「今、私は演奏活動に3つの軸をもっています。〈ドイツ歌曲〉〈イタリアのオペラや歌曲〉、そして〈日本歌曲〉。今回はその3つ全部を入れたいなと」
小林沙羅さんの大切な思い入れをすべて味わっていただけるプログラム、順におうかがいしましょう。
「私はウィーンで勉強してきましたが、小さい頃はドイツのボッフムという街に住んでいました。森を通って幼稚園に通っていたんですよ。ドイツ歌曲には自然がたくさん出てきますし、森に対するドイツ人の思いも子供の頃の思い出と重なるんです」と土地と言葉をよく知る小林さんのドイツ歌曲はもう絶品。シューマン、そして「オペラ的な表現力を求められるところが大好きな作曲家」というリヒャルト・シュトラウスの歌曲を歌います。当日お配りする対訳もご自身で考え抜いたもの、というくらい言葉を大切に考える小林さんの表現は〈日本歌曲〉でも深くお楽しみいただけるはず。
「山田耕筰《からたちの花》も、言葉をいかに美しく音楽にするか常に試されるむずかしい作品なんです。また、学生時代からヴォイススペース(詩と音楽のコラボレーション集団)でごいっしょしている作曲家、中村裕美さんの《智恵子抄》から《或る夜のこころ》は喋りと歌と混ざったようなとてもいい作品です。伊藤康英さんの《あんこまパン》は、演出も入れつつお客さんもいっしょに楽しんでいただける作品です!」と、これが客席を笑顔にする仕掛け満載の作品なのでお楽しみに。
「本居長世《白月》も大好きな曲。──今回は秋の公演なので、3つの柱に〈月〉にまつわる曲を入れているんです。シューマン《ことづて》にも月が出てきますし、イタリア歌曲ではベッリーニ《優雅な月よ》、マスカーニ《月》などを歌います」
最後はイタリア・オペラのアリアを2曲。
「ドニゼッティのベル・カントものから、最後の曲は《ドン・パスクアーレ》の華やかな愉しいアリアです。その前に歌う《連隊の娘》から《さようなら》は全然違う雰囲気なのでその違いもぜひお楽しみください。この曲は今回初めて舞台で歌うので新たな挑戦です。私はコンサートではいつも〈少なくとも1曲は初めて演る曲を〉と課しているんですよ!」と意欲全開の90分、満喫していただきましょう!
[聞き手/文 山野雄大(音楽ライター)]