番外編:「実は,大人も弾いてみた~い! 弦楽器体験 for TANサポーター」Vol.1
報告:齋藤健治/月島在住・編集者/TAN会議室
投稿日:2007.01.30
「ちょっと,面白い話があるんですよ」
Aさん(サポーター/モニター)は,にこやかに語りながら歩いてきた。
それは昨年の12月13日のコンサートでの幕間でのことであった。
「この前(注:2006年12月1日),佃児童館でクァルテット・エクセルシオのアウトリーチがありましたよね? その時に,"サポーターによる,サポーターのための楽器体験"ができたらいいんじゃないかって......。そんな話が起こってきたんですよ」
この企画の柱は大きく,以下の2つとなる。
1.ヴァイオリンはコンサートでは聴いているが,弾く機会は少ない。大人も愉しめる
2.楽器体験アウトリーチで関わる際の,サポート実用テクニックを学ぶ
「子どもたちはアウトリーチの時に楽器体験をしていますが,その様子を親が羨ましそうに見ているんですよ。大人だって楽器を弾きたいんだ。サポートする側にいて感じていました」と言うのは,サポーターのYさん。
サポーター間の話合いの中から出てきた,サポーターのための楽器体験企画は,このようなきっかけから始まった。
* * *
当日使用した会場は,TAN事務室横の会議室。金銭的な負担がかからずに大きな音を出せること,という視点で選ばれた(開催日は土曜日であるため,事務室横の会議室で十分可能であった)。サポーターによる企画であるが,TANはこうした点からアドバイスを行っていった。
司会進行と指導にあたったのは,前述のAさん,そしてOさん。両氏は大学時代の学生オーケストラの先輩・後輩にあたり,現在でもアマチュアとして演奏活動を継続中。TANのサポーターとしても活躍している。
用意された楽器は,JPモルガンがTANに提供しているヴァイオリンとヴィオラ。それに両氏の愛器が加わった。
プログラムは次の4段階を準備。
1.デモ演奏
2.ヴァイオリンの構え方
3.音を出そう!
4.弓のアップ・ダウン。そしてロング・ボー
楽器演奏には興味があるけれど,触るのは初めてである――,このような層を想定して考えられた内容である。配布された資料についても,初心者向けの解説書をYさんが編集し,楽器の構造,楽器の構え方,弓の使い方,といったものがまとめられていた。
* * *
集まった受講生は,サポーター,TAN職員と,記録者である私を含め,計8名。
スタートは講師によるデモ演奏。Oさんのヴァイオリンによる「愛の挨拶」「アルビノーニのアダージョ」,Aさんのヴィオラによるブラームス弦楽六重奏冒頭が流れる。
いよいよ楽器体験が始まる。
ステージを見る限りでは,肩と顎で楽器をはさめば運指ができるもの......と思いきや,手強い。すかさず講師がかけ寄ってくる。
「ふだんとは体の構造が違ってきますが,指を動かすためには楽器を床と水平に。ほら,今の構え方ですと腕が上がっていますでしょ......。そうそう,そんな感じ」
このように講師は手取り足取り教えている。
「ほらっ! 手を離しても大丈夫。できた!」
と基本通りにヴァイオリンを構えることができた受講生は,ぴょんぴょんと跳びはねている。
続いて弓の使い方を教わった後,開放弦でのアップ・ダウンの練習。
音が鳴る。ぎこちないながらも音が鳴る。受講生は夢中で音を鳴らす。
「ちょっと弓の持ち方を直しましょうか。中指と薬指で握り,親指はかけるように。人さし指と薬指は自由にしておきましょう」
一人ひとりの間を回る講師の指摘を受け,音はいっそう大きくなっていく。
* * *
「まさか,和声まではいかないよねえ」
「時間もないでしょうし」
「そうだよねえ......」
開催1週間前,今回の企画の中心者であるAさん・Yさん,そしてOさんの間では,準備にあたってこのような会話が交わされていた。プログラムの予定時間は16時から17時30分である。
しかし当日の受講生たちのやる気は,このような思惑をはるかに超えていった。
講師の指示によって一人ひとりが和声を構成するトーンをそれぞれに出すことで,部屋の中にアンサンブルが生まれる。
さらに「ド・レ・ミ,を弾きたい」と,企画者たちが予想もしていなかった声があがってきた。音程をならい,たどたどしくではあるが,「ド・レ・ミ」が部屋の中をかけめぐっていった。
「残念ですがお時間となりました」
講師がこう告げても,受講生はなかなか楽器を手放さない。それどころか改めて弾き方をならう姿も見られる。
タイム・アップ。ようやく楽器はケースに戻される。だがそこでも楽器や弓のケアの仕方を教わっている受講生がいる。
* * *
お気に入りの一曲を弾くことができたら......。ふだんは仕事や家事に追われ,そんな余裕を生み出すことは難しいかもしれない。しかし,ほんのちょっと時間をやりくりすることができたら,"自分で音を創る"という,新しい喜びが沸き上がってくるのではないだろうか。
Vol.2も企画進行中とのことだ。
公演に関する情報
番外編:「実は,大人も弾いてみた~い! 弦楽器体験 for TANサポーター」Vol.1
日時: 2007年1月20日(土)