第7回の「ごほうびクラシック」に葵トリオが登場! 第67回ARDミュンヘン国際音楽コンクールで日本人団体として初の優勝を果たした気鋭のピアノ・トリオということで、室内楽ファン注目のコンサート。さらに今回は、デュオやソロでも親しみやすい名曲を披露してくれるとあって、「室内楽はちょっと敷居が高い」と思っている方も楽しめるひとときになりそうです。メンバーの3人にコンサートの聴きどころや、日頃のリフレッシュ法などを聞きました。
[聞き手/原典子(音楽ライター)]
秋元孝介さん(ピアノ)、 小川響子さん(ヴァイオリン)、伊東裕さん(チェロ)の苗字の頭文字をとって名づけられた「葵トリオ」の結成は2016年。サントリーホール室内楽アカデミーでの出会いがきっかけだったそうです。
小川:もともと私はサントリーホール室内楽アカデミーで伊東とクァルテットを組んでいたのですが、かねてからピアノ・トリオもやってみたいと思っていたところに、同じくアカデミーを受講していた秋元と出会って。3人とも関西出身なので、「関西でコンサートできたらいいね」と。その後、藝大の大学院でトリオを結成したという経緯です。
伊東:僕と小川が奈良出身で、秋元が兵庫出身。もしそこに関西出身のヴィオラ奏者がいたら、ピアノ・クァルテットを組んでいたかもしれません(笑)。
「AOI」と描かれたお揃いのTシャツを着て、関西弁で和気藹々と話す彼らの姿はまるでバンドのよう。常設のピアノ・トリオならではの綿密な音楽作りが彼らの強みです。
小川:ピアノ・トリオの場合、ソリストが3人集まって即席で組んだトリオでもコンサートが成立するので、常設の団体が少ないのかもしれません。そういったスペシャルなトリオも魅力的ですが、私たちはレギュラーで活動しているのでリハーサルの回数が全然違います。はじめて演奏する曲は本番の何ヶ月か前に集まって、曲の構成や響きを3人で確認するようにしています。まだその段階では初見に近い状態なのですが、1度集まってから個人練習の期間を置いて、リハーサルを重ねていくのがルーティンですね。
秋元:リハーサルでは演奏だけでなく、言葉でもお互いに質問をしたり、意見を交わし合ったりしています。「ここはどうやって弾いたらいいかなあ?」と、自分のソロ・パートについても意見を募って、前後のつながりから皆で考えたり。
伊東:それとレパートリーの面でも、「ピアノ・トリオといったらこれ」といった有名曲以外にもいろいろと発掘して、もう一歩奥の世界へ掘り進められるところも、常設の団体ならではの楽しさだと思います。
今回のプログラムは、どのようなコンセプトで構成されたのでしょうか。
秋元:メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番を軸に組み立てていきました。ピアノ・トリオをはじめて聴くという方にも、素直に「ああ、いい曲だなあ」と思っていただける作品だと思うので。ラフマニノフの「悲しみの三重奏曲」第1番は、今年が生誕150年のメモリアル・イヤーということで入れました。さらにトリオ以外にも、マスネ「タイスの瞑想曲」(ヴァイオリン&ピアノ)、サン=サーンス「白鳥」(チェロ&ピアノ)、ショパン「華麗なる円舞曲Op.34-1」(ピアノ)といった、おなじみの名曲をデュオやソロでお届けします。
ピアノ・トリオの作品について、それぞれの魅力はどういったところにあるのでしょう。
小川:メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番は、この作曲家の特徴である、つねに流れているような風通しのよさがあって、メロディが本当に魅力的。第2番は縦の線がしっかりあるのに対して、第1番は横の流れを中心に作曲されていて、とにかく一聴して心を掴まれます。
伊東:ラフマニノフの「悲しみの三重奏曲」第1番は結成した当初に演奏して、それ以来ずっと弾いていなかったので久しぶりですね。ピアノの比重が重くて、やはりピアニストらしい作曲の仕方だなと思います。
秋元:とはいえコンチェルトほど華やかに見せることを想定して書かれた曲ではないので、抑制的なものを少し感じるところがあって。響きや和声の進行に、教会の聖堂から聞こえてくる聖歌のような、宗教的な要素を感じます。
では最後に「ごほうびクラシック」恒例の質問を。がんばった自分へのごほうびやリフレッシュには、どのようなことをしていますか?
小川:私はうどんを食べるのが本当に好きなので、ツアーで行った先などで全国各地のうどんを食べるのを楽しみにしています。関西のお出汁のきいたうどんも、生醤油でいただく讃岐うどんも、東北の稲庭うどんも、どれも好きですね。あとは、ペンギンが好きなので、ペンギンのグッズや人形に癒されています。
秋元:水泳と散歩ですかね。水泳はコロナ禍で中断して、最近またはじめたのですが、何も考えず、黙々と泳ぐとストレス解消になります。あと、旅先で電車に乗るのが好きです。
伊東:漫画とゲームが好きなのですが、ゲームはやりすぎると逆にストレスが溜まることもありますし......。何年もやっているゲームがあって、この間、世界大会に出たのですが、まったく勝てませんでした。
小川:秋元と伊東の「好きなもの」があまりに違うので面白いんですよ。同じクラスにいたら、絶対に友だちにならないタイプ(笑)。だから良い具合に3人のバランスがとれているのかもしれないですね。
室内楽シーンに新風を吹き込む3人から、ますます目が離せません!