日本音楽集団 第179回定期演奏会
~名曲選シリーズⅡ~
報告:佐々木久枝(中央区勤務) 2F-C1-10
投稿日:2005.06.6
池辺晋一郎:「竹に同じく」
グレゴリア聖歌を思わせる尺八の出だしに続き広い森の中で静かに響き渡る音の交換が印象的でした。反復される笙の澄んだ高音はたなびく雲のようでした。冒頭テーマに帰って更に展開していく小鳥のさえずりを思わせる4名のアドリブと6名の尺八のかもし出す穏やかな風の流れ。ホールを一歩出て森の中に誘い込まれたかのよう。唐突とも見えそうなフレーズのタテ気味の切り方は不思議と心地良い印象でした。篳篥のソロがサクソフォンを思わせるように艶っぽく、これに導かれるように再び尺八群と鳴り物群が活発に奏されました。ため息のようなフレージングに続いて冒頭テーマが回帰、低音部でのつぶやきに導かれて日の光がさすような笙、続いて鳴り物が全体的にクレッシェンドに盛り上がっていくのは聴きもの。横笛が彼方から神秘的なソロで強弱自在に操っての弾き進め方にもひかれました。
長沢勝俊:「筝四重奏曲」
全体的に暗譜で弾き通したのはさすが。弾き込まれただけあってごく自然に聴き進めていました。第1楽章では半音の中につややかさと躍動感が兼ね備わっていた印象。ベース部分の十七絃のきっかけに続いて高音部3筝の歌い回しと十七絃の対位法的な動きが手に取るように伝わってきました。ソプラノ(邦楽の表現法が思いつかずあえて洋楽風に)の歌い口にテナー部分の転調部分が三連符風フレーズを交えてずんずん進んでいきました。第2楽章では旋律リレーに続いてテナー部分の激しい打鍵に十七絃とソプラノ部分が素早く反応し、続いてソプラノ部分が激しくG音に乗って更に中声の静かな弾きに乗ってソプラノ部分の細やかなメロディソロが強弱のメリハリと伴って巧みに展開されていました。
テナー部分のきっかけで主題が回帰し変拍子のビートが十七絃に特に効果的に利いていました。
朴範薫:「シナウイ」
鉦2名→鈴→尺八→横笛→太鼓と順次登場し、その度にクレッシェンドを増していく劇的な演奏でした。尺八のむせぶようなアンサンブルに他パートも加わっての3拍子演奏では琴の周期的なユニゾンも加わって響きに厚味を加えていました。前面に出された打楽器のリズムにのって琴・三味線・琵琶による比較的強めな「打ち方」によるメロディ提示は特にこの曲の舞踊面がよく表されていたように思います。尺八ソロのカデンツァと三味線の5度反復には緩急が巧みに付され、尺八のソリによる打楽器のような独特のリズムにのって三味線と琵琶の歯切れよい独特のメロディは山野で響きそうなイメージを抱かせました。
打楽器と十七絃との裏拍交えた掛け合いを経て再びリズミカルな尺八のメロディが奏されると、余韻の切り方も斬新に決まっていました。琴の響きの増幅が見事で、打楽器のリズムにのった琴のメロディの躍動感と笛群の歯切れよさは尺八のソロにさりげなくつないでいたように感じました。尺八ソロではテンプアップした3拍子が踊り出したくなるような雰囲気をかもし出し、裏拍リズムをも意識した熱演でした。3名の打楽器群がパワフルで、尺八と笛のメロディラインを心憎いサポート。総奏の後笛のソロがむせぶようにつないでいく部分は唸ってしまいました。
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休憩時に客席周りを見渡すとアウトリーチで邦楽に触れたとおぼしき子供達がズラリ。開演前は元気に駆け回っていたのですが、演奏を聴く時には一心不乱の表情。別の日別会場で見かけたぐずる子供の姿はここには全く見当たりませんでした。特に意識しなくとも、彼らには響く演奏は響く、と分かっているのかもしれません。
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伊福部昭:「交響譚詩」秋岸寛久編曲
第1楽章では総奏のアタックが強烈に決まった後は尺八・笛と琴との掛け合い、間に打楽器群が入る形で始まり、笙の湧き上がりに胡弓が加わってアンサンブルに幅を持たせ、十七絃・三味線が尺八と琵琶へ響きの流れを受け渡していく部分は聴き入りました。展開部では琴(後から笙)によって本来の曲の持つ躍動が表され、規則正しい打楽器群と琴の刻みにのって琵琶と三味線がタテ気味の切り口で鋭い快活感を生み出していましたが、ここに私は愛好する作曲家キラールの代表的室内楽曲オラヴァを思い起こしました。打楽器に散りばめられたきらびやかさと笙のやや「セクシーな」程のメロディ、更に打楽器・三味線の後打ちは見事、琴の休みなく流れる三味線の上から降り注ぐような響きも魅力的でした。
第2楽章は尺八ソロと琵琶の切ないまでの旋律リレーが楽章の雰囲気を作り出しており、琴の揺れるようなフレーズにのって三味線の分散和音と笛の切々とした歌(後から十七絃と打楽器加わる)、更に笙や胡弓のノスタルジックな歌い口にも魅せられました。
十七絃にのって尺八→笙→胡弓→笙・琴のリレーが展開、さざめくような琵琶のリズム、十七絃のずんとした響き、テーマに戻り一層踏み込んでくるような演奏に入ると三連符部分も単なるお囃子にとどまらないにぎにぎしさ。それを一気に締めくくる尺八の切ないメロディも印象に残りました。
伊福部昭:「鬢多々良」
第1楽章では琴のソロが艶っぽい弾き始めで、やがて琴/十七絃のカノンが軽快に流れるのうな演奏を展開していきました。琵琶が呼応するように弾き出されると笙と横笛がこれに続き、重音の中から浮かび上がる旋律線が新鮮に響き、琵琶のソロに琴のアルペジオが重なっていくところには聴き入りました。
第2楽章では西洋の半音にとどまらない音幅の広さ、琵琶のビートと琴のアルペジオにのって増えのメロディが小気味よく流れていきました。十七絃の重々しい弾き口も巧みで、鞨鼓のカーンとした響きは改めてこのホールの響きを思い起こさせてくれました。笙のソロの彼方から吹いてくるような響きも魅力的。
第3楽章は冒頭太鼓も加わって再現部では何か大地を踏みしめる踊りのよう。めくりめくような旋律の中に笛が躍動的なメロディを奏し、鞨鼓と鼓が小気味よく旋律にアクセントを付けていっており、裏拍が冴え渡っていました。
会場には伊福部氏御本人も姿を見せ、会場内から熱烈な喝采を受けていたのを御報告させていただきます。集団団員にして伊福部氏のお弟子でもある秋岸氏も感激の面持ち。
何か会場が得もいえぬ感動と和やかさに包まれたひとときでした。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
日本音楽集団 第179回定期演奏会 ~名曲選シリーズⅡ~
日時: 2005年5月19日(木)19:00開演
出演者:日本音楽集団
演奏曲:
池辺晋一郎:竹に同じく、
長沢勝俊:箏四重奏曲、
朴範薫:日本楽器によるシナウイ、
伊福部昭(秋岸寛久編曲):交響譚詩(日本音楽集団版・初演)、
伊福部昭:郢曲「鬢多々良」