2007.1.30
コンチェルト・コペンハーゲン
報告:1階-6列-28番 虎トン
投稿日:2007.01.30
モルテンセンさんは、チラシで見る限り若くて戦闘的な感じすら抱いていましたが、実物はけっこうおじさんでオデコが広く、コッカースパニエルのようでした。また演奏中の表情からすると、アシュケナージの痩せた弟って感じもしました。
指揮・チェンバロ担当のご本人入れて10人の奏者による演奏開始まえの調弦がまずたいへんそう。独特のやり方で念には念を入れていました。
2ndVnの3人めの金髪の若めのお姉さんがかわいかった。女性はほかに、同じパートのベテランさんのみでした。
第1番の始めは有名でした。そのあと、最近はいつもそうなので困るのですが仕事の疲れが出るらしく、2曲めの第4番終わりまでほぼ意識がありませんでした。
ここで休憩20分。気がつくとお腹がしくっていてトイレへ。すると、何とトイレがウォシュレットだったのです。ふだん通っているホールではありえません!洗浄水の温度も適切、止めたときの水切れがまた古楽奏法のごとくスパッとしたキレ味。ただ残念だったのは、洗面台の方。お湯が出ない。冷たーい。おかげさまで眠気は飛んでいきました。
後半はお目当ての第5番から。これだけは奏者が6人でした。最初から聴いたことあり !期待していた第2楽章ですが、演奏上の修飾音が多すぎてあまり好みではありませんでした。モーツァルトのフルート四重奏曲第1番第2楽章のような透明感を求めていたので期待とは反しました。おしまいは第3番。10人に戻りました。これもすごく耳なじみのある曲。それというのもヴァイオリン協奏曲からのアレンジだということを知ってなるほどーと思いました。これの第2楽章もいい曲です。
この曲全体の演奏はプログラムの最後にふさわしい充実したもので聴き応えがありました。
アンコールが1曲ありまして、うぉーこれも聴いたことのあるいい曲だーとうれしかったです。帰りがけにロビーのボードで確かめると「2つのVnのための協奏曲」の第2楽章でした。
この日は素敵な第2楽章が並んだおかげでたいへんいい気分でした。
終演後はメンバー一同が参加してのサイン会もあって、横文字まるでダメなわたしなので尻ごみしたのですが、せっかくですからと並ばせていただいて、図々しく笑顔だけで会話しました。なまえが「光」を意味する男性奏者がいらっしゃり、漢字で書かれたのにはびっくり。
お気に入りのかわいいお姉さんは近くで見るとけっこうお姉さまで、ちょっとイメージが違いました・・。
★虎トンさん profile:都内在住の会社員です。ふだん聴くのはオーケストラばかりです。第九はじめ、合唱をちょくちょくやります。クラシックは好きなだけでけっして詳しくないのであまり皆様のお役に立てないだろうと思いつつ・・
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈TAN's Amici Concert〉
コンチェルト・コペンハーゲン
日時: 2007年1月22日(月)19:15開演
出演者:ラース・ウルリク・モルテンセン(指揮・チェンバロ)
コンチェルト・コペンハーゲン
演奏曲:
J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第1番ニ短調BWV.1052/同第4番イ長調BWV.1055/
同第5番へ短調BWV.1056/同第3番ニ長調BWV.1054
番外編:「実は,大人も弾いてみた~い! 弦楽器体験 for TANサポーター」Vol.1
報告:齋藤健治/月島在住・編集者/TAN会議室
投稿日:2007.01.30
「ちょっと,面白い話があるんですよ」
Aさん(サポーター/モニター)は,にこやかに語りながら歩いてきた。
それは昨年の12月13日のコンサートでの幕間でのことであった。
「この前(注:2006年12月1日),佃児童館でクァルテット・エクセルシオのアウトリーチがありましたよね? その時に,"サポーターによる,サポーターのための楽器体験"ができたらいいんじゃないかって......。そんな話が起こってきたんですよ」
この企画の柱は大きく,以下の2つとなる。
1.ヴァイオリンはコンサートでは聴いているが,弾く機会は少ない。大人も愉しめる
2.楽器体験アウトリーチで関わる際の,サポート実用テクニックを学ぶ
「子どもたちはアウトリーチの時に楽器体験をしていますが,その様子を親が羨ましそうに見ているんですよ。大人だって楽器を弾きたいんだ。サポートする側にいて感じていました」と言うのは,サポーターのYさん。
サポーター間の話合いの中から出てきた,サポーターのための楽器体験企画は,このようなきっかけから始まった。
* * *
当日使用した会場は,TAN事務室横の会議室。金銭的な負担がかからずに大きな音を出せること,という視点で選ばれた(開催日は土曜日であるため,事務室横の会議室で十分可能であった)。サポーターによる企画であるが,TANはこうした点からアドバイスを行っていった。
司会進行と指導にあたったのは,前述のAさん,そしてOさん。両氏は大学時代の学生オーケストラの先輩・後輩にあたり,現在でもアマチュアとして演奏活動を継続中。TANのサポーターとしても活躍している。
用意された楽器は,JPモルガンがTANに提供しているヴァイオリンとヴィオラ。それに両氏の愛器が加わった。
プログラムは次の4段階を準備。
1.デモ演奏
2.ヴァイオリンの構え方
3.音を出そう!
4.弓のアップ・ダウン。そしてロング・ボー
楽器演奏には興味があるけれど,触るのは初めてである――,このような層を想定して考えられた内容である。配布された資料についても,初心者向けの解説書をYさんが編集し,楽器の構造,楽器の構え方,弓の使い方,といったものがまとめられていた。
* * *
集まった受講生は,サポーター,TAN職員と,記録者である私を含め,計8名。
スタートは講師によるデモ演奏。Oさんのヴァイオリンによる「愛の挨拶」「アルビノーニのアダージョ」,Aさんのヴィオラによるブラームス弦楽六重奏冒頭が流れる。
いよいよ楽器体験が始まる。
ステージを見る限りでは,肩と顎で楽器をはさめば運指ができるもの......と思いきや,手強い。すかさず講師がかけ寄ってくる。
「ふだんとは体の構造が違ってきますが,指を動かすためには楽器を床と水平に。ほら,今の構え方ですと腕が上がっていますでしょ......。そうそう,そんな感じ」
このように講師は手取り足取り教えている。
「ほらっ! 手を離しても大丈夫。できた!」
と基本通りにヴァイオリンを構えることができた受講生は,ぴょんぴょんと跳びはねている。
続いて弓の使い方を教わった後,開放弦でのアップ・ダウンの練習。
音が鳴る。ぎこちないながらも音が鳴る。受講生は夢中で音を鳴らす。
「ちょっと弓の持ち方を直しましょうか。中指と薬指で握り,親指はかけるように。人さし指と薬指は自由にしておきましょう」
一人ひとりの間を回る講師の指摘を受け,音はいっそう大きくなっていく。
* * *
「まさか,和声まではいかないよねえ」
「時間もないでしょうし」
「そうだよねえ......」
開催1週間前,今回の企画の中心者であるAさん・Yさん,そしてOさんの間では,準備にあたってこのような会話が交わされていた。プログラムの予定時間は16時から17時30分である。
しかし当日の受講生たちのやる気は,このような思惑をはるかに超えていった。
講師の指示によって一人ひとりが和声を構成するトーンをそれぞれに出すことで,部屋の中にアンサンブルが生まれる。
さらに「ド・レ・ミ,を弾きたい」と,企画者たちが予想もしていなかった声があがってきた。音程をならい,たどたどしくではあるが,「ド・レ・ミ」が部屋の中をかけめぐっていった。
「残念ですがお時間となりました」
講師がこう告げても,受講生はなかなか楽器を手放さない。それどころか改めて弾き方をならう姿も見られる。
タイム・アップ。ようやく楽器はケースに戻される。だがそこでも楽器や弓のケアの仕方を教わっている受講生がいる。
* * *
お気に入りの一曲を弾くことができたら......。ふだんは仕事や家事に追われ,そんな余裕を生み出すことは難しいかもしれない。しかし,ほんのちょっと時間をやりくりすることができたら,"自分で音を創る"という,新しい喜びが沸き上がってくるのではないだろうか。
Vol.2も企画進行中とのことだ。
公演に関する情報
番外編:「実は,大人も弾いてみた~い! 弦楽器体験 for TANサポーター」Vol.1
日時: 2007年1月20日(土)
クラシックはじめのいっぽ プレ企画1 ヴァイオリン編
報告:音楽ジャーナリスト 渡辺和2階R1列40番
投稿日:2007.01.30
お昼前の演奏会というもの
ふと気付くと、もう11時を過ぎている。本日の「はじめの一歩」シリーズ・プレコンサートは、運河向こうの第一生命ホールでの開演は11時半なのである。慌ててチャリチャリと自転車を転がし、駐車禁止だけどズラリと銀輪が並ぶトリトン・ブリッジの横に放り出し、エスカレーターへ。昼前のトリトンスクエアのビジネス棟ロビーは、ランチ販売の屋台が並び始め、夕方に第一生命ホールに向かうときにはまるで感じられない巨大オフィスビルの昼時気分が横溢している。現役サラリーマンのエネルギーと、若いOLたちの華やかさ。夕方のひけどきとはまるで違う場所だ。そんな風景を眺めながら、なんとか間に合ったとエスカレーターを昇っていると、顔なじみのTANサポーターさんがやってくる。ロビーコンサートじゃないきちんとした演奏会がこんな時間にあるなんて、調子が狂っちゃいそう、と笑っている。
確かにその通り。とはいえ、このような「平日午前中のクラシック音楽定期演奏会」は、アメリカのオーケストラでは珍しいことではない。都市インフラとしてのしっかりした基盤を有するアメリカのメイジャーオーケストラは、ひとつの定期演奏会で総計3回から4回の公演を行うのが普通。そのうちのひとつが、意図的に平日午前中から昼間にかけての時間帯に配されることが多い。例えば、筆者がミネアポリスに滞在中の先週木曜日にも、かつて大植英次が音楽監督を務めていたミネソタ管弦楽団は、午前11時からの定期演奏会を行っていた。演目は翌日金曜日や土曜日とまるで同じ、フルコンサートである。ボストン響やNYフィルにも同じような定期がある。ご隠居や夫人たち、養老院からバスで乗り付ける団体客、黄色いスクールバスの子供達など、この時間帯でないとコンサートホールまで来られない音楽愛好家は沢山いるのだ。
日本でも、戦後の娯楽のない時代に労音などクラシック音楽鑑賞団体が盛況だった頃は、平日昼間の公演はかなりあった。が、それ以降は、昼間演奏会がシリーズ化されてた例は殆どない。歌舞伎やら商業演劇など主婦層が大事な観客となっている業界では当たり前の公演形態なのだが、聴衆のマーケッティングは二の次、弾く側の事情が優先される芸術至上主義の日本のクラシック音楽界では、どうも馴染まない形態だったようだ。20年前にオープンした当時のカザルスホールで「ティータイムコンサート」という平日午後2時の人気演奏会シリーズが10年ほど続いた例があるくらい。津田ホールでも90年代後半から年間に3回ほど昼間の本格的な室内楽シリーズが行われている。クラシック音楽にも意識的にマーケティングの視点が導入されるようになった21世紀になると、ホール(オーケストラが、ではないのが興味深い)が新客層開拓の手段として主催公演を平日昼に行うことも始まり、オペラシティの東フィル昼定期、浜離宮朝日ホールのランチタイムのソリストシリーズなどが行われ始めている。
第一生命ホールとしても、2001年秋からのオープニングシリーズの中に「はじめの一歩」という新規聴衆開拓シリーズが用意され、昼間の入門編室内楽シリーズに向けた種は蒔かれていた。様々な地域活動や昼間のロビーコンサートでの聴衆の動きを5年間に亘って眺め、「ライフサイクルコンサート」という聴衆層をハッキリ絞り込んだシリーズのひとつとして本格的に始動することになったのは喜ばしい。
さて、11時半である。客席は半分ほどだろうか。夜のコンサートでもお馴染みの顔ぶれもいれば、見かけない顔も。想像していたよりも若い主婦層が少なかったのは、今後の課題かもしれない。
東京中の室内楽ホールに搭乗しているヴァイオリンの矢部達哉氏だが、考えてみればこのホールへの搭乗は始めてだ。若いピアニストを伴って登場、まずはモーツァルトのト長調ソナタである。昨今流行の古楽系の関心とは異なる、あくまでもモダンなモーツァルト。「言葉」に拘りすぎた意図的なフレージングばかり耳に残る音楽ではなく、旋律楽器としてのヴァイオリンの特徴を素直に生かした音楽である。とはいえヴァイオリンばかりが際立たないのは、楽譜に印される「ヴァイオリンのオブリガート付きピアノソナタ」のバランスを重視した判断なのだろう。ピアノが完全に主導権を握ってしまっても良い音楽だが、そこまではしないのは、若いピアニスト側の配慮なのかしら。
続くフォーレの小品では、微妙なポルタメントとも言えぬ上品なポルタメントと、線によるヴァイオリンの音色の違いをはっきり際立たせるような繊細な音楽。「タイスの瞑想曲」も、余韻を大切にしたもののあはれの音楽だ。バリバリ弾いて抜けるタイプとはひと味違う、矢部達哉のソリストとしての特徴をはっきりさえてくれる。
ここで、「おはようございます」と矢部氏からの挨拶。こんな早い時間の演奏会は珍しい、誰もが一度は耳にしたことがある、ヴァイオリンの中で最も美しく、最も知られている曲を選んだ。ヴァイオリンは基本的には旋律楽器だけど、最後には技巧を味わっていただける曲を選曲した、等々。続くベートーヴェンの「春」では楽章の間に拍手を下さっても結構です、と述べたあとに、お気に召したら最後に大きな拍手を、と笑いながら付け加えた。楽章の間に拍手をするな、と強要しない姿は、ある種の自信なのかしら。
ヴァイオリンの歌に、ピアノの左手の動きが明快なバスを付けていく。プログラム最後のラヴェル作「ツィガーヌ」も、やはりこれ見よがしの音楽ではなかった。アンコールには、弱音器を付けた「亜麻色の髪の乙女」。盛り上げて終わるのじゃあなくて、ホールの中に消えていく余韻を味わう音楽だったのは、いかにも矢部氏らしい。終演は12時37分。総計1時間と少しの音楽だった。
これにブラームスのト長調ソナタでもあれば立派な一晩分ですね、と終演直後の矢部氏に声をかけると、応えて「長くないコンサートに見えるでしょ。でも、途中に休憩なしでこれだけの曲をやるから、まるでマーラーの6番を弾いたくらいの大変さなんですと」とのこと。なるほど、そりゃそうだろう。
終演後のロビーでは、明るい冬の湾岸地区を眺め、名残惜しそうな聴衆の姿が目立った。エスカレーターの下では、まだランチ弁当屋台が軒を並べている。さてと、なにを買って帰ろうかしら。今日はまだ長い。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈ライフサイクルコンサート#19〉
クラシックはじめのいっぽ プレ企画1 ヴァイオリン編
日時: 2007年1月25日(木)11:30開演
出演者:矢部達哉(ヴァイオリン)、安部可菜子(ピアノ)
演奏曲:
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調K.301
フォーレ:夢のあとに
マスネ:タイスの瞑想曲
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調Op.24「春」
ラヴェル:ツィガーヌ