「トマス・タリス生誕500年記念」
タリス・スコラーズ第二夜
報告:須藤久貴/大学院生/1階8列20番
投稿日:2005.07.7
恥ずかしい話だが、寡聞にしてタリス・スコラーズが何であるのか今まで知らなかった。
ホールに行って初めて、何かいつもとは違う雰囲気を感じ取った。開場時間前にはすでにエスカレーター下まで並ぶ人の列、聴衆の多さ、タリスの楽譜を手に取り次々と買っていく人。座席につけば、後ろの人が小声で隣の人に歌いながら曲目を解説している! そして何台ものテレビカメラ。会場はタリスを既によく知った人たちが多く集まっているようだ。
「イギリスの音楽Ⅱ」と題された当夜のコンサートは、タリス、タヴァナー、シェッパードとバードの宗教曲がアカペラで歌われた。もちろんラテン語。
合唱は素晴らしかった。まるで乱れることなく整っていて、音程があいまいになることもない。音の強弱(ディナーミク)のレンジの広さにも驚いてしまった。タリス<われは天の声を聞きぬ>の後半でピーター・フィリップス氏の指揮する身ぶりが激しくなるにつれ、クレッシェンドしていく合唱のきわめて強い表現は、意外な印象を受けた。プログラム表紙に描かれている中世の聖人画にあるような、表情のあまり見えない絵(ある意味で能面のような顔)のイメージを予想して聴いていると、しっぺ返しを食らうかのようである。
タリスの表現は均整を持ちつつ壮絶であり、合わせて10人で歌っているとは思えないほど圧倒的な力で私たち聴衆に迫ってくる。それぞれが雄弁に語っていて、たとえばバスのフランシス・スティール氏は落ち着いた低音を響かせ、強調したいフレーズを客席に顔を向き直して、聴いてくださいと主張しているかのようだった。そして時折、ソプラノが厚い内声の層から飛び出して、極めて高音のロングトーンを聴かせてくれる。何度もハッとさせられるような美しい瞬間の連続であった。
プログラム後半はミサの通常文を並べたもので、タリスの<グローリア>は壮麗で迫力に満ちたものであった。アンコールは、パーセルの宗教曲が歌われた。時代が違うと(あるいはラテン語でなく英語になると)響き方がずいぶん変わる。
アンコールの後も拍手がなかなか鳴り止まず、とても聴衆の反応はよかった。私自身はルネサンスの教会音楽を全然知らないが、もう少し知識と「慣れ」があれば、単に美しい声に感嘆するばかりでなく、今後もっと楽しめるのではないかと思う。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
「トマス・タリス生誕500年記念」
タリス・スコラーズ第二夜
日時: 2005年6月30日(木)19:15開演
出演者:ピーター・フィリップス(指揮)、
ソプラノ:デボラ・ロバーツ、ジャネット・コックスウェル、
テッサ・ボナー、サリー・ダンクリー、
アルト:キャロライン・トレヴァー、パトリック・クライグ、
テノール:アンドルー・カーウッド、ニコラス・トッド、
バス:ドナルド・グレイグ、フランシス・スティール
演奏曲:
トマス・タリス:使徒らは口々に/エレミアの哀歌(Ⅰ)、
ロバート・ホワイト:エレミアの哀歌(Ⅱ)/主が御身のことを聞きたまわんことを、
ウィリアム・バード:主よ認めたまえ、
タリス:主よ御身が手に/おお、救い主なるいけにえよ/おお、光より生まれし光/
めでたし、けがれなき乙女