2005.6
漆原朝子&迫昭嘉デュオ・リサイタル
~ベートーヴェン・プログラム~
漆原朝子さんの演奏を拝聴するのは神戸の松方ホール以来である。例えばであるが、張りのある響きの諏訪内晶子などと比べて以前からその深みのある控えめで柔らかい音色が印象的な奏者であったが、今日の演奏はそれに加えて一段、しっかりと噛み締めるような芯の太さが感じられた。
「音楽の友」6月号に掲載されているインタビューに拠れば、「春やクロイツェルはつい気持ちよく弾かれてしまう曲ではあるが、そうではない演奏をしたかったので、自分が納得できるまで、時間をかけて取り組もうと思いました。」とのことである。これが全く真実であった事を、私たちはこの第一生命ホールで確認したのである。
ベートーベンのバイオリンソナタはプログラムにも書かれている通り、バイオリンとピアノの伴奏と云うよりは両者が対等に近い立場にある二重奏ソナタである。
迫氏のピアノは瑞々しく、それでいて骨格は堂々堅牢としており、演奏をリードしているように感じられた。
残念ながらプログラム開始直後の5番ソナタ1楽章提示部では、その点においてもう少し「間」を大切にしようとしていた漆原との間でズレが生じたが、展開部からは両者が歩み寄る形で直ぐにこのようなズレは無くなり、以後は極めて息の合った演奏が展開された。5番の2楽章最後部や、8番全体に関して云えば、恐ろしいほどにぴったりと合っていた。8番は周囲でも評判が高く、万人認める所の名演であったようである。
休憩を挟んでクロイツェルの1楽章では再びやや息が合わないところが現れたが、それも直ぐに修正され、無くなった。
迫氏が主旋律を担当している場面において、漆原の低く深い味わいを持った伴奏は私を強く惹きつけた。このフレーズではピアノの方が音量も大きく、豊かに歌っているのであるが、それでもじわじわとバイオリンの低い響きに引き寄せられるかの如くであった。
漆原のプログラム構成は極めてシンプルであり、無駄がない。ポピュラーでない曲があっても、全体構成の中で説得力を持って聴かせる奏者である。従って、バイオリンに詳しくない方でも(私もそうであるが)最初から最後まで一貫して楽しめる。
来年のシューマン・プログラムも楽しみである。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
漆原朝子&迫昭嘉デュオ・リサイタル~ベートーヴェン・プログラム~
日時: 2005年6月24日(金)19:15開演
出演者:漆原朝子(ヴァイオリン)、迫昭嘉(ピアノ)
演奏曲:
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番へ長調op.24『春』、
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第8番ト長調op.30-3、
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番イ長調op.47『クロイツェル』
ティーンエイジャーコンサート2005
~十代だって癒されたい!~
~ティーンエイジャーコンサートスタッフレポート その1 「準備から当日まで」~
ティーンエイジャーコンサートプロジェクトは、2004年の7月から始まりました。私は高校受験勉強の渦中。そんな事を知る由も無く・・・。
そして今年の3月末、中学校を卒業したばかりの私は同級生の誘いからこの企画に飛び入り参加しました。もちろん予備知識も全くと言っていいほど無く、ましてや吉野さんの演奏すら聞いた事がありませんでした。今考えるとお恥ずかしい限りです・・・。
裏話な展開になりますが、コンサートのblogをご覧になられている方はご存知の内容も多いかと思われますが、ティーンエイジャーコンサートスタッフとしての視点からレポートします!
[準備期間]
先輩方の7月からの努力の足手まといにならないように、と必死で仕事をこなしました。最初は言われた事をやる、という感じだったけど、段々と慣れていく内に自主的に自分のすべき事をきちんと出来る様になったと思います。
コンサートを作るというだけあって、なかなか軽はずみな行動が出来ないもの。慎重に、かつ自主的に判断するのは難しい面もありました。だけど、自信を持って一生懸命に取り組む先輩方の姿を見て、私も頑張ろう!と取り組んできました。
もちろん、何もかも高校生で出来るわけがありません。自分達で動きながら大人の意見を参考にしてより良くしていく・・・それがこの企画のポイントだったと思います。
では私が関わった仕事について紹介します。
仕事①スクラップ
コンサートについての記事をスクラップする時は本当に面白かったです。「どんな風に書かれてるのかな。」とか「うわーこんなにいっぱい!」とか思うところは色々あったのですが・・・。新聞や雑誌など、いろんなところに記事があって驚かされてばかりでした。皆さんの中にもご覧になられた方がいらっしゃったと思います。
仕事②取材
まだ加わってまもなくの頃でしたが某新聞社の取材を受けに行きました。もちろん私は全然話しませんでしたが・・・;「笑顔を大切に!」をモットーに乗り切りましたっ。ここでの発見は先輩方の場慣れした雰囲気でした。「緊張する~;」と言いながらも記者さんの鋭い質問にきちんと答えられていて、かっこよかったです。その後、高校の友達にその記事を見て行きたくなったという子がいて、本当に嬉しかったです!(私は全然取材の役に立ってなかったけど)
仕事③広告営業
パンフレットを印刷に出す費用を稼ぐため、広告を寄稿していただこうことになりました。パンフレットには「月島もんじゃ振興協会」様より広告を寄稿していただきました。ありがとうございます。
しかしここまでの道のりは長かったのです。事ある毎に広報スタッフで色々なお店を回ったけど(何軒かなぁ・・・30店は回ったと思います)振られ、振られ、また振られ・・・。
[何分社会の仕組みをよく分かってない高校生。今思うともっと考えてから行動するべきでした。無駄な労力と時間を費やしてしまいました。だけど、そういう事を経験して失敗を次に生かすことが出来ればいいなぁとも思います。大人のスタッフの皆様は、そういう狙いを持って私達を自由に動かさせていたようです(笑)]
やはり、個人のお店やチェーン店は難しいものがあると気付き、地元という強みを生かして部活をさぼって「月島もんじゃ振興協会」様にお願いに行きました。快く引き受けてくださったと聴いたときは、私でも役に立つ事が出来たと思って嬉しくて泣きそうになりました。もんじゃを食べることも目的の一つとして来場された方もたくさんいらしたようですね(アンケート結果より)。皆さんはもんじゃを食べに行かれましたか?
仕事④ラジオ出演
某ラジオ局で10分程の枠をもらってPRして来ました。事前の打ち合わせで、楽しくワイワイっていう雰囲気を出して、という事でした。だけど皆初めてのラジオ出演。楽しい事は楽しかったけど緊張もしました・・・。
それでもやはり皆役者(?)ですねっ。そんな事は微塵も感じさせずにきちんと話せていました(笑)後から自分で聴いてみるとものすごく恥ずかしかったですが・・・。お聴きになった方がいらしたら嬉しいです。
仕事⑤アンケート制作
私は手伝ったくらいなのですが、アンケート一つとは言え、とても大事なものだと気付きました。私はコンサート等に行くと時間があれば書きたいと思いますが、家族は面倒くさがる方。つられて面倒だよなぁ・・・と思って書かないことも多いのですが、自分達で作ってみるとどうして必要なのかが分かりました。
例えばどうしたらアンケートを書いてくれるだろうかという問題。なるべく選択肢を設けて簡単に答えられるようにしました。その効果も充分あったようで、当日は多くの方がアンケートにご協力してくださいました。それだけでも嬉しいのに、コメントの所にびっしりと感想が書いてあると悩んだ甲斐があったなぁ・・・と思いました。また改善点を指摘して下さる方もいらして、とても参考になりました。
仕事⑥パネル展示
これは先輩が主体となって進めていたのですが、どういう風に展示するのかと言う事で色々悩みました。言葉で説明するのは難しいのですが、立て札みたいな物にするか、譜面台にするか・・・三つほど候補が挙がっていました。
結局、楽譜は譜面台に、その他は・・・あれは何と言えばいいのでしょう・・・白いダンボールのようなパネルに貼る事になりました。どうすれば注目されるか、見やすいか、倒れないか。皆で意見をぶつけ合って試行錯誤しました。写真を一つプリントアウトするにも、貼れる枚数が限られているので、先輩方は遅くまでディスプレイと睨めっこしていました。満足していただけたのでしたら幸いです。
仕事⑦パンフレットの折込
パンフレットに一つ一つ流れ作業でチラシを折り込んでいきました。個人的にそういう単調な作業が好きなので全然辛くなかったです。その折り込むためのチラシの枚数を700枚数えて揃えるのもほとんど一人でやったのですけど、熱中しました・・・。やっぱり単調作業好きなんだなぁと一人で思ったりしました。興味あるコンサートの案内はありましたか?
仕事⑧何といっても口コミ
地元で同じ中学校だった子を見かければ、とにかく宣伝!必ずチラシや関係資料は携帯していました(笑)高校での自己紹介では「こういうコンサートのスタッフしてます!」って言いました(笑)だけど、思うように簡単に来てくれるはずもなく・・・。それでも!なかなかいい返事がもらえなくてもめげない!それが重要ポイントでした。なんて言ったって私たちの裏テーマは「来る者は拒まず、去る者は追え」でしたからね。
[コンサート当日]
前売り券が完売した事を聞いて、嬉しくてたまりませんでした。当日券で入る予定の方には大変申し訳なかったのですが・・・。会場の最終チェックをして、ゲネプロ(本番前の通し稽古)見学。広報のティーンスタッフ3人で吉野さんの華麗な生演奏を堪能しました。一番いい席に座って、「まるで私達だけのためのコンサートみたい」と思いつつ、はしゃぐ間もなく聴き入ってました。
いよいよ開場です。笑顔でお客様をお迎えする事。それが第一です。お客様の多さに驚きつつも心から喜びながらお迎えできました。BST(バックステージツアー)に参加をご希望される方が予想以上に多くてスタッフ一同大慌てでした。残念な事に人数、時間の関係等でお断りしてしまった方が大勢居ました。本当にごめんなさい!そしてひと段落してモニターで状況を見ていました。ティーンスタッフは「笑顔が強張ってるね。」で意見が統一されました。そして公演終了。気持ちのいい疲労感、達成感で満たされました。それと、本当に終わっちゃったんだな・・・という寂しさも。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート15〉
ティーンエイジャーコンサート2005
~十代だって癒されたい!~
日時: 2005年5月14日(土)16:00開場 17:00開演
バックステージツアー(16:10~、16:20~)
出演者:吉野直子(Hrp)
演奏曲:
第一部「ハープ大解剖」
パッヘルベル:カノン
サルツェード:つむじ風
トゥルニエ:ジャズ・バンド
ルニエ:いたずら子鬼の踊り
ハチャトゥリアン:「トッカータ」より
映像を取り混ぜながら、ハープの秘密を探ります。
第二部「耳を澄ませて聴いてみよう」
シェ―ファー:アリアドネの冠
デュセック:ハープのためのソナタ変ホ長調 作品34-1 より、第3楽章
ワトキンズ:火の踊り
サルツェード:古代様式の主題による変奏曲 作品30 ほか
*ハープの豊かな響きを心ゆくまでお楽しみください
日本音楽集団 第179回定期演奏会
~名曲選シリーズⅡ~
人それぞれの語り方の違い、それが際立った演奏会であった。作曲家ひとりひとり、あるいはいくつもの邦楽器それぞれが固有の特性を保ちつつ、ひとつの演奏会という場において音楽を共有する。まるで京都の東本願寺の門前に掲げられている「バラバラでいっしょ」という看板のようである。
音楽を聴くことはさまざまな価値観を知り、認め合うことだと言ってもいい。指揮をした田村拓男氏は、この日の日本音楽集団定期演奏会について、「日本の楽器が奏でるアジア友好へのメッセージ」(プログラム)であると述べている。朴範薫≪シナウイ≫は韓国音楽を日本楽器で語ったものであるし、伊福部昭の≪鬢多々良≫は平安時代の音楽を模したもので、起源は中国やインドにあると言われる。もちろん音楽はあくまで音楽だから、演奏を聴いて逐一「アジア友好」なんてことまで考える必要はないけれども、私は笙や篳篥(ひちりき)、琵琶の音色を聴くと、それが無条件に心地よいものと思え、直感的に自分が東洋の人間であることを悟るのである。クラシックを聴くとき、無意識のうちに居住まいを正さずにはいられないのとは違って、邦楽は気楽に聴ける。私はほとんど邦楽を知らない。それにもかかわらず距離感は近いのだ。
座席はだいぶ埋まっている。舞台では指揮者のみがネクタイで、笙と篳篥の奏者が平安時代の烏帽子と貴族の格好、他は男性が羽織袴で女性が橙色の着物であった。
初めの池辺晋一郎≪竹に同じく≫(1979)は竹からできた楽器の笛、笙、篳篥、龍笛、尺八、鳥笛のための曲。緑の生い茂る静かな竹林の中に迷い込んだように感じてしまう。面白いのは鳥笛で、まるで何羽もの鳥がさえずっているようだった。池辺氏本人も聴きにいらしていた。
長沢勝俊≪筝四重奏曲≫(1968)は、筝三面と十七絃一面のためのクァルテット。二章に分かれているこの曲では、特に二章の幾度も繰り返されるテーマが心を打つ。控えめに、しかし何度も主題が戻ってくる。はかない幻影を見つめているような心地がした。
朴範薫≪日本楽器によるシナウイ≫(2000)は派手な威勢のいい曲で、笛、尺八、三味線、琵琶、二十絃筝、十七絃、打楽器のために書かれている。音楽を知らなくても音の大きさ、リズムのよさで楽しめる作品だが、いかにも大衆受けしそうな曲という気もしないでもない。太鼓の三連打が印象的で、曲が終わっても耳から離れなかった。
休憩を挟んで後半は伊福部昭の作品。まずは≪交響譚詩≫(1943)が演奏された。原曲はクラシックの管弦楽曲。秋岸寛久による編曲で、日本音楽集団版初演である。楽器は朴氏の曲とほぼ同じだが打楽器が少し違うのと、ここでは胡弓が加わっている。曲調は簡明で親しみやすい。分かりやすいからといって陳腐にはならない。胡弓の音色、筝のユニゾン、あるいは篳篥が吹きながら音程をずらしていくのが見事だったように思う。とはいえ、この日最後の曲目である郢曲≪鬢多々良≫を聴いたら、ずいぶん音の鳴りかたが変わったので驚いてしまった。つまり、もともと西洋楽器のために書かれた≪交響譚詩≫はどこか「翻訳調」な気がする。西洋音楽の語法で語っているためにしっくりこないのかもしれない(ドイツ語の韻文を日本語で読むときに原語の微妙なニュアンスが変わってしまうような違和感)。それがこの曲では、筝なら「筝」という楽器のために書かれた音という、ぴったりとした感じがいかにもする。
≪鬢多々良≫はひとりひとりが語るに語る。三人の筝、十七絃、それぞれひとりずつ語っていく。すると今度は、仕切り直して琵琶がしんみりと物語を始めるのだ。最後はトゥッティでなだれ込む。鼓、銅鑼のようだが音の高い打楽器が効果的に重なり合いつつ、ひたすら華やいでいる。それが突如やむ。空を断ち切るように笛が高らかに絶叫し、呼応した鼓が勢いよく「ポン!」と打って終わる。ぞくぞくするくらいかっこいい。
後半の二曲はいずれも伊福部昭氏の作品だったが、拍手のときに御歳90歳の伊福部氏ご本人が、杖を支えにやっとの思いで立ち上がったのが、何とも感動的であった。二階席から見ていると、一階席中央で起立した伊福部氏の丸い背中が暖かくて、「ありがたい」という気持ちになってしまった。また、二階席には大勢の小学生の姿も見られたが、マナーのよさに驚いた。鳥笛の音や打楽器の音に敏感に反応し、彼ら若い聴衆は、飽きることなく音楽を楽しんでいる様子だった。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
日本音楽集団 第179回定期演奏会 ~名曲選シリーズⅡ~
日時: 2005年5月19日(木)19:00開演
出演者:日本音楽集団
演奏曲:
池辺晋一郎:竹に同じく、
長沢勝俊:箏四重奏曲、
朴範薫:日本楽器によるシナウイ、
伊福部昭(秋岸寛久編曲):交響譚詩(日本音楽集団版・初演)、
伊福部昭:郢曲「鬢多々良」
日本音楽集団 第179回定期演奏会
~名曲選シリーズⅡ~
池辺晋一郎:「竹に同じく」
グレゴリア聖歌を思わせる尺八の出だしに続き広い森の中で静かに響き渡る音の交換が印象的でした。反復される笙の澄んだ高音はたなびく雲のようでした。冒頭テーマに帰って更に展開していく小鳥のさえずりを思わせる4名のアドリブと6名の尺八のかもし出す穏やかな風の流れ。ホールを一歩出て森の中に誘い込まれたかのよう。唐突とも見えそうなフレーズのタテ気味の切り方は不思議と心地良い印象でした。篳篥のソロがサクソフォンを思わせるように艶っぽく、これに導かれるように再び尺八群と鳴り物群が活発に奏されました。ため息のようなフレージングに続いて冒頭テーマが回帰、低音部でのつぶやきに導かれて日の光がさすような笙、続いて鳴り物が全体的にクレッシェンドに盛り上がっていくのは聴きもの。横笛が彼方から神秘的なソロで強弱自在に操っての弾き進め方にもひかれました。
長沢勝俊:「筝四重奏曲」
全体的に暗譜で弾き通したのはさすが。弾き込まれただけあってごく自然に聴き進めていました。第1楽章では半音の中につややかさと躍動感が兼ね備わっていた印象。ベース部分の十七絃のきっかけに続いて高音部3筝の歌い回しと十七絃の対位法的な動きが手に取るように伝わってきました。ソプラノ(邦楽の表現法が思いつかずあえて洋楽風に)の歌い口にテナー部分の転調部分が三連符風フレーズを交えてずんずん進んでいきました。第2楽章では旋律リレーに続いてテナー部分の激しい打鍵に十七絃とソプラノ部分が素早く反応し、続いてソプラノ部分が激しくG音に乗って更に中声の静かな弾きに乗ってソプラノ部分の細やかなメロディソロが強弱のメリハリと伴って巧みに展開されていました。
テナー部分のきっかけで主題が回帰し変拍子のビートが十七絃に特に効果的に利いていました。
朴範薫:「シナウイ」
鉦2名→鈴→尺八→横笛→太鼓と順次登場し、その度にクレッシェンドを増していく劇的な演奏でした。尺八のむせぶようなアンサンブルに他パートも加わっての3拍子演奏では琴の周期的なユニゾンも加わって響きに厚味を加えていました。前面に出された打楽器のリズムにのって琴・三味線・琵琶による比較的強めな「打ち方」によるメロディ提示は特にこの曲の舞踊面がよく表されていたように思います。尺八ソロのカデンツァと三味線の5度反復には緩急が巧みに付され、尺八のソリによる打楽器のような独特のリズムにのって三味線と琵琶の歯切れよい独特のメロディは山野で響きそうなイメージを抱かせました。
打楽器と十七絃との裏拍交えた掛け合いを経て再びリズミカルな尺八のメロディが奏されると、余韻の切り方も斬新に決まっていました。琴の響きの増幅が見事で、打楽器のリズムにのった琴のメロディの躍動感と笛群の歯切れよさは尺八のソロにさりげなくつないでいたように感じました。尺八ソロではテンプアップした3拍子が踊り出したくなるような雰囲気をかもし出し、裏拍リズムをも意識した熱演でした。3名の打楽器群がパワフルで、尺八と笛のメロディラインを心憎いサポート。総奏の後笛のソロがむせぶようにつないでいく部分は唸ってしまいました。
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休憩時に客席周りを見渡すとアウトリーチで邦楽に触れたとおぼしき子供達がズラリ。開演前は元気に駆け回っていたのですが、演奏を聴く時には一心不乱の表情。別の日別会場で見かけたぐずる子供の姿はここには全く見当たりませんでした。特に意識しなくとも、彼らには響く演奏は響く、と分かっているのかもしれません。
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伊福部昭:「交響譚詩」秋岸寛久編曲
第1楽章では総奏のアタックが強烈に決まった後は尺八・笛と琴との掛け合い、間に打楽器群が入る形で始まり、笙の湧き上がりに胡弓が加わってアンサンブルに幅を持たせ、十七絃・三味線が尺八と琵琶へ響きの流れを受け渡していく部分は聴き入りました。展開部では琴(後から笙)によって本来の曲の持つ躍動が表され、規則正しい打楽器群と琴の刻みにのって琵琶と三味線がタテ気味の切り口で鋭い快活感を生み出していましたが、ここに私は愛好する作曲家キラールの代表的室内楽曲オラヴァを思い起こしました。打楽器に散りばめられたきらびやかさと笙のやや「セクシーな」程のメロディ、更に打楽器・三味線の後打ちは見事、琴の休みなく流れる三味線の上から降り注ぐような響きも魅力的でした。
第2楽章は尺八ソロと琵琶の切ないまでの旋律リレーが楽章の雰囲気を作り出しており、琴の揺れるようなフレーズにのって三味線の分散和音と笛の切々とした歌(後から十七絃と打楽器加わる)、更に笙や胡弓のノスタルジックな歌い口にも魅せられました。
十七絃にのって尺八→笙→胡弓→笙・琴のリレーが展開、さざめくような琵琶のリズム、十七絃のずんとした響き、テーマに戻り一層踏み込んでくるような演奏に入ると三連符部分も単なるお囃子にとどまらないにぎにぎしさ。それを一気に締めくくる尺八の切ないメロディも印象に残りました。
伊福部昭:「鬢多々良」
第1楽章では琴のソロが艶っぽい弾き始めで、やがて琴/十七絃のカノンが軽快に流れるのうな演奏を展開していきました。琵琶が呼応するように弾き出されると笙と横笛がこれに続き、重音の中から浮かび上がる旋律線が新鮮に響き、琵琶のソロに琴のアルペジオが重なっていくところには聴き入りました。
第2楽章では西洋の半音にとどまらない音幅の広さ、琵琶のビートと琴のアルペジオにのって増えのメロディが小気味よく流れていきました。十七絃の重々しい弾き口も巧みで、鞨鼓のカーンとした響きは改めてこのホールの響きを思い起こさせてくれました。笙のソロの彼方から吹いてくるような響きも魅力的。
第3楽章は冒頭太鼓も加わって再現部では何か大地を踏みしめる踊りのよう。めくりめくような旋律の中に笛が躍動的なメロディを奏し、鞨鼓と鼓が小気味よく旋律にアクセントを付けていっており、裏拍が冴え渡っていました。
会場には伊福部氏御本人も姿を見せ、会場内から熱烈な喝采を受けていたのを御報告させていただきます。集団団員にして伊福部氏のお弟子でもある秋岸氏も感激の面持ち。
何か会場が得もいえぬ感動と和やかさに包まれたひとときでした。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
日本音楽集団 第179回定期演奏会 ~名曲選シリーズⅡ~
日時: 2005年5月19日(木)19:00開演
出演者:日本音楽集団
演奏曲:
池辺晋一郎:竹に同じく、
長沢勝俊:箏四重奏曲、
朴範薫:日本楽器によるシナウイ、
伊福部昭(秋岸寛久編曲):交響譚詩(日本音楽集団版・初演)、
伊福部昭:郢曲「鬢多々良」
ティーンエイジャーコンサート2005
~十代だって癒されたい!~
一昨年に続き2回目となったティーンエイジャーコンサート。
まず、とってもうれしかったことはチケットが完売し多くのティーンエイジャーがホールに足を運んでくれたことである。
今回の新趣向としては、開演前に日頃みることのできない舞台裏を見学するバックステージツアーが行われたことだろう。多くの方の参加があったようであったが、短時間に要領よく案内してくれたスタッフに感謝したい。
演奏会は、パッヘルベルの「カノン」により、ハープの世界に誘われていった。
第1部テーマは、ハープ大解剖。ハープの各部がスクリーンに映し出され、色々吉野直子さんが解説して下さったのも興味深いものだったが、私として面白かったのは、ハープの足技であった。ハープというと、優雅というイメージが強いが、水上を泳ぐ白鳥のように、ハープもあまり見えない足元では大変な運動があることを実際にみることができた。
第2部の「アリアドネの冠」では、吉野さんの1人2役。ハープ弾きながら、周りの打楽器を演奏した。素人目には、色々なハープの弾き方があったように思えたし、ハープを小太鼓の撥で叩いたりハープの面白い演奏の仕方をみたように思えた。それと、時折聞こえる人の咳やチラシのこすれる音が客席から聞こえても、妙にこの音楽に馴染んでしまうのがおもしろい。2部で私が好きだと思った曲は、デュセックの「ロンド」である。
また、最後のアンコール曲にのせての、スタッフの紹介がスクリーンに映し出されとても面白かったが、読むのが遅いのか全文を読むことが出来ず残念であった。コンサートのいろいろな仕掛けも面白くとても楽しいコンサートだった。次回も楽しみにしている。
【TANスタッフより】
井出さんは、コンサートの表方、オープンハウスなどのイヴェントのサポーターとしてもご活躍いただいています。今回はお客様としていらしてくださったのですが、演奏会が終わりロビーにでてこられるや否や「今回書かせて!とっても良かった」とおっしゃってくださり、とてもうれしく思いました。 (チケットをご購入の上で、モニターレポートにご参加くださった方には、後日他のTAN主催コンサートへ1度ご招待させていただいております)
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート15〉
ティーンエイジャーコンサート2005
~十代だって癒されたい!~
日時: 2005年5月14日(土)16:00開場 17:00開演
バックステージツアー(16:10~、16:20~)
出演者:吉野直子(Hrp)
演奏曲:
第一部「ハープ大解剖」
パッヘルベル:カノン
サルツェード:つむじ風
トゥルニエ:ジャズ・バンド
ルニエ:いたずら子鬼の踊り
ハチャトゥリアン:「トッカータ」より
映像を取り混ぜながら、ハープの秘密を探ります。
第二部「耳を澄ませて聴いてみよう」
シェ―ファー:アリアドネの冠
デュセック:ハープのためのソナタ変ホ長調 作品34-1 より、第3楽章
ワトキンズ:火の踊り
サルツェード:古代様式の主題による変奏曲 作品30 ほか
*ハープの豊かな響きを心ゆくまでお楽しみください