2009.2
エルデーディ弦楽四重奏団〈#77〉
ハイドン没後200年を記念してI
この日のホールは賑やかだなと思いつつ入ると、とある福祉団体の方々が百数十名、中央区のボランティア同好会の皆さんも大勢来場されており、いずれの方々も熱心に演奏に聴き入っていました。
第72番ハ長調
均等な響きのイメージが強いハイドンですが、軽快な刻みの第1テーマ、転調しての端正さと熱さとのコントラストが巧みで、内声部が美しく重なり合っていました。第2楽章アンダンティーノではピアノソナタでもお馴染みの優美さを奏で出しており、低音部の分散和音に乗って2声部ずつの対話の部分も優しく穏やかなやり取りにはすっかり和みました。再現部での第1ヴァイオリンがさえずる鳥のように軽やかで、チェロの朗々とした歌い口も魅力的。下からずっと重なり合っていく部分の絶妙なリレーには聴き入りました。第3楽章メヌエットではよりダイナミックな演奏を展開。チェロの幅広い和音に乗ってヴァイオリンが細やかな弓さばきを披露、内声部の重音の動きが美しく響きました。イ長調に転調するとより劇的になり、冒頭テーマに戻っても第1ヴァイオリンの熱さと他3者の粒揃いの支えとのバランスも絶妙でした。第4楽章ヴィヴァーチェでは快活さの中に粒揃いのアンサンブル。厚味ある低音部の長音に乗って高音部のダンサンブルな動きが印象的でした。速さを自在に操っての歯切れ良い演奏を繰り広げ、ヴァイオリンと他3者とのかけ合いもなかなかの聴きものでした。
第73番ヘ長調
第1楽章アレグロでは華やかなファンファーレが軽やかに奏されて爽快でした。ビオラの歌い口も巧みで、ユニゾンで弾き進む4者は呼吸もピッタリ。再現部でも走る事なく冷静に進み、目まぐるしく展開する中にあっても落ち着いて弾き進む第1ヴァイオリンのよく変化する音型も魅力的でした。第2楽章アンダンテの変奏曲では軽やかで短めなテーマで4者共タテに揃った響きで、チェロがメロディを受け持つ部分は聴きものでした。ヴァイオリンがオブリガードを美しく添え、短調での切々とした響きが第1ヴァイオリンを軸としてビオラ(続いてチェロ)の刻む三連符風の刻みがシューベルトの「ます」を思わせる優美さを思い起こさせました。第3楽章メヌエットでは伸びやかなメロディと独特のオブリガードが魅力的で、3者のピチカートも揃って美しい響きで、ユーモラスな楽曲の特色をよく出しているな、と感じました。第4楽章プレストでは軽やかな第1ヴァイオリンの刻みと他3者との対話も巧みで、快活さの中に優美さを忘れない作曲者。強弱のメリハリが付いていて好演。第1ヴァイオリンの幅広い音域を飛び交う部分も聴き入りました。
第74番ト短調
第1楽章アレグロでは独特のメロディを流すにあたって各パートが刻みを意識している演奏でしたが、ややメロディラインが強かったかな、とも感じました。第2楽章ラルゴではテーマ提示の部分はメロディと他3者が分解し過ぎないか心配しましたが、何とか無事に収まり、その後は絶妙なアンサンブルを聴かせてくれました。短調の部分ではチェロの歌い口が美しく、すっかり聴き入りました。第3楽章アレグレットでは各パートもよく歌っており(特にチェロが)、第1ヴァイオリンも目立ち過ぎる事なく、優美にかつ軽やかに弾き進められていました。第4楽章アレグロでは冒頭テーマから4者共テンポによく乗っている演奏で、中でも第1ヴァイオリンの高音が馬のいななきを思わせる"叫び"を出していました。展開部でのやや走りがちなテンポは疾走感を醸し出すかのようでした。楽章が進むにつれてアンサンブルのテンションが存分に上がっていっており、大変聴き応えのある仕上がりとなっていたように感じられました。
アンコールは次回への予告編という意味合いも込めて同じくハイドンの弦楽四重奏曲作品9(第22番)から第3楽章アダージオ。ゆったりとした楽想の中に親密さをより一層前面に出しての演奏に心打たれました。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
エルデーディ弦楽四重奏団〈#77〉
ハイドン没後200年を記念してI
日時: 2009年2月22日(日)15:00開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(ヴァイオリン) 、桐山建志(ヴィオラ)、花崎 薫(チェロ)]
演奏曲:
ハイドン:弦楽四重奏曲第72番ハ長調op.74-1 Hob.III-72
ハイドン:弦楽四重奏曲第73番ヘ長調op.74-2 Hob.III-73
ハイドン:弦楽四重奏曲第74番ト短調op.74-3 Hob.III-74「騎手」
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
「んー、ヴェーベルン」
ということはなかなかありませんね。せいぜい、「ゲンダイオンガク、意外と楽しいよ」といったところです。
さてこのコンサート、「ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界2」は、そのヴェーベルンと間宮芳生の弦楽四重奏曲をあわせて聴く企画。全体の印象としては、半ば勉強をしに行ったという感想を持ちました。これが「半ば」でしかなかったところに、企画と演奏の成功があるのかもしれません。こういうプログラムですから、私が座っていた真ん中あたりよりも後ろは空席が目立ちましたが、オーディエンスのほとんどが知的な関心から来場していたようで、私の近所で何人かが寝ていた以外は、非常に熱心に演奏に聴き入っていました。間宮氏の話やひとつひとつの演奏への反応も上々だったと思います。
来場者のほとんどが知的な関心から来ていた、というのは、来場者のかなりの部分が作曲者である間宮氏のプレ講演から参加していたことでも分かります。話の内容も面白く、そういう意味では講演は短く感じましたが(30分)、といってこれ以上長い訳にもいかないだろうな、とも思いました。特に面白かった部分は、間宮氏の時間論です。著書を読んでいればより興味深い部分ですが、各地の民俗音楽やクラシック音楽を、加速になじむ音楽と減速による表現こそふさわしい音楽とに分けていたこと、そして自身の作品を、後者に位置づけていたことです。自身の減速する作品にインスピレーションを与えたという、ある民俗音楽の録音が紹介されたことによって、この話にさらなる説得力が加わっていました。
会場は大きさ、響きともに、非常に室内楽に適していると感じました。もっと大きな会場で弦楽四重奏を聴くときには、最初は頼りなく感じたりするものですが、今回ははじめから十分な迫力と緊張感で演奏に引き込まれました。コンサートではなかなか無いことです。もっとも、これは演奏の良さもあったのかもしれません。クァルテット・エクセルシオは、スピード感とくっきりとした輪郭を持った、知的で小気味の良い演奏をします。だから現代音楽を説得的に表現することに適した演奏で、好感が持てました。
しかし、「知的で小気味の良い」演奏を「はじめから十分な迫力で」実現できた、というこのクァルテットのパフォーマンスには、ちょっとした副産物もありました。そのひとつは、ヴェーベルンの最初の曲は、ロマン派的なヴェーベルンの良さを堪能できたのですが、第2,3曲ではマンネリになってしまったことです。これは演奏のせいというよりは、作品の質の問題かもしれません。当時としては新しかった技法は、今から見れば、続けて聞くには少々パターン化したものになっていると思います。ヴェーベルンをこれだけ並べて年代順に聴いていく、という企画によってこれが分かったというのは、ある意味狙い通りなのかもしれませんが。そうだとすると、現代音楽が時代と演奏によって古典化する現場を体験できたということでしょうか。
もうひとつは、後半のプログラム、間宮氏作曲の弦楽四重奏曲の演奏です。演奏自体は明晰と安定に貫かれた好感の持てるものでした。しかしその作品が加速と対極にあるもの、という間宮氏自身の話を先に聞いてしまうと、快速調の演奏は「間宮風」ではないのではないか、と思ってしまいます。
これらの「副産物」は、したがって、企画の面白さと演奏者のある種の美点から導かれたものといえそうです。はじめに、半ば勉強をしに行ったような気分だった、と書いたのもそういうことです。つまり、今回のコンサートは、知的な関心を持ち続けながら参加してこその企画だったということです。だから「副産物」といいながらも、そのことにあまり否定的な印象は持たず、それらを含めて面白かったと思います。ここまで書いてから気づきましたが、コンサートのタイトルとプログラム自体が、あらかじめそのようなメッセージを含んでいたのですね。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
日時: 2009年1月31日(土)18:00開演
出演者:クァルテット・エクセルシオ
[西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)]
演奏曲:
間宮芳生:弦楽四重奏曲第1番(1963)
間宮芳生:弦楽四重奏曲第2番「いのちみな調和の海より」(1980)
ウェーベルン:弦楽四重奏曲(1905)
ウェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章op.5
ウェーベルン:弦楽四重奏のための6つのバガテルop.9
ウェーベルン:弦楽四重奏曲op.28
※間宮芳生によるプレトーク17:00~17:30
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
演奏に先立ち間宮芳生氏を迎えプレトークが行われた。私は、残念ながら、5分ほどおくれてしまったが、100人を越えるお客様が熱心に間宮芳生氏と音楽ジャーナリストの渡辺和氏のトークに耳を傾けていた。
ベートーヴェンなどの音楽と違い、現代曲は聞き所がわかりにくい。でも、あらかじめ話を聞いてから音楽を聴くと、具体的なイメージとまではいかなくとも何かを感じながら聞くことが出来たように思える。
前半は、ウエーベルン。ウェーベルンといえば、バリバリの現代音楽?音自体も激しいけれどハーモニーも決して耳障りのいいとはいえないものという感じがあった。(個人的にはこういうものも嫌いではないのですが)
そんなイメージを持っていた私にとってエクセルシオの演奏は、とても新鮮であった。
曲がとてもきれいで、なんだか暖かい。激しい音と不協和音のようなハーモニーの中から調性のある響きが滲み出てきて、全体をやんわりと包んでいるように思えた。
後半の間宮作品は、プレトークのおかげでとても面白く聞くことが出来た。
弦楽四重奏曲第1番は、音が生き生きして、とても生命感に溢れた演奏。
弦楽四重奏曲第2番も素晴らしかった。
次回も楽しみである。
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〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
日時: 2009年1月31日(土)18:00開演
出演者:クァルテット・エクセルシオ
[西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)]
演奏曲:
間宮芳生:弦楽四重奏曲第1番(1963)
間宮芳生:弦楽四重奏曲第2番「いのちみな調和の海より」(1980)
ウェーベルン:弦楽四重奏曲(1905)
ウェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章op.5
ウェーベルン:弦楽四重奏のための6つのバガテルop.9
ウェーベルン:弦楽四重奏曲op.28
※間宮芳生によるプレトーク17:00~17:30
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
弦楽四重奏を生で聴くのは久しぶりでしたが、クァルテット・エクセルシオの演奏にはとても惹き付けられて好感をもちました。「20世紀・日本と世界」という企画は、簡単に広く親しまれやすいものではないと思いますが、知的な探究を惜しまなかった20世紀の作り手と音楽を再考できる、とても有り難い機会だと感じました。
ウェ-ベルンと間宮芳夫、二人の作品が年代順に演奏され、つまみ食いではなく、どっぷりと浸かって味わい、比較や体系的な理解にも誘うという贅沢なプログラムだったと思います。会場は満員とは言えませんでしたが、熱心な聴き手が集まっているように感じました。
いざ聴いてみて、前半のウェ-ベルン4曲で自分の頭がかなり疲労してしまったのが悔しいばかりです。間宮さんのプレトークから聴いて、楽しみにしていた後半の間宮作品でしたが、休憩をはさんでもあんまりしゃきっと回復せず、実はほとんど記憶に残りませんでした。そのことはこのコンサートで最大の心残りですが、一方で自分自身にはよい感覚的刺激が与えられたことともなりました。結局、私は間宮作品を聴いたとはいえないのですが、間宮作品にインスピレーションを与えた前衛詩の存在など、トークで話された作品背景のエピソードなどはとても印象深く残りました。戦後の日本人前衛芸術家の交流や作品追求について、さらに知りたい気がします。間宮作品は改めて聴き直そうと思います。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
日時: 2009年1月31日(土)18:00開演
出演者:クァルテット・エクセルシオ
[西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)]
演奏曲:
間宮芳生:弦楽四重奏曲第1番(1963)
間宮芳生:弦楽四重奏曲第2番「いのちみな調和の海より」(1980)
ウェーベルン:弦楽四重奏曲(1905)
ウェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章op.5
ウェーベルン:弦楽四重奏のための6つのバガテルop.9
ウェーベルン:弦楽四重奏曲op.28
※間宮芳生によるプレトーク17:00~17:30