ベートーヴェンと同じ故郷ボン出身で、日本人の父とドイツ人の母を持つチェリスト石坂団十郎さんが、ピアニスト小菅優さんとともにベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲演奏会を行います。
団十郎さんに伺ったお話を、4回にわけて掲載中! 今回は第3回です。
初稿版の楽譜から分かるベートーヴェンの作曲法
――2009年に、ピアノのマルクス・シルマーさんとベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会で日本ツアーをして、全曲ではありませんでしたが、第一生命ホールでも演奏していただきました。その時、そして今回も、チェロ・ソナタ第3番の第1楽章は、初稿版も演奏されますね。
やはりベートーヴェンの書き方が、おもしろいですね。モーツァルトと比べると違いが分かります。モーツァルトはパッと完璧なものをそのまま譜面に書いたのではないでしょうか。ベートーヴェンは葛藤して、自分でもよく分からない時があったようです。例えば、第3番第2楽章の冒頭は、最初の音はpp(ピアニッシモ)、次の音をff(フォルティッシモ)と書いています。誰も見たことがないような音楽なので、やはり不思議に思った出版社が、ベートーヴェンに「この強弱記号はあっていますか」と手紙で聞いたら、「いや、違いますね」と全部フォルティッシモにしたのです。でもその後、また手紙で、「やはり前のとおりに戻します」と。なかなか決められない時があったようですね。軽い感じで作曲はしなかったようです。ベートーヴェンは、常によく考えて、絶対的な音楽を探し求めていたのです。そこが好きです。それがベートーヴェンの特徴ですね。
――天から降ってきたものというより、こうあるべきであるというものを探し求めたのですね。
もちろん降ってきたものも入っているでしょうけど、そんなに簡単なものではなかったと思います。そして、ベートーヴェンのメロディーは上品ですね。ベートーヴェンの音楽に出会った時、天国にいるようだと感じました。まるで神とつながっているかのような、彼が天国にいるかのような感じです。
――前回、初稿版を演奏なさった時、暗譜でしたよね。通常演奏されているものとほぼ同じですが、ある部分だけチェロとピアノのパートが入れ替わったりしています。両方弾くのは混乱しませんか。
気をつけなくてはなりませんね。ベートーヴェンの曲はまだいいのです。プロコフィエフには、チェロ協奏曲Op.58と同じ素材でつくった交響的協奏曲Op,125がありますが、結構違っている。これを両方暗譜で同じシーズンに弾いたら"ヤバい"ですね(笑)。でもベートーヴェンの場合は、はっきりしていますから大丈夫です。
――暗譜は得意な方ですか。
いや、指揮者のロリン・マゼールほどではないです(笑)。マゼールさんは、初めてスコアを見て、それでもう暗譜できたそうですね。しかも古典だけではなく、例えばペンデレツキ[ポーランドの作曲家、指揮者]の交響曲のスコアを、移動する飛行機の中で初めて読んで、リハーサルはもう暗譜。これは普通じゃないですけどね。
――この初稿版は出版されていないのですか。
出版されていませんが、弾きたければ誰でも弾けると思います。僕はベートーヴェン・ハウスからのオファーで、この楽譜が発見された時に初めて弾いたのです。
チェロ・ソナタ第4番は、ベートーヴェンが求めた絶対的な音楽
――今回のプログラムはどのように決めましたか?
優さんの意見も聞いて一緒に考えました。色々考えて、今回はこれが一番いいかなと。6月の第1回は、第4番がメインです。前回の全曲演奏会の時は、第4番ではなく第2番を最後にしましたが、最近、第4番が特別に好きなのでこうしました。第4番は、ベートーヴェンの求めた「絶対的な」音楽だと思います。
12月の第2回は、第3番を最後にしました。第3番はどちらかというとオペラのようなところがあります。特に最後のコーダのカデンツァの使い方などですね。メロディー自体も歌のようです。もちろん第1番、第2番もそういうところがありますが、この2曲で一番フォーカスされているのは、歌ではなくモティーフですね。それに比べて、第3番は歌っている。それで、やはりチェロのソナタの中で一番有名で人気があるのだと思います。とてもいい曲です。
――それが第4番、第5番になると、また変わっていく?
そうですね、第5番の、レファミレレー、
これはモティーフですし、ラーラーシー、
これは、あまりきちんとしたテーマではないですよね。
――ベートーヴェンは、確かに交響曲第5番でもモティーフだけで音楽を作っていますしね。
ブラームスの場合は、モティーフから作ったのに、それでもすごく歌っている方向にいったのです。でもベートーヴェンは、ドライというほどでもないのですが、熱かったり、相手をハグしたりするような感じではない。犬と猫の違いとでもいいましょうか。ベートーヴェンは猫ですね。
――ブラームスは犬、で心に寄り添ってくれるような?
そうですね。
その4に続く
小菅 優&石坂団十郎
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全曲演奏会(全2回)
■出演:小菅 優(ピアノ) 石坂団十郎(チェロ)
■日時: 2018年6月15日(金) 19:00開演
■演奏プログラム
【オール・ベートーヴェン・プログラム】
《マカベウスのユダ》の主題による12の変奏曲 ト長調 WoO45
チェロ・ソナタ第2番 ト短調 Op.5-2
チェロ・ソナタ第1番 ヘ長調 Op.5-1
《魔笛》から「娘か女房か」の主題による12の変奏曲 ヘ長調 Op.66
チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
公演情報はこちら
■日時: 2018年12月15日(土) 14:00開演
■演奏プログラム
【オール・ベートーヴェン・プログラム】
《魔笛》から「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46
ホルンとピアノのためのソナタ ヘ長調 Op.17
チェロ・ソナタ第5番 ニ長調 Op.102-2
チェロ・ソナタ第3番 イ長調 Op.69から 第1楽章(初稿版)
チェロ・ソナタ第3番 イ長調 Op.69
公演情報はこちら
■各回S席¥5,000 A席¥4,500 B席¥3,500 ヤング¥1,500(小学生以上、25歳以下)2公演セット券S¥9,000