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「晴れオケ」コンサートマスター 矢部達哉 インタビューその4
ベートーヴェン交響曲全曲演奏会、いよいよ10/6(土)スタート!

2018年9月7日

コンサートマスター矢部達哉のもとに集ったメンバーで、指揮者を置かず、室内楽の延長のような、自発的で研ぎ澄まされたアンサンブルを特徴とする『トリトン晴れた海のオーケストラ(晴れオケ)』。

ベートーヴェン生誕250年にあたる2020年に向け、今年10月6日を皮切りに3年に渡ってベートーヴェン交響曲全曲演奏会(全5回)を開催します。

コンサートマスター矢部達哉さんのインタビュー、最終回です。
(聞き手:片桐 卓也)

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‐片桐

矢部さんの経験の中で、ベートーヴェンの音楽と深く触れ合った瞬間は?

‐矢部

ベートーヴェンを深く感じるきっかけになったのは、後期の弦楽四重奏曲です。
全然良くわからないし、良い曲だとも思ってなかったのだけど、クァルテットの他の3人が、弦楽四重奏団やっている以上、これは避けられないよって言って。
そこで作品127を演奏したのが最初で、作品131(第14番)を次に演奏しました。

そのゆったりした楽章を弾いている時に、なんか、ベートーヴェンの生の声に触れたという感じがしたのですよね。
それは僕だけではなくて、他の3人も。

生の声に触れたというのは錯覚かもしれないけれど、
ベートーヴェンは生の声を楽譜に移すことが出来たのだなと。
もう死ぬ間際になった、ベッドの上で書いていたのかもしれないのだけれど、でも、本当に自分をかっこ良く見せようとか、「俺、すごいんだぜ」というのを見せる必要が無くなった人が、音楽と自分だけになっている。

その世界を初めて知るきっかけになった作品でした。

音楽の核だけを残すことが出来て、なるほど、ベートーヴェンは最終的にはこういうものを目指していたのだということを感じることが出来た。

それから後期の弦楽四重奏曲を全部やることになって、これは信じられない作曲家だと思うようになったのですが、そこを知ってから、彼のシンフォニーの時代を知ると、ベートーヴェンが何を求めていたのかというのが、なんとなく見えるようになって来た。

見えるといっても、可視化できるものではないのだけれど、ベートーヴェンというのは人間だったということ。
人間の弱さや強さ、無邪気な感覚、童心、怒り、そうしたものがすべて音楽に含まれている。
モーツァルトの場合は、そういう心の奥底の正直な部分は隠されていることが多いのです。
よく聴くと、ポロッとひとしずくの涙が出ていることはあるけれど、「悲しいんだ!」って、号泣することはない。
でも、ベートーヴェンの場合は叫びっていうのが聴こえて、それはシューベルトにも聴こえるし、後の作曲家にも聴こえるし、マーラーでそういうことが絶頂に達した訳ですよね。

そういう人間の感情を、音に託した人、それまでは、教会とか神様に密接に結びついていた音楽を、人間の手に取り戻した人というか、なんか人間の持つ感情の根源的な部分を音に出来た人。初めて。
人間の持っている無邪気さというか、子供な部分は、大人になるとどんどんリミッターがかかりますよね。こういうことを言っちゃいけないとか。
ベートーヴェンはお金でも1円2円のことでとてもうるさく言ったとか、女中さんをどなりつけたとか、そういう正直なエピソードにも現れている人間性の無邪気さが、ベートーヴェンのひとつの魅力ですね。

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‐片桐

すべてにおいて正直な人。だからこそベートーヴェンの音楽は初期の作品から新しい感覚を持っていたのでしょうか?

‐矢部

新しいという意味では、もうひとつの意味があって、モダンということに関しては、マーラーやブルックナー以上に、いまでもベートーヴェンのほうがモダンだと思うことが多いですね。
「エロイカ」とかやっていてもそうだし、ベートーヴェンの「第七番」もそう。
最近演奏したベートーヴェンで素晴らしかったのは、東京都交響楽団でアラン・ギルバートとやった回でしたけれど、終わった後に、彼が本当に興奮していて、「新しいよね、ほんとに新しいよね」って言うのです。
今まで、数えきれないぐらいやったけれど、やっぱり今日、新しかったって言う。
なかなかそういう曲はないですよ。

ベートーヴェンは「エロイカ」だって何回も弾いていて、これ以上の楽曲があるのか、という気がいつもします。
「第九」だって、毎年演奏していますが、ルーティンに陥ることはなくて、もう信じられない曲ですよね。奥行きがありますよ。第1楽章だって、まだこの曲の20%ぐらいしか分かっていない。この曲の結論を見せて欲しいと思うのですけど、誰も見せてくれたことがないと思います。本当に。

‐片桐

その点が、ベートーヴェンが繰り返し演奏される秘密なんでしょうね。
演奏するほうがそうなのだから、聴き手だって、もっと奥がありそうと思いますものね。
初めての人が聞いても、一発目でノックアウトされるものがあると思う。

‐矢部

ベートーヴェンの作品は、普遍性、普遍的であることの代名詞だと思っています。
大野和士さんが東京都交響楽団の音楽監督に就任した、その披露演奏会の時に「運命」をメインにしたのですよね。
その時に改めて素晴らしい音楽だと思ったし、これ以上の音楽はないと思った。
これまで「運命」で僕はどれだけノックアウトされたのだろうと思って。
小学校などで「運命」の第一楽章をよく演奏するのですけど、なんて音楽だと思うし、こちらも100%で弾くし、子供たちも分かると思う。
もちろんもっと分かりやすい曲、「カルメン前奏曲」とか「モルダウ」などもやりますけれど、「運命」の方がはるかに心を掴むという感じがしますね。

‐片桐

ベートーヴェンの交響曲というのは、あまりに有名すぎるからなのか、意外とオーケストラの定期演奏会でも演奏される機会が少ないですから、この3年間のツィクルスはその全曲を体験する貴重な機会になりますね。

‐矢部

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ベートーヴェンの音楽が今でも新しいということ。
生でコンサートに来て頂けると、大ホールでの演奏と違って、第一生命ホールでは演奏者との距離も近いので、演奏家の息づかいとか、一人一人が音楽に命を吹き込んでいる姿を見て頂けると思います。
その姿が、より音楽への感動を深めると思います。
「晴れオケ」は本当に素晴らしいオーケストラだと思うので、自分たちもベートーヴェンを提供するという感じではなく、みなさんと一緒にベートーヴェンを体験したい、その世界を駆け抜けたいと思います。

‐ありがとうございました。

【News!】
昨年11月11日(土)に行われた
トリトン晴れた海のオーケストラ 第3回演奏会の一部を
PrimeSeat でアンコール配信中!(→PrimeSeat はこちら

<トリトン晴れた海のオーケストラ 第4回演奏会 ベートーヴェン・チクルスⅠ>

■日時:2018年10月6日(土) 14:00開演
■出演: トリトン晴れた海のオーケストラ
【コンサートマスター】矢部達哉
【ヴァイオリン】双紙正哉 会田莉凡 小川響子 景澤恵子 塩田脩 直江智沙子 福崎雄也* 松浦奈々 三原久遠 渡邉ゆづき 
【ヴィオラ】篠﨑友美 瀧本麻衣子 福田道子 村田恵子
【チェロ】山本裕康 清水詩織 森山涼介
【コントラバス】吉田秀 佐野央子
【フルート】小池郁江 斎藤光晴
【オーボエ】広田智之 池田昭子
【クラリネット】三界秀実 糸井裕美子
【ファゴット】岡本正之 岩佐雅美
【ホルン】西條貴人 和田博史 濵地 宗
【トランペット】高橋敦 中山隆崇
【ティンパニ】岡田 全弘
■ベートーヴェン:
交響曲第1番 ハ長調Op.21
交響曲第3番 変ホ長調Op.55「英雄」
■S席¥6,000 A席¥5,500 B席¥3,500 ヤング¥1,500(小学生以上、25歳以下)
2公演セット券 S¥11,000( *12/1 第5回演奏会 ベートーヴェン・チクルスII )

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