第一生命ホール 5周年の記念日コンサート
報告:齋藤健治/月島在住・編集者/1階14列7番
投稿日:2006.11.28
TANが2001年の活動以来つくってきた舞台に幾度も接してきた。その前年にこの町に移り住み,建設途上のトリトンスクウェアを眺めていた。高いタワービルに囲まれたこの丸い建物は,いったい何なんだろうかと。
それがホールであることを知ったのは,幸いなことにオープニング事業に関わることができたからである。それからTANとのおつきあいが始まった。しかし,まだクラシック音楽にはなじめなかった。
一変したのは,ある舞台からだった。ここに2001年6月20日「試聴会」のプログラムがある。この時,松原勝也さんと若いアーティストによるクァルテットが弾いたのが,バルトーク「ルーマニア民族舞曲」だった。自由奔放にヴァイオリンを鳴らす松原さん。すっかり魅了された。「クラシック音楽とは,こんなに自由でダイナミックなものなのか!」
この日以後,クラシック音楽を聴くことが愉しくなっていった。ふだんの生活の彩りが一つ増えた。CDも少しずつ買いそろえていった。その中の1枚が,シューマン「ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44」。
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本日の第2部が,幸いなことに,このシューマンの曲だった。ひょんなきっかけでTANとかかわり,クラシック音楽に傾倒していき,それから5周年。ステージで今聴きたい曲は何かと聴かれたら,迷わずこれだと答えたであろう中の一曲。それが記念の日のプログラムと重なり合った。なんとも嬉しい偶然の一致である。
ピアノに向かうは,日比谷の旧ホールにも立ち,この晴海での新ホール・オープニングの舞台をも飾った長岡純子さん。競演するは,松原・鈴木・川崎・山崎氏によるプレアデス・クァルテットだ。
第1楽章アレグロ・ブリランテの第一声はキッパリとしたフレッシュな音。新鮮な野菜を口に運んでいるかのような快さ。第2楽章イン・モード・ドゥナ・マルチア、ウン・ポーコ・ラメルガンテは主部の戻る際の響きが清楚であり、第3楽章スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェはコクのある激しさ。そして第4楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポで至福の高まりに達する。
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1階席は8割ほどの聴衆で埋まり,これだけ多くの人によって記念の日を祝福されたことを,喜ばしく思う。ステージによって観客の入りに変動はもちろんあったことだろう。しかし,5年間,アーティストのサウンド,客の拍手とヴラボーの声に刻まれ,TANとこのホールは育ってきた。その逆に,TANとこのホールも人を育ててきた。そう,一人のヴァイオリニストの音をきっかけにクラシック音楽にひきずりこまれた私のような者を。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈特別コンサート〉
5周年の記念日コンサート
日時: 2006年11月15日(水)19:15開演
出演者:長岡純子(ピアノ)
プレアデス・ストリング・クァルテット(弦楽四重奏)
クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調作品20
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調作品44