The Gents ザ・ジェンツ Lux AETERNA~永遠の光
報告:1F2-28 佐々木久枝(中央区勤務)
投稿日:2006.10.30
今回はグレゴリオ聖歌から黒人霊歌までの宗教面に重点置いたプログラミングでしたが、堅苦しいという従来のイメージを払拭する意欲的な演奏でした。
アヴェマリアではアーメンの幅広さやテノールの伸びやかさ、重くなくかといって軽くもないバリトンの存在感が印象的でした。また続けて歌われた曲でも変ホ音の内声部分、特にアルト部分の美しさに惹かれました。ゴンベールでは指揮がやや大ぶりになり、休止を極力控えて流れを意識した曲を自分達の中に取り入れて歌い込んでいました。絶え間なく子音のざわめきが聞こえ、キリエでの喉奥まで上がった発声で歌い出される神秘的な世界。クリステエレイソンのリレー唱部分も滑らかで、何も考えずに聴いていると中声部が実はしっかり土台を据えてアンサンブルを作っているのがよく伝わってきました。半音の刻みも心地良く、細かい音符の揺れにも彼らは声のスパイスを織り交ぜながら歌い進めていました。
続いてフランス語の主の祈りをテクストとしたデュフュフレがオルガニストとしての腕前を発揮した「われらの父よ」は彼にとっての白鳥の歌とも捉え得ますが、オルガン演奏を聴いているような心地良い不協和音のぶつかり合いが声で展開され、楽園の音楽を思わせるような不思議な安堵感を聴かせていました。プーランクは以前合唱で少し歌った事がありますが、フランス語発音で苦戦したのを思い出しました。ジェンツのメンバーはスムーズな言葉運びやフレージングで上質のアンサンブルを聴かせてくれました・・・・さすがです。一度信仰から離れたプーランクを再びカトリック信仰に引き戻したきっかけは諸々あるようですが、ルネサンスやバロックの音楽を通じての心の巡礼が大きな影響を与えているようです。
第2曲「全能なるかたよ」ではグリークラブのような幅広さで歌い出され、強音即弱音のメリハリ、タンタンターンタタターンと独特のリズムに透き通るような声音が不思議な響きを聴かせてくれました。続く「主よ、お願いです」では中声3人の切々とした歌が印象的。第4曲「わが最愛の兄弟よ」は最もグレゴリア聖歌らしい雰囲気が表されている印象でした。今回追加となった詩篇では低音の唸りと高音の細やかな節回しに聴き入りました。低音部の不思議な唸りはまるでオルガン演奏を聴いているかのようでした。聖アントニオの賛歌では強音→弱音→再び強音のメリハリ、裏拍シンコペーションの曲調も堪能しました。2曲目「イスパニアの末裔よ」のラストは現代曲のフィナーレのようで、第3曲「王に賛美が」ではトップの高音に対し他声部が中盤のバリトン・バスの強音の提起が見事で、更にコード進行がジャズ風に聴こえました。ラスト「あなたが奇蹟を求めるのなら」ではメロディが下降音形と休符の裏拍と相まって神秘さを引き起こし、弱音で収まる部分は密やかで不思議な和音の魅力に聴き入りました。
黒人霊歌はそれまで使っていた譜面台を外してメンバーが並び、よりリラックスした雰囲気で歌い進められていきました。「よい知らせじゃないか」ではアップテンポのセッションが爽やか、「イエスのもとに逃れよう」ではしんみりとしてホール内が揺れるような空気を感じ、「揺れろよ、すてきなチャリオット」ではテノール(後でアルトに)3人のメロディと他声部の装飾との掛け合い、「私は心構えしたい」ではソロが乗りに乗ってシャウトも披露、「聖霊が心に入ってくるまで歌います」では指揮者自らのソロによる"歌い振り"を披露。ギター持たせたらそのまま弾き語りライブになりそうな雰囲気でした(笑)。締めくくり「Plenty good room」でも全体的に乗りに乗ったアンサンブルを展開しており、各曲毎の拍手にも増して歓声があがりました。
アンコールはまずあの「舟歌」。哀愁帯びた前奏に続いて波の効果音等もさり気なく歌っていて、歌本編に入ると澄み切った歌声が聴き慣れた楽曲とはまた違う新鮮な響きを聴かせてくれました。伴奏部分も実に忠実に再現しており、聴衆からは笑いと感嘆の声があちらこちらから聞こえていました。続いてのビリージョエル「ララバイ」は当夜初めて聴きましたが、一節一節に心がこもっていて思わずぐっときました。
終演後のCD売り場にはたちまち人だかりが出来、更にそのそばにはついさっきまでステージにいたメンバーも現れて即席サイン会に。興奮さめやらぬ様子で帰路につくお客様を見かけ、かく申す私もサポーター仲間に「さっきから随分とテンションが高いね」と冷やかされましたが、そのぐらいこの日の演奏は印象深かったのでしょう。
オランダからやってきたイケメンはその響きにおいてもイカシた面々なのでした!!日本での開幕公演に立ち会えた私は本当に果報者です。終演後彼らに「素敵な演奏でしたよ!!」と声をかけたところ、ありがとう!!と爽やかな笑顔で返してくれました。合唱愛好の方には素晴らしいプレゼントになり、各地でのツアーでも爽やかなハーモニーで聴き手を魅せてくれるでしょう。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈TAN's Amici Concert〉
The Gents ザ・ジェンツ Lux AETERNA~永遠の光
日時: 2006年10月26日(木)19:00開演
出演者:The Gents
演奏曲:
CD「王室礼拝堂のジェントルマンたち」より、グレゴリオ聖歌/
アヴェ・マリア/ロバート・パーソンズ(1530-1570): アヴェ・マリア 他
CD '永遠の光'よりモーリス・デュルフレ(1902-1986): 我らが父よ/フランシス・プーランク
(1899-1963):アッシジの聖フランチェスコの4つの小さな祈り/ダリウス・ミヨー(1892-1974)
: 詩篇121/フランシス・プーランク : パドヴァの聖アントニオの讃歌
スピリチュアルズ~よい知らせがない Ain't that good news/イエスのもとに逃れよう Steal away
/揺れろよ、すてきなチャリオット Swing Low/私は心構えをしたい I want to be ready/
聖霊が心に入ってくるまで歌います I'm gonna sing till the spirit 他