2005.12.19
ミロ・クァルテット
報告:川澄直美/会社員/1階R1扉9列30番
投稿日:2005.12.19
長年、いろいろ演奏会へ出かけながら、弦楽四重奏は聴きに行ったことのなかった私ですが、今年になって初めてSQWの演奏会に。弦楽四重奏の森へ(サブテキストより)迷いこんでしまったようです。そして今回は、子供の頃から大好きなベートーヴェン。練習や勉強が好きではない私ですが、ベートーヴェンのピアノソナタの初期の作品は、練習していても苦にならないという思い出があります。家にある楽譜やCDを改めて眺めていたら、今回の弦楽四重奏作品18とは、まさにその辺りの作品。で、交響曲1番の直前の作品だということに気づいてしまったら、ライブで聴きたくなっていました。
SQWに出演される演奏家の方たちは、演奏会の直前に、レクチャーコンサートやアウトリーチ、ロビーコンサートをしてくださいます。ただ、私の場合、平日の昼間は聴きに行けない。残念だなぁと思っていたら、今回は日曜日に聴く機会があったのがうれしくて、ホールのお隣の晴海レクサスでのロビーコンサートへ。短い時間ながら、バラエティ豊かなプログラム。演奏会であまり演奏されない曲がほとんど。弦楽四重奏は、座って演奏しているのに、立ち上がりそうな勢いあるなと、見ていても楽しい音楽でした。最後の曲の「そりすべり」、オーケストラみたいだぁと、こどものように身を乗り出して聴いていおりました。この時点でCDを購入するか、かなり悩みました。でも、初めて聴くのはライブ!と決めて帰宅。
そして、当日。
いつもの開演時間よりも1時間以上早いのに、お客さんが多い。いつもより多いなぁと思ってたら、曲と曲の間だけでなく、楽章ごとにも、お客さんが少しづつ増えていく。その間、ミロQの方々は余裕を持って、着席するのを待っていてくださる。1階席にいた私には、この瞬間のミロQの表情を見たとき「この人たち、いいぞ。若いのに」と感じました。同時に、この余裕は、作品に対する思いの大きさと準備の万全さから生まれたのかなと考えながら、この6曲を聴くことが出来、なんだか貴重な体験しているなぁと。
プログラム・ノートにあるように、この日の演奏順は、1番から順番ではなく完成した順とのこと。2曲演奏した後、休憩が2回。計6曲。第1部は3番と2番。第2部は1番と5番。そして第3部は4番と6番。
第1部は、心地よいので、目をつむってしまいそうな瞬間もありました。第2部の第1番の出だしを聴いたとき、10代の頃、ピアノソナタの1番の第1楽章を初めて譜読みしたときを思い出してしまい、にやにやしてました。なんだか、大人になったような、プロが演奏するような曲みたいと感じて嬉しかった、そんな昔話。他のお客さんも、第1部とはちがって、活気をもって聴き入ってようにも感じました。心地よさよりも、流れに巻き込まれていく...そんなかんじでしょうか。そして第3部に入る前の休憩で、CDを購入。
TANのスタッフやサポーター仲間の方に「買っちゃたぁ」と、見せて歩いているうちに休憩が終わって第3部へ。第3部にもなってくると、「お、ベートーヴェンだ」そんな感じがします。そうしてると、曲を追いかけているうちに終ってしまいました。もっともっと、聴きたいなぁ。アンコール何やるんだろうとワクワクしつつ、「そりすべり」また聴きたいと思いながら拍手しながらホールを見回すと、立ち上がって拍手している人たちもいたりして。アンコールはベートーヴェンの師でもあったハイドン。そしたら、第1部の曲をちょっと思い出したりして。
休憩入れて3時間半強。いつもより早く始まり、遅めに終った演奏会。それでも、CDのサインを求める人たちの列が長かった。ということは、演奏が、お客さんに伝わったってことなんだろうなと思いながら帰路につきました。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#44〉
ミロ・クァルテット
日時: 2005年12月7日(水)18:00開演
出演者:ミロ・クァルテット
[ダニエル・チン/山本智子(Vn)、
ジョン・ラージェス(Va)、ジョシュア・ギンデル(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン 作品18 全6曲
弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品18の3/第2番ト長調作品18の2/
第1番ヘ長調作品18の1/第5番イ長調作品18の5/
第4番ハ短調作品18の4/第6番変ロ長調作品18の6
ミロ・クァルテット
報告:井原三保/1部:2階L1列40番、2・3部:2回L2列39番)
投稿日:2005.12.19
今日は初めてのTANモニ。1年半あまり前まで、トリトン・アーツ・ネットワークの制作スタッフとして職場だった第一生命ホールに、お客さんとして入るのには慣れてきたけれど、TANモニというと少し荷が重い。しかも、今日のコンサートはベートーヴェンの作品18、全6曲を一晩で聴こうというものなのだ。交通費節約のために早朝に関西を出、電車とバスを乗り継いで来た身で、最後まで聴きとおすことができるのだろうか?なんせ、モニターの役目を仰せつかったのは、ほんの2時間前なのだから......
いつもは19時15分始まりのSQWシリーズだけど、今夜の開演は18時。2回の休憩を含めると3時間半近くの長丁場になる。無論ホール代もその分高くなるわけだが、チケットは据え置きの3,500円で、しかも、仕事を終えていつもの19時15分に来ても、まだたっぷり4曲聴けるという太っ腹企画なのだ。
開演15分前にホールに向かうと、私の前も後からも人の列が途切れることなく続いている。ここだけの話、ふだんのSQWより多いくらい...?なんと、この日の3百数十人のお客さんの9割が18時に客席についていらしたとか。シリーズ券を買ったTANサポーターに声をかけると、今日は昼から仕事休んじゃった、とのこと。
さて、今日出演のミロ・クァルテットとは、実は旧知の仲である。44回を数えるSQWシリーズの第1回を飾ったグループなのだ。
初来日の2001年11月当時、私はTANの制作スタッフとして、15日から始まったOpening 10 Daysの真っただ中。無我夢中で働いていたところへ、ニューヨークから颯爽とやってきた、20代半ばの若いクァルテットが彼らだった。初めて外国人演奏家のアテンドをすることになった私は、慣れない英語を操り、冷や汗をかきながら、それでも彼らと過ごす時間は楽しいひとときだった。というのも、彼らは日本の食べ物(特にケーキ)に目がなくて、とりわけヴィオラのジョン、チェロのジョッシュはつつき合いっこをしながら、日本の味を楽しんでいたのだ。他のスタッフは事務所でお弁当を食べながらも、パソコンに向かっていたというのに......。
SQW第1回目のこのコンサートは「9月11日の被災者家族を支えるコンサート」と銘打たれ、ロビー設置の募金箱に寄せられた寄付金は、日本赤十字社を通じて全額寄付された。今夜のお客さまの中には、第一生命ホールのオープン、TAN設立のために奔走された第一生命職員の方々もあちこちに見える。SQ最前線!と胸を張ってはみたものの、弦楽四重奏で、しかも1シーズンに6つほどの団体が出演し、約10回のコンサートを行う。こんな今までにない大胆な企画をやろうというのだから、初めての演奏会を迎えたそのとき、運営サイド、ディレクター以下スタッフの胸中は期待と、そしてそれ以上に大きな不安でいっぱいだっただろう。私は必死に走っているだけで、全体のことなど見えていなかったけれど。そして、ミロQはシリーズスポンサーも大勢見えるコンサートで、見事、我々の期待以上のパフォーマンスをし、アメリカの若手クァルテットのひとつのスタンダードのを示したのであった。そんな彼らが第一生命ホールで凱旋公演をするのだから、彼らの成長を楽しみに、4年前を知る人たちが集うのもうなずけよう。
昔話が長くなってしまった。今夜の演奏は作品番号順でなく、作曲順に3番、2番、1番、5番、4番、6番の順に演奏された。ベートーヴェン、29歳から30歳にかけての作品群である。途中2回の休憩が入る。演奏について評する立場にはないので、詳述するのは避けるが、ミロQの気負うでもない適度な緊張感が心地よい。夏以降、各地で同じプログラムを経験することで、彼らなりのペースがよくつかめているのだろう。お客さんにとってはどうだったのだろう。全曲演奏というと、今夜の聴衆には昨年のカーター全曲(私はチャンスを逃してしまった)を聴いた方も多いだろうし、私自身、今までに2回ボロメーオQのバルトーク全曲を聴いたが、不思議と乗り切れるものだ。今日は、今まで以上に(全曲25分程度の、決して短くはない作品だというのに)疲れや気負いを感じずに、青年ベートーヴェンを楽しめた。アンコールは先輩ハイドンの74番「騎手」から第2楽章。
ひとつ苦言を呈するとすれば、遅れ客への対応はいただけなかった。楽章間に入ったお客さんが自分の席に着こうとするのを、演奏者が客席を見ながら待つシーンが少なくとも2度はあったし、中には楽章が終わる直前に1階席のドアが開く音も聞かれた。本来、今回のように空席がある場合は、ドア近くの席に着いていただくか、年配の方でない限り、後ろで立って聞いていただくのが当然の対応ではないのだろうか。何度も演奏会の妨げになるようだと、単にお客さんのわがままだけではないように思われた。
さて、全米室内楽協会のインタビューによると、ミロQのベートーヴェン・プロジェクトは30年近くの長期計画らしい。ミロQが、ベートーヴェンがその弦楽四重奏を作曲したのと同年代で取り組みたい、と考えているからだ。とすると、次にこのプロジェクトが聴けるのは6年後ということになるのだが、きっとその前に、ミロは晴海に戻ってくるだろう。箕口一美ディレクター曰く、「また、呼ばなきゃいけないクァルテットを増やしちゃった(にこり)」。
ちなみにジョンにこの次のプロジェクトは?と訊ねたところ、答えは「Vacation!」。テキサスに帰った後すぐ、ブラジルの音楽祭に呼ばれていて、クリスマス休暇はそこで過ごすらしい。そしてクァルテットには、もう一つ大きなプロジェクトが、第2ヴァイオリン、サンディのおなかの中で育っている。2月には第1ヴァイオリン、ダニエルとの間に初めてのベイビーが誕生する。次の来日は一層にぎやかになりそうだ。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#44〉
ミロ・クァルテット
日時: 2005年12月7日(水)18:00開演
出演者:ミロ・クァルテット
[ダニエル・チン/山本智子(Vn)、
ジョン・ラージェス(Va)、ジョシュア・ギンデル(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン 作品18 全6曲
弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品18の3/第2番ト長調作品18の2/
第1番ヘ長調作品18の1/第5番イ長調作品18の5/
第4番ハ短調作品18の4/第6番変ロ長調作品18の6