2007.10.29
古典四重奏団~ショスタコーヴィチ・ツィクルスvol.1-1~
ショスタコ体感第2ラウンド開幕~ショスタコーヴィッチ・ツィクルスVol.1の1~
昨年別のクァルテットでショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲全曲を聴いたのですが、短期間に一気に聴き通したという事もあって正直なところ体力面でもハードだったのですが、今回は程よく間隔を設けてのツィクルスとの事で、幾分落ち着いて聴けるのではないかと期待しています。
第1番ハ長調
まず目を引いたのが、当夜の舞台上の配置。第1ヴァイオリン、チェロ、ビオラ、第2ヴァイオリンという位置付けは、音量面の考慮もあったのでしょうか。昨年の別のクァルテットはいわゆる"通常の"配置だった事もあり、今回の古典の面々の音作りの意図にいろいろと思いを巡らせました。
第1楽章モデラートはいつもながらの伸びやかな第1ヴァイオリンのメロディラインが大変印象に残りました。第2楽章モデラートではビオラによるさり気ないテーマ提示に始まり、第1ヴァイオリン→チェロのリレーが巧みに進められており、チェロのピチカートに加えビオラ・第2ヴァイオリンの第2テーマ部分では何故かブルックナーの交響曲を思わせるような深遠な響きを思い起こさせました。第3楽章アレグロモルトでは新しい音を探ろうとして好奇心を持って覗き込むような様子さえ想像させました。第4楽章アレグロでは生き生きとパワフルなアンサンブルはその勢いを抑えきれないくらいの快感が魅力的でした。
第2番イ長調
第1楽章「序曲」モデラートコンモートではグレツキの「3つの舞曲」でも聴かれた民族音楽を思わせる力強く深い響きに聴き入りました。第2楽章アダージオ「レチタティーヴォとロマンス」では弾むような又流れるような間にあってショスタコーヴィッチ和音を展開していきました。第1ヴァイオリンと他3者とがオペラアリアのように切々としかも艶やかにゆったりと歌い進められていました。第3楽章アレグロ「ワルツ」では幾分速めに設定されたテンポの中でめくるめくようなたたみかけるアンサンブルに思わず息を呑んで聴いていました。抑えられた音量の中での緊迫は、歌唱で申せば普通に歌う以上に身体を用いるように、一層の神経と耳と呼吸(目線?)の集中を込めていました。フィナーレのアダージオ~モデラート「主題と変奏」では、ビオラの艶やかな歌い口が魅力的で、ビオラ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリン→チェロとリレーしていく様子も聴きものだったと思います。細やかな3連フレーズの第1ヴァイオリンかと思ったら唐突なテンポアップに「はじける」チェロとそれに裏拍で呼応しようとするヴァイオリン2人のやり取りも聴き所であったと思います。チェロの細かく激しい刻みに食らいつく他3者の部分は走馬灯のように巡っており、ビオラとチェロの細かい刻みに乗って第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの対話が展開し、3人の分厚いヨコの響きに劇的レティタティーヴォで第1ヴァイオリンが応える部分も見事でした。
第3番ヘ長調
第1楽章アレグロでは曲によりドラマ性を持たせるようにプロフィエフに似通っていて実はかなりリズムの置き方に特色を持たせていて(各パートがフーガのように代わる代わる弾いていくメロディが魅力的!!)、途中フーガがテンポアップしていくコーダ部分も聴き入りました。第2楽章モデラートコンモートでは、歯切れよさが身上とも呼べそうな楽章ですが、ビオラの分散和音に乗ってヴァイオリンが絡みつきチェロが合いの手を入れるという展開にあって、ビオラとヴァイオリンの中音部がよく活躍しているというところをみると、ここに「人間・ショスタコ」を思い起こさせるように感じました。第3楽章アレグロノントロッポでは複合拍子を取ったテーマで激しくて、まるで「ショスタコ的ゴジラ」と思わせるくらいの切れ味を感じさせてくれました。厳しさを伴うリズムの展開は裏拍のピチカート、「テケテッテ~」と同音の激しい連続刻みを得てますます力を帯び、ビオラ低音部とチェロ高音部の嘆き節はやがてヴァイオリンにも匹敵する切なさへと昇華していくように感じられました。第4楽章アダージオでは葬送行進曲を思わせるユニゾン部分はもしかすると国家体制に対する音による抵抗を表現せんとしたのではないかと思わせました。フィナーレのモデラートでは舞曲的部分や行進曲部分、静寂の部分とさまざまな断片をもって展開していく「ロンド」形式ではやがてピチカート3回の中で全てを霧の彼方に包み隠すように遠ざかっていく展開でしたが、ここではもしかすると作曲者自身の心情を切々とかつ慎重に吐露していたのかもしれません。
これだけ密度の濃いものを暗譜で弾き通すというのがいわば奇跡にも感じられたのですが、それともこれは彼らの中に染入っているのが表出した彼らにとってはごく当たり前の姿なのでしょう??
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#59〉
古典四重奏団~ショスタコーヴィチ・ツィクルスvol.1-1~
日時: 2007年10月3日(水)19:15開演
出演者:古典四重奏団
[川原千真(Vn1)/花崎淳生(Vn2)、三輪真樹(Va)、田崎瑞博(Vc)]
演奏曲:
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番ハ長調作品49、第2番イ長調作品68、第3番へ長調楽品73
プレアデス・ストリング・クァルテット
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅱ~
初回にこれでもかとさり気なく圧倒した師匠達が2回目の演奏に臨みました。
第12番変ホ長調
第1楽章マエストーソ-アレグロでは奥行きのあるシンフォニックな演奏が印象的。チェロが特に雄弁に語り、ヴァイオリンはひたむきに歌っていました。陶酔的といわれている第2楽章アダージョでは涼やかにかつひたむきに歌う第1ヴァイオリンは線細く高音部を歌い上げていましたし、チェロの裏拍に入る部分が休符なのに目に見えない糸で結びつけられつながっているように感じられました。第3楽章スケルツァンド・ヴィヴァーチェでもチェロが雄弁で、ビオラ~第2ヴァイオリンへの受け渡しも聴きもの。トリオ部分では第1ヴァイオリンがやや走りがちに弾いていましたが、この部分は調の移り変わりに合わせて速度を上げていく意図を特に意識しているような印象でした。この特徴あるテーマは後半ではタテに揃ったアンサンブルを聴かせていました。一般にはアレグロとされる第4楽章フィナーレでは良い意味で力の抜けた楽章として、前打音にやや重みを置いて弾いていましたが、強弱のメリハリやオクターブを駆け巡る中で高低差のあるアンサンブルを展開、緩急自在に弾き進めていきアルペジオもスパッと決めている爽快さが魅力的でした。
第2番ト長調
この曲に入ると第1ヴァイオリンも歌を前面に出すようになり、一言で申すならば「一心同体」とも「一連托生」とも。4人が弾いているのにすっかり一つにつながっており、音の立ち上がりも極めてさっくりとしたものでした。第2楽章アダージオカンタービレではややもするとこの部分は唐突に取られがちなのですが、中間のヘ長調がある種の自然な勢いをもって弾かれており、再現部のチェロのたっぷりとした歌い口を聴いていて、某BBCのチェロトップ奏者を思い浮かべてしまいました。ラストのチェロの問いかけと他3者の応答との親密なやり取りにも大変好感が持てました。第3楽章スケルツォ・アレグロでは変奏曲の1つを思わせる凝った音作りとなっており、第1ヴァイオリンに対して他3者が挨拶を思い起こさせるような相づちをうつような印象でした。ハ長調のトリオでの半音刻みのベース音も聴きものだったと思います。第4楽章アレグロモルトクワジプレストでは1テーマ中の高低の対話が奥深く、曲後半では変奏曲を思わせる第1ヴァイオリンの軽やかな技巧を敢えて「狙う」ような事はしない軽快な下降形部分等、聴き所に満ちていました。白眉はコーダに入ってからの緩急の付け方で、存分に緩めてパウゼを置こうとしたその次の瞬間一気に駆け抜けていく爽快感がよく弾き出されていたと思います。
第8番ホ短調「ラズモフスキー第2番」
第1楽章アレグロでは心地良い余韻もさる事ながら、ヴァイオリンどうしが火花を散らすような部分は内に向かって強力に推進していくイメージを抱かせました。第2楽章モルトアダージオでは作曲者の意図通り、いやそれ以上に感情を存分に込めて弾き進めていましたが、第1ヴァイオリンの歌いぶりはもとより、チェロの高音部が更によく歌っていました。オペラの間奏曲風よろしく情感が存分にこもっていました。アクロバティックな第1ヴァイオリンの響きはよどみなく、単に音の上下のみならず、楽章いや楽曲をマクロ的視野で捉えていた演奏に聴かれました。まるで上質のオペラアリア(しかもソプラノ歌唱の!!)を聴いている印象でした。いわばスケルツォと呼べそうな第3楽章アレグレットは変速ギアが入った印象で、途中の「スラヴァ」(栄光)出現部分ではむしろここは淡々と弾き進めていっており、ロシアンフーガの経過句を経て心地良さを覚えました。重厚な部分をあっさりと弾いていて後出しのヴァイオリンがピアノソナタを思わせるフレージングを展開していました。フィナーレのプレストは更に変化球をゆったりと投げているような印象で、しばし"響きで遊んで"から基本調に入るまでめくるめくような第1ヴァイオリンのメロディラインは聴き入った場面でありました。手玉に取るという申し方はどうかと思いますが、当夜の師匠達のベートーヴェンは緩急巧みな音のピッチングをしていた印象です。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#58〉
プレアデス・ストリング・クァルテット
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅱ~
日時: 2007年9月19日(水)19:15開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(Vn)、川崎和憲(Va)、山崎伸子(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127、第2番作品18-2、第8番作品59-2「ラズモフスキー第2番」