プレアデス・ストリング・クァルテット
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅱ~
初回にこれでもかとさり気なく圧倒した師匠達が2回目の演奏に臨みました。
第12番変ホ長調
第1楽章マエストーソ-アレグロでは奥行きのあるシンフォニックな演奏が印象的。チェロが特に雄弁に語り、ヴァイオリンはひたむきに歌っていました。陶酔的といわれている第2楽章アダージョでは涼やかにかつひたむきに歌う第1ヴァイオリンは線細く高音部を歌い上げていましたし、チェロの裏拍に入る部分が休符なのに目に見えない糸で結びつけられつながっているように感じられました。第3楽章スケルツァンド・ヴィヴァーチェでもチェロが雄弁で、ビオラ~第2ヴァイオリンへの受け渡しも聴きもの。トリオ部分では第1ヴァイオリンがやや走りがちに弾いていましたが、この部分は調の移り変わりに合わせて速度を上げていく意図を特に意識しているような印象でした。この特徴あるテーマは後半ではタテに揃ったアンサンブルを聴かせていました。一般にはアレグロとされる第4楽章フィナーレでは良い意味で力の抜けた楽章として、前打音にやや重みを置いて弾いていましたが、強弱のメリハリやオクターブを駆け巡る中で高低差のあるアンサンブルを展開、緩急自在に弾き進めていきアルペジオもスパッと決めている爽快さが魅力的でした。
第2番ト長調
この曲に入ると第1ヴァイオリンも歌を前面に出すようになり、一言で申すならば「一心同体」とも「一連托生」とも。4人が弾いているのにすっかり一つにつながっており、音の立ち上がりも極めてさっくりとしたものでした。第2楽章アダージオカンタービレではややもするとこの部分は唐突に取られがちなのですが、中間のヘ長調がある種の自然な勢いをもって弾かれており、再現部のチェロのたっぷりとした歌い口を聴いていて、某BBCのチェロトップ奏者を思い浮かべてしまいました。ラストのチェロの問いかけと他3者の応答との親密なやり取りにも大変好感が持てました。第3楽章スケルツォ・アレグロでは変奏曲の1つを思わせる凝った音作りとなっており、第1ヴァイオリンに対して他3者が挨拶を思い起こさせるような相づちをうつような印象でした。ハ長調のトリオでの半音刻みのベース音も聴きものだったと思います。第4楽章アレグロモルトクワジプレストでは1テーマ中の高低の対話が奥深く、曲後半では変奏曲を思わせる第1ヴァイオリンの軽やかな技巧を敢えて「狙う」ような事はしない軽快な下降形部分等、聴き所に満ちていました。白眉はコーダに入ってからの緩急の付け方で、存分に緩めてパウゼを置こうとしたその次の瞬間一気に駆け抜けていく爽快感がよく弾き出されていたと思います。
第8番ホ短調「ラズモフスキー第2番」
第1楽章アレグロでは心地良い余韻もさる事ながら、ヴァイオリンどうしが火花を散らすような部分は内に向かって強力に推進していくイメージを抱かせました。第2楽章モルトアダージオでは作曲者の意図通り、いやそれ以上に感情を存分に込めて弾き進めていましたが、第1ヴァイオリンの歌いぶりはもとより、チェロの高音部が更によく歌っていました。オペラの間奏曲風よろしく情感が存分にこもっていました。アクロバティックな第1ヴァイオリンの響きはよどみなく、単に音の上下のみならず、楽章いや楽曲をマクロ的視野で捉えていた演奏に聴かれました。まるで上質のオペラアリア(しかもソプラノ歌唱の!!)を聴いている印象でした。いわばスケルツォと呼べそうな第3楽章アレグレットは変速ギアが入った印象で、途中の「スラヴァ」(栄光)出現部分ではむしろここは淡々と弾き進めていっており、ロシアンフーガの経過句を経て心地良さを覚えました。重厚な部分をあっさりと弾いていて後出しのヴァイオリンがピアノソナタを思わせるフレージングを展開していました。フィナーレのプレストは更に変化球をゆったりと投げているような印象で、しばし"響きで遊んで"から基本調に入るまでめくるめくような第1ヴァイオリンのメロディラインは聴き入った場面でありました。手玉に取るという申し方はどうかと思いますが、当夜の師匠達のベートーヴェンは緩急巧みな音のピッチングをしていた印象です。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#58〉
プレアデス・ストリング・クァルテット
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅱ~
日時: 2007年9月19日(水)19:15開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(Vn)、川崎和憲(Va)、山崎伸子(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127、第2番作品18-2、第8番作品59-2「ラズモフスキー第2番」