クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
報告:姉川雄大/団体職員/千葉県在住/1階C2扉13列26番
投稿日:2009.02.23
「んー、ヴェーベルン」
ということはなかなかありませんね。せいぜい、「ゲンダイオンガク、意外と楽しいよ」といったところです。
さてこのコンサート、「ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界2」は、そのヴェーベルンと間宮芳生の弦楽四重奏曲をあわせて聴く企画。全体の印象としては、半ば勉強をしに行ったという感想を持ちました。これが「半ば」でしかなかったところに、企画と演奏の成功があるのかもしれません。こういうプログラムですから、私が座っていた真ん中あたりよりも後ろは空席が目立ちましたが、オーディエンスのほとんどが知的な関心から来場していたようで、私の近所で何人かが寝ていた以外は、非常に熱心に演奏に聴き入っていました。間宮氏の話やひとつひとつの演奏への反応も上々だったと思います。
来場者のほとんどが知的な関心から来ていた、というのは、来場者のかなりの部分が作曲者である間宮氏のプレ講演から参加していたことでも分かります。話の内容も面白く、そういう意味では講演は短く感じましたが(30分)、といってこれ以上長い訳にもいかないだろうな、とも思いました。特に面白かった部分は、間宮氏の時間論です。著書を読んでいればより興味深い部分ですが、各地の民俗音楽やクラシック音楽を、加速になじむ音楽と減速による表現こそふさわしい音楽とに分けていたこと、そして自身の作品を、後者に位置づけていたことです。自身の減速する作品にインスピレーションを与えたという、ある民俗音楽の録音が紹介されたことによって、この話にさらなる説得力が加わっていました。
会場は大きさ、響きともに、非常に室内楽に適していると感じました。もっと大きな会場で弦楽四重奏を聴くときには、最初は頼りなく感じたりするものですが、今回ははじめから十分な迫力と緊張感で演奏に引き込まれました。コンサートではなかなか無いことです。もっとも、これは演奏の良さもあったのかもしれません。クァルテット・エクセルシオは、スピード感とくっきりとした輪郭を持った、知的で小気味の良い演奏をします。だから現代音楽を説得的に表現することに適した演奏で、好感が持てました。
しかし、「知的で小気味の良い」演奏を「はじめから十分な迫力で」実現できた、というこのクァルテットのパフォーマンスには、ちょっとした副産物もありました。そのひとつは、ヴェーベルンの最初の曲は、ロマン派的なヴェーベルンの良さを堪能できたのですが、第2,3曲ではマンネリになってしまったことです。これは演奏のせいというよりは、作品の質の問題かもしれません。当時としては新しかった技法は、今から見れば、続けて聞くには少々パターン化したものになっていると思います。ヴェーベルンをこれだけ並べて年代順に聴いていく、という企画によってこれが分かったというのは、ある意味狙い通りなのかもしれませんが。そうだとすると、現代音楽が時代と演奏によって古典化する現場を体験できたということでしょうか。
もうひとつは、後半のプログラム、間宮氏作曲の弦楽四重奏曲の演奏です。演奏自体は明晰と安定に貫かれた好感の持てるものでした。しかしその作品が加速と対極にあるもの、という間宮氏自身の話を先に聞いてしまうと、快速調の演奏は「間宮風」ではないのではないか、と思ってしまいます。
これらの「副産物」は、したがって、企画の面白さと演奏者のある種の美点から導かれたものといえそうです。はじめに、半ば勉強をしに行ったような気分だった、と書いたのもそういうことです。つまり、今回のコンサートは、知的な関心を持ち続けながら参加してこその企画だったということです。だから「副産物」といいながらも、そのことにあまり否定的な印象は持たず、それらを含めて面白かったと思います。ここまで書いてから気づきましたが、コンサートのタイトルとプログラム自体が、あらかじめそのようなメッセージを含んでいたのですね。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
クァルテット・エクセルシオ〈#76〉
ラボ・エクセルシオ 20世紀・日本と世界II
日時: 2009年1月31日(土)18:00開演
出演者:クァルテット・エクセルシオ
[西野ゆか/山田百子(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)]
演奏曲:
間宮芳生:弦楽四重奏曲第1番(1963)
間宮芳生:弦楽四重奏曲第2番「いのちみな調和の海より」(1980)
ウェーベルン:弦楽四重奏曲(1905)
ウェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章op.5
ウェーベルン:弦楽四重奏のための6つのバガテルop.9
ウェーベルン:弦楽四重奏曲op.28
※間宮芳生によるプレトーク17:00~17:30