2010.3.8
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
本公演は兵庫県養父市で二年に一度行われる第8回ビバホール・チェロコンクール第一位受賞記念として行われた共催公演です。
このビバホールコンクールは1994年にスタートされた地方の小さな町が行うものでご多分にもれず財政難で厳しい状況にも拘らず堤剛氏をはじめとする審査員や毎回、100人を超える住民ボランティアの支援により立派に運営され続けられ、今や「若手チェリストの登竜門」と呼ばれるまでになっています。
この日のプログラムと共に挟み込まれたチラシの中には「第9回ビバホール・チェロコンクール」「元気な養父づくり応援寄付金」に加えて「一円電車募金」趣意書が含まれていました。「一円電車募金」とはかつて明延鉱山で走っていた乗車賃"1円"の鉱山鉄道の保存・活用活動としての募金への協力お願いです。
さて加藤文枝さんは同志社高校を卒業し東京藝術大学から今春、同大学院に進学予定の若き俊英でこれまでに、日本クラシック音楽コンクール全国大会第3位、札幌ジュニアチェロコンクール優秀賞、泉の森ジュニアチェロコンクール高校生以上部門金賞、京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家たち」奨励賞を受賞し、既に大阪センチュリー交響楽団とも共演し、2006年よりパリのエコールノルマル音楽院に給付生として入学、という綺羅星のような経歴を築いた上で2008年のビバホール・チェロコンクールに第1位となっておられます。
その後も2009年には東京藝術大学内にて安宅賞を受賞され、東京音楽コンクール弦楽部門第2位となり、今、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを持ったチェリストと言えるでしょう。
ステージが舞台明りになると純白ドレスで堂々と登場し、一曲目はドビュッシーのチェロソナタです。この曲は作曲家最晩年の様々な楽器の為の6つのソナタの一つですが、チェロ奏者にとってドイツロマン主義とは正反対の極めて繊細な演奏を求められるレパートリーです。冒頭の低音部から上向する音型からピアノと精密なアンサンブルが要求されます。 加藤さんの演奏は実に磨き抜かれたもので、特に親指によるピチカートはホールに良く響き渡り演奏効果を上げていました。
二曲目のデュティユーの「ザッハーの名による3つのストローフェ」と言う曲はスイスの指揮者パウル・ザッハーの功績を讃える為にロストロポーヴィチが世界の12人の作曲家に委嘱した作品の一つだそうです。
最弱音のハーモニクスもよく響かせて巧みな弓さばきで難曲を聴かせるのに成功していました。
三曲目はシューマンの幻想小曲集(Op73) です。弾き出しから万感迫るロマンチシズムのほとばしりが感じられ、卓越した技巧の持ち主であることが証明されていました。
四曲目はラフマニノフのチェロソナタト短調(Op19)です。この曲はシューマンから始まったロマン主義の行き着く姿があるともいわれますが、ロシア的な叙情をたっぷりたたえた名曲です。ただその為に、チェロとピアノのアンサンブルによってはチェロが隠れてしまって聴きとれないという危険性も出てくる難曲でもあります。
加藤さんの奏する1楽章は堂々とした風格を持ったもので、2楽章はアンサンブルピアノが水際立った演奏で、良くチェロを支えていました。3楽章は濃厚なロマンチシズムの一番の聴かせどころをたっぷりと歌ってくれました。4楽章はだんだん興奮してくるとピアノの分厚い響きにややチェロのメロディが隠れがちだったのが惜しいように思われました。
全体を通して才能豊かなチェリストをしっかりと支えていたアンサンブルピアニストは入川舜です。
アンコールの1曲目は白鳥をしっとりと、2曲目はプーランク作曲『ルイ・アラゴンによる2つのポエム』より「C」、3曲目はシューマン『詩人の意』より「明りさす夏の朝に」でした。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
日時: 2010年2月28日(日)14:00開演
出演者:加藤文枝(チェロ)、入川舜(ピアノ)
演奏曲:
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
デュティユー:ザッハーの名による3つのストローフェ
シューマン:幻想小曲集op.73
ラフマニノフ:チェロ・ソナタト短調op.19
クラシック はじめのいっぽ Vol.19
チェロ&ピアノ~石坂団十郎&マルクス・シルマー~
今回は、チェロとピアノで全曲、そしてベートーヴェンの作品 だったので、とても楽しみにしていました。
チェリストの石坂さんの座った場所は、ピアニストのすぐ横で、 寄り添うような感じで座っていました。通常、あまり見たことのない風景が、まず印象的でした。そして今日の演奏が楽しみになってきました。
プログラムの解説によれば、この日の選曲は、ベートーヴェンが 20代に書いた作品が中心となっているとのこと。ベートーヴェン は、チェロの曲でありながらも、ピアノが大活躍していることが多 いので、ついついピアニストに注目してしまいます。
その期待以上に、マルクス・シルマーさんのピアニシモ (pp)には、震えがとまりませんでした。そして、ソナタで は、力強くチェロを誘導していると思いきや、ときおり、相手を気遣っているような雰囲気で振り返る。そんなとき、チェリストも、堂々と弾いていながら、ピアノの方に身を傾けている感じが微笑ましく感じました。寄り添いながらの二人の様子は、奏でられる音に表れていて、ここちよい雰囲気が伝わってきました。
変奏曲では、一つ一つのモチーフが短く次々とうつろっていくので、その変化を追いかけているのが楽しかった。また、ヘンデルの主題による変奏曲の中の短調の時のチェロは、楽器そのものの味わいを響かせ、最後の変奏では、チェロとピアノの掛け合いが見事でした。
ところで、このシリーズのもうひとつの楽しみは、演奏者によるお話なのですが、アンコール曲のタイトルをアナウンスするまで、今回ありませんでした。珍しいことですが、プログラムの楽しさを半減させるほどではなかったように感じます。その要因は、緊張感をもって聴くことができ、そして全曲ベートーヴェンの作品だったことも関係していると思います。アンコールが仮になかったとして も、それで満足なほどの充実感がありました。
そんな印象でしたが、お待ちかねのアンコールは、シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ(第2楽章)」。チェロらしい柔らかな音でメロディーが流れてきて、「いいコンサートだった」とひとり、にっこりしてしまうほどの出来映え。違う作品も聴いてみたいし、何年か後に再び、本日の二人のベートーヴェンを聴く機会を、このホールで持てることを期待してしまいました。
公演に関する情報
<ライフサイクルコンサート #47>
クラシック はじめのいっぽ Vol.19
チェロ&ピアノ~石坂団十郎&マルクス・シルマー~
日時: 2010年2月10日(水)11:30開演
出演者:石坂団十郎(チェロ) マルクス・シルマー(ピアノ)
演奏曲:
ベートーヴェン:モーツァルトの「魔笛」の「娘か女か」の主題による12の変奏曲ヘ長調op.66
チェロ・ソナタ第3番イ長調op.69より第1楽章(初稿版)
ヘンデルの「ユダ・マカベア」の「見よ勇者は帰る」の主題による12の変奏曲ト長調WoO.45
チェロ・ソナタ第2番ト短調op.5-2