クリストファー・タン(ヴァイオリン)
元渕舞(ヴィオラ) イーサン・キム(チェロ)
クァルテット・エクセルシオ
西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン)
吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)
演奏曲:
シューベルト:弦楽四重奏曲第12番ハ短調D.703「四重奏断章」[演奏:クァルテット・エクセルシオ]
シューマン:弦楽四重奏曲第1番イ短調op.41-1
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲変ホ長調op.20[+クァルテット・エクセルシオ]