エルデーディ弦楽四重奏団〈#77〉
ハイドン没後200年を記念してI
この日のホールは賑やかだなと思いつつ入ると、とある福祉団体の方々が百数十名、中央区のボランティア同好会の皆さんも大勢来場されており、いずれの方々も熱心に演奏に聴き入っていました。
第72番ハ長調
均等な響きのイメージが強いハイドンですが、軽快な刻みの第1テーマ、転調しての端正さと熱さとのコントラストが巧みで、内声部が美しく重なり合っていました。第2楽章アンダンティーノではピアノソナタでもお馴染みの優美さを奏で出しており、低音部の分散和音に乗って2声部ずつの対話の部分も優しく穏やかなやり取りにはすっかり和みました。再現部での第1ヴァイオリンがさえずる鳥のように軽やかで、チェロの朗々とした歌い口も魅力的。下からずっと重なり合っていく部分の絶妙なリレーには聴き入りました。第3楽章メヌエットではよりダイナミックな演奏を展開。チェロの幅広い和音に乗ってヴァイオリンが細やかな弓さばきを披露、内声部の重音の動きが美しく響きました。イ長調に転調するとより劇的になり、冒頭テーマに戻っても第1ヴァイオリンの熱さと他3者の粒揃いの支えとのバランスも絶妙でした。第4楽章ヴィヴァーチェでは快活さの中に粒揃いのアンサンブル。厚味ある低音部の長音に乗って高音部のダンサンブルな動きが印象的でした。速さを自在に操っての歯切れ良い演奏を繰り広げ、ヴァイオリンと他3者とのかけ合いもなかなかの聴きものでした。
第73番ヘ長調
第1楽章アレグロでは華やかなファンファーレが軽やかに奏されて爽快でした。ビオラの歌い口も巧みで、ユニゾンで弾き進む4者は呼吸もピッタリ。再現部でも走る事なく冷静に進み、目まぐるしく展開する中にあっても落ち着いて弾き進む第1ヴァイオリンのよく変化する音型も魅力的でした。第2楽章アンダンテの変奏曲では軽やかで短めなテーマで4者共タテに揃った響きで、チェロがメロディを受け持つ部分は聴きものでした。ヴァイオリンがオブリガードを美しく添え、短調での切々とした響きが第1ヴァイオリンを軸としてビオラ(続いてチェロ)の刻む三連符風の刻みがシューベルトの「ます」を思わせる優美さを思い起こさせました。第3楽章メヌエットでは伸びやかなメロディと独特のオブリガードが魅力的で、3者のピチカートも揃って美しい響きで、ユーモラスな楽曲の特色をよく出しているな、と感じました。第4楽章プレストでは軽やかな第1ヴァイオリンの刻みと他3者との対話も巧みで、快活さの中に優美さを忘れない作曲者。強弱のメリハリが付いていて好演。第1ヴァイオリンの幅広い音域を飛び交う部分も聴き入りました。
第74番ト短調
第1楽章アレグロでは独特のメロディを流すにあたって各パートが刻みを意識している演奏でしたが、ややメロディラインが強かったかな、とも感じました。第2楽章ラルゴではテーマ提示の部分はメロディと他3者が分解し過ぎないか心配しましたが、何とか無事に収まり、その後は絶妙なアンサンブルを聴かせてくれました。短調の部分ではチェロの歌い口が美しく、すっかり聴き入りました。第3楽章アレグレットでは各パートもよく歌っており(特にチェロが)、第1ヴァイオリンも目立ち過ぎる事なく、優美にかつ軽やかに弾き進められていました。第4楽章アレグロでは冒頭テーマから4者共テンポによく乗っている演奏で、中でも第1ヴァイオリンの高音が馬のいななきを思わせる"叫び"を出していました。展開部でのやや走りがちなテンポは疾走感を醸し出すかのようでした。楽章が進むにつれてアンサンブルのテンションが存分に上がっていっており、大変聴き応えのある仕上がりとなっていたように感じられました。
アンコールは次回への予告編という意味合いも込めて同じくハイドンの弦楽四重奏曲作品9(第22番)から第3楽章アダージオ。ゆったりとした楽想の中に親密さをより一層前面に出しての演奏に心打たれました。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
エルデーディ弦楽四重奏団〈#77〉
ハイドン没後200年を記念してI
日時: 2009年2月22日(日)15:00開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(ヴァイオリン) 、桐山建志(ヴィオラ)、花崎 薫(チェロ)]
演奏曲:
ハイドン:弦楽四重奏曲第72番ハ長調op.74-1 Hob.III-72
ハイドン:弦楽四重奏曲第73番ヘ長調op.74-2 Hob.III-73
ハイドン:弦楽四重奏曲第74番ト短調op.74-3 Hob.III-74「騎手」