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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

ラデク・バボラーク(ホルン)

ホルンの室内楽III バボラーク・アンサンブル

 ホルンのバボラークが、バボラーク・アンサンブルと共に室内楽でホルンの魅力を堪能させてくれるコンサートは、今回が3回目となります。
[聞き手・文/世川 望(国際ホルン協会名誉会員)]

20161126Baborak(C)OkuboMichiharu.JPG 第1回は、モーツァルトの協奏曲全曲を室内楽バージョンで聴かせてくれました。「モーツァルトは作品を書き、すぐに自分がヴィオラを弾き、親しい仲間と共に音を出していました。オリジナルの編成による初演以前に、このように仲間で音出しをする喜びがあったと思われます。だから室内楽バージョンがあっても良いと思うのです」

 第2回は、ホルン協奏曲の断章を編纂して、なんとホルン協奏曲第5番と第6番を作ってしまいました。「モーツァルトのホルン協奏曲は、全4曲といくつかの断章というよりも、私が今、編纂することにより全6曲と呼べるようになればと思います」ホルンの室内楽の数は限られており、それを残念に思うバボラークは、音楽的に素晴らしい様々な作品を、自分とバボラーク・アンサンブルの編成に合わせてアレンジをして紹介していくのが、近年の取り組みです。「それぞれの作曲家の作品に、『もし、このようにしたらどうであろうか』というような思いを馳せることが、私の趣味であり課題でもあります」

20231125RadekBaborak(C)LucieCermakova.jpg この取り組みは、コロナ禍以前から行われていたようですが、コロナ禍の活動やロシアのウクライナ侵攻が現在の彼の演奏に大きな影響を与えていることは、演奏から感じられます。「フリーランスの音楽家にとって、とても大変な時期でした。スタジオ録音も謝礼なしでした。しかし仲間と共にとにかく録音をして、それを自宅で聴いて、音楽愛好家のようでした。チェコのフリーランス音楽家に対する社会保障制度は、全く助けになりませんでした。そこで私は、フリーランス音楽家やその家族、子どものためにお金を集める二つの基金財団を設立しました。これがコロナ禍における私の最大の仕事でした」その活動の一つとして、教会での活動があったようです。「プラハの中心にあるプロテスタントの古いバロック様式の教会でVIGILIEを始めました。VIGILIEは特別な祈りという意味で、何かカタストロフなことが起こった時に、音楽で祈りを捧げる形式で、24時間交代で演奏し続けました。ほとんどがフリーランスの音楽家で、コロナ禍では自分たちのために、そして3年目はウクライナのために寄付金を集めました。夜6時に演奏し始め、翌日の夜6時に終了でした。私は、早朝の4時という時間を選びました。たった一人で一時間演奏しました。私の前が、11月のコンサートで一緒に演奏するヴァイオリンのアシャブさんでした。彼も一人で「シャコンヌ」他を演奏しました。他にもオルガンやフルート、アンサンブル等々の演奏が続きました。教会はずっと開放されておりましたが、夜中には殆ど誰も来ませんでした。ある日、ホームレスの方が入って来て、なけなしの小銭を寄付してくれ、とても心を打たれました」

20231125Interview.JPG さて、このような時期を経て開催される第3回は、自らがベートーヴェンやブラームスの弦楽五重奏曲をホルン五重奏曲版にアレンジした作品がメインになっています。「これらの五重奏曲にはヴィオラが2本使われています。これはホルン五重奏曲にアレンジするのに適しています。なぜならば、ヴィオラとホルンは同じ音域だからです。ホルンはとてもロマンチックな楽器です。でもロマン派の作曲家、特にブラームスは、ホルンの作品としてホルン三重奏曲はありますが、クラリネット五重奏曲のような曲は書いていません。ベートーヴェンは自らの作品を他の楽器用に書き替えたりした作曲家です。ベートーヴェン以前の作曲家、例えばバッハはこのようなことを、もっとさまざまな可能性を考慮に入れて、頻繁にやっていました。だから私もそれに倣って新たな可能性を求めてアレンジしています」

 シベリウスの作品、「Käyrätorvi(ケレトルヴィ)」(フィンランド語でホルンという意味/今回のプログラムでは「フィンランドのホルン」と表記)に関しては、「私は、シベリウスの音楽を愛しています。でも、あれだけ管弦楽曲で素晴らしいホルンのパッセージがあるのに、残念ながらホルンのための作品が書かれていません。もし、ヤン・シベリウスが私の友人であったら、ホルンの作品を書かないかと勧めていました」

 20231125YoshinoNaoko(C)TomokoHidaki.jpg共演のハープ奏者、吉野直子さんについては、「マーラーのアダージエットは、映画『ベニスに死す』で使われるなど、文化遺産的な曲です。幸運にもこの曲を、何度かハープの吉野直子さんと演奏する機会に恵まれました。そして今回は、それに弦を加えたバージョンで、ヴォルフのイタリアン・セレナーデと共にお届けします。ホルンパートは、男性的・英雄的な部分と抒情的な部分を受け持ち、ハープはとても柔らかく、全てのサウンドを魔法のように包み込みます。直子さんと一緒に演奏できるのは、とても幸せです」

 バボラーク・アンサンブルのヴァイオリンは、前述のミラン・アル=アシャブさんです。「彼は、チェコの若手でウィーンのクライスラーコンクールで第1位に輝き、我々にとってたくさんのプロジェクトを共にする重要なメンバーです」

11月の公演に関しては、「世界中を旅する音楽家にとっての最高のプレゼントは、一度演奏したホールや、フェスティヴァルから再び招待されることです。ホールスタッフや音響も知っているし、こうしたホールでのコンサートがそのツアーの中心的なものとなります」と、とても楽しみにしています。