古典四重奏団~ショスタコーヴィチ・ツィクルスvol.1-1~
ショスタコ体感第2ラウンド開幕~ショスタコーヴィッチ・ツィクルスVol.1の1~
昨年別のクァルテットでショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲全曲を聴いたのですが、短期間に一気に聴き通したという事もあって正直なところ体力面でもハードだったのですが、今回は程よく間隔を設けてのツィクルスとの事で、幾分落ち着いて聴けるのではないかと期待しています。
第1番ハ長調
まず目を引いたのが、当夜の舞台上の配置。第1ヴァイオリン、チェロ、ビオラ、第2ヴァイオリンという位置付けは、音量面の考慮もあったのでしょうか。昨年の別のクァルテットはいわゆる"通常の"配置だった事もあり、今回の古典の面々の音作りの意図にいろいろと思いを巡らせました。
第1楽章モデラートはいつもながらの伸びやかな第1ヴァイオリンのメロディラインが大変印象に残りました。第2楽章モデラートではビオラによるさり気ないテーマ提示に始まり、第1ヴァイオリン→チェロのリレーが巧みに進められており、チェロのピチカートに加えビオラ・第2ヴァイオリンの第2テーマ部分では何故かブルックナーの交響曲を思わせるような深遠な響きを思い起こさせました。第3楽章アレグロモルトでは新しい音を探ろうとして好奇心を持って覗き込むような様子さえ想像させました。第4楽章アレグロでは生き生きとパワフルなアンサンブルはその勢いを抑えきれないくらいの快感が魅力的でした。
第2番イ長調
第1楽章「序曲」モデラートコンモートではグレツキの「3つの舞曲」でも聴かれた民族音楽を思わせる力強く深い響きに聴き入りました。第2楽章アダージオ「レチタティーヴォとロマンス」では弾むような又流れるような間にあってショスタコーヴィッチ和音を展開していきました。第1ヴァイオリンと他3者とがオペラアリアのように切々としかも艶やかにゆったりと歌い進められていました。第3楽章アレグロ「ワルツ」では幾分速めに設定されたテンポの中でめくるめくようなたたみかけるアンサンブルに思わず息を呑んで聴いていました。抑えられた音量の中での緊迫は、歌唱で申せば普通に歌う以上に身体を用いるように、一層の神経と耳と呼吸(目線?)の集中を込めていました。フィナーレのアダージオ~モデラート「主題と変奏」では、ビオラの艶やかな歌い口が魅力的で、ビオラ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリン→チェロとリレーしていく様子も聴きものだったと思います。細やかな3連フレーズの第1ヴァイオリンかと思ったら唐突なテンポアップに「はじける」チェロとそれに裏拍で呼応しようとするヴァイオリン2人のやり取りも聴き所であったと思います。チェロの細かく激しい刻みに食らいつく他3者の部分は走馬灯のように巡っており、ビオラとチェロの細かい刻みに乗って第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの対話が展開し、3人の分厚いヨコの響きに劇的レティタティーヴォで第1ヴァイオリンが応える部分も見事でした。
第3番ヘ長調
第1楽章アレグロでは曲によりドラマ性を持たせるようにプロフィエフに似通っていて実はかなりリズムの置き方に特色を持たせていて(各パートがフーガのように代わる代わる弾いていくメロディが魅力的!!)、途中フーガがテンポアップしていくコーダ部分も聴き入りました。第2楽章モデラートコンモートでは、歯切れよさが身上とも呼べそうな楽章ですが、ビオラの分散和音に乗ってヴァイオリンが絡みつきチェロが合いの手を入れるという展開にあって、ビオラとヴァイオリンの中音部がよく活躍しているというところをみると、ここに「人間・ショスタコ」を思い起こさせるように感じました。第3楽章アレグロノントロッポでは複合拍子を取ったテーマで激しくて、まるで「ショスタコ的ゴジラ」と思わせるくらいの切れ味を感じさせてくれました。厳しさを伴うリズムの展開は裏拍のピチカート、「テケテッテ~」と同音の激しい連続刻みを得てますます力を帯び、ビオラ低音部とチェロ高音部の嘆き節はやがてヴァイオリンにも匹敵する切なさへと昇華していくように感じられました。第4楽章アダージオでは葬送行進曲を思わせるユニゾン部分はもしかすると国家体制に対する音による抵抗を表現せんとしたのではないかと思わせました。フィナーレのモデラートでは舞曲的部分や行進曲部分、静寂の部分とさまざまな断片をもって展開していく「ロンド」形式ではやがてピチカート3回の中で全てを霧の彼方に包み隠すように遠ざかっていく展開でしたが、ここではもしかすると作曲者自身の心情を切々とかつ慎重に吐露していたのかもしれません。
これだけ密度の濃いものを暗譜で弾き通すというのがいわば奇跡にも感じられたのですが、それともこれは彼らの中に染入っているのが表出した彼らにとってはごく当たり前の姿なのでしょう??
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#59〉
古典四重奏団~ショスタコーヴィチ・ツィクルスvol.1-1~
日時: 2007年10月3日(水)19:15開演
出演者:古典四重奏団
[川原千真(Vn1)/花崎淳生(Vn2)、三輪真樹(Va)、田崎瑞博(Vc)]
演奏曲:
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番ハ長調作品49、第2番イ長調作品68、第3番へ長調楽品73