第一生命ホール 5周年の記念日コンサート
報告:尾花勉/2階C1列1番
投稿日:2006.11.28
さて『五周年の誕生日コンサート』は、プレアデス・ストリング・クァルテットとクァルテット・エクセルシオに依るメンデルスゾーンの弦楽オクテットで幕を上げた。この両楽団は始めての共演と云う事らしいが、その様な素振は微塵も無く、逆にそれがほどよい緊張感を生んでいる。特に素晴らしかったのは、ピアノからフォルテというダイナミクスに、目に見える計の減り張りを付けていた所だ。この「演出」が、彼の天才が十代に書き上げたと云う当曲が持つ若若しさを充分引き出した丈でなく、今日という喜ばしい堂内に祝祭的な華やかさを添えているかの様だった。
休憩を挟み、今宵の真打、長岡純子さんを迎え、プレアデス・ストリング・クァルテットとのシューマンのピアノ・クインテットが演奏された。長岡さんのピアノは楷書的な折り目の正しさの中に、人間的な暖かさが滲んでいる。共演しているプレアデスSQのみならず、聴いている私達をも長岡さんの音楽へ迎え入れて呉れる様な慈愛に溢れている。心静かにその音色に身を委ねていると、遠い日に感じた母の温もりを思い出す......。最後の和音が奏されると、ホール内は何とも言えない一体感に満ちていた。
終演後、ロビーに出てきた老夫妻が「こんなに優しい気持ちになれたは久しぶりね」と語り合っている姿が美しく映った。
吉例に倣い某氏と数人で赤提灯へ入り、五周年御目出とうと杯を挙げた。そして何となく気になり鞄の中の『新明解国語辞典』(山田忠雄(主幹)、第六版、2005、三省堂)を引いてみた。
あい【愛】 個人の立場や利害にとらわれず、広く身のまわりのものすべての存在価値を認め、最大限に尊重して行きたいと願う、人間本来の暖かな心情。
そう、これこそ今日のコンサートそのものではないか。長岡純子さん、プレアデス・ストリング・クァルテットとクァルテット・エクセルシオ。更にこのコンサートを蔭、日向なく支えたサポーター諸氏、或いはTAN、またホールの職員各位、そして聴衆。その全てがこの「人間本来の暖かな心情」で結ばれていたのだ、と、心からそう思った。
愛すべき人と愛すべき音楽に育まれる、愛すべき第一生命ホール。本当によかったね、これからももっと大きくなるんだよ。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈特別コンサート〉
5周年の記念日コンサート
日時: 2006年11月15日(水)19:15開演
出演者:長岡純子(ピアノ)
プレアデス・ストリング・クァルテット(弦楽四重奏)
クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調作品20
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調作品44