漆原朝子&迫昭嘉デュオ・リサイタル
~ベートーヴェン・プログラム~
報告:大学院生/1階10列33番
投稿日:2005.06.25
漆原朝子さんの演奏を拝聴するのは神戸の松方ホール以来である。例えばであるが、張りのある響きの諏訪内晶子などと比べて以前からその深みのある控えめで柔らかい音色が印象的な奏者であったが、今日の演奏はそれに加えて一段、しっかりと噛み締めるような芯の太さが感じられた。
「音楽の友」6月号に掲載されているインタビューに拠れば、「春やクロイツェルはつい気持ちよく弾かれてしまう曲ではあるが、そうではない演奏をしたかったので、自分が納得できるまで、時間をかけて取り組もうと思いました。」とのことである。これが全く真実であった事を、私たちはこの第一生命ホールで確認したのである。
ベートーベンのバイオリンソナタはプログラムにも書かれている通り、バイオリンとピアノの伴奏と云うよりは両者が対等に近い立場にある二重奏ソナタである。
迫氏のピアノは瑞々しく、それでいて骨格は堂々堅牢としており、演奏をリードしているように感じられた。
残念ながらプログラム開始直後の5番ソナタ1楽章提示部では、その点においてもう少し「間」を大切にしようとしていた漆原との間でズレが生じたが、展開部からは両者が歩み寄る形で直ぐにこのようなズレは無くなり、以後は極めて息の合った演奏が展開された。5番の2楽章最後部や、8番全体に関して云えば、恐ろしいほどにぴったりと合っていた。8番は周囲でも評判が高く、万人認める所の名演であったようである。
休憩を挟んでクロイツェルの1楽章では再びやや息が合わないところが現れたが、それも直ぐに修正され、無くなった。
迫氏が主旋律を担当している場面において、漆原の低く深い味わいを持った伴奏は私を強く惹きつけた。このフレーズではピアノの方が音量も大きく、豊かに歌っているのであるが、それでもじわじわとバイオリンの低い響きに引き寄せられるかの如くであった。
漆原のプログラム構成は極めてシンプルであり、無駄がない。ポピュラーでない曲があっても、全体構成の中で説得力を持って聴かせる奏者である。従って、バイオリンに詳しくない方でも(私もそうであるが)最初から最後まで一貫して楽しめる。
来年のシューマン・プログラムも楽しみである。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
漆原朝子&迫昭嘉デュオ・リサイタル~ベートーヴェン・プログラム~
日時: 2005年6月24日(金)19:15開演
出演者:漆原朝子(ヴァイオリン)、迫昭嘉(ピアノ)
演奏曲:
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番へ長調op.24『春』、
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第8番ト長調op.30-3、
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番イ長調op.47『クロイツェル』