〈クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット 第3日
オクターブを奏でるチェロを軸として音のキャッチボールを高い集中力を保って行っており、一瞬たりともスキを見せずに弾き進めていました。
今活発な演奏を繰り広げツイッター上でも話題の面々。連日のハードスケジュールにもかかわらず熱心に舞台を務めていました。
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番ト長調
第1楽章では澄み切った中に鋭さを込めた音色にまず惹かれました。集中力が最初から高く保たれており、小刻みな音の揺れに繊細な作曲者の心情が投影されているのが巧みに表されていました。
第2楽章では歌曲を多く成した作曲者ならではの泣き節。一転して転調した新しいテーマでは嵐の夜を思わせるフレーズが小刻みで丁寧な弾き口で表されていました。変ホ長調に転じても尚細やかに刻み、チェロが他パートにサポートされて低音の響きで魅せてくれました。
第3楽章では勢いと輝かしさに満ちて弾き出されたテーマに続き、各奏者どうしが次々と積極的にフレーズにアプローチし、スパイラル状にアンサンブルが盛り上がっていくところに聴き入りました。
第4楽章ではタランテラ調の独自テーマが勢いよく繰り出されました。全員揃って甘美なテーマの重奏も丁寧な音運び、強音でも冷静さをも以て弦をコントロールし、弱音でも芯を捉えて弾き進めていたのが印象的でした。
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130/133「大フーガ付」
第1楽章では重厚な語り口で弾き出される序奏に続き、たたみかけるように進んでいく快活さが魅力的。滑らかなヴァイオリンに対しチェロがノーブルな響きで応えており、緩急巧みに弾き分けながらもメロディラインを明確に紡ぎ出していきました。
第2楽章では内に内にと突き進んでいくような求心的アンサンブルを聴かせており、快速な中にも音型が崩れていませんでした。技術面が確かでないと崩壊しかねない部分なので、さすがの一言。
第3楽章では優雅なアンサンブルを展開。特色あるメロディは作曲者のロマンティストの一面を垣間見せてくれる印象で、特にピチカートでリレーしていく部分はチャーミングでさえありました。
第4楽章ではドイツ舞曲を過度の感情移入せずに弾き進めていました。技術面で秀でているのは勿論ですが、見通しのよい楽章作りをしていたのが印象的でした。
第5楽章では甘美にしかし甘美過ぎずに弾き進められていくカヴァティーナはこの日の白眉ではないかと思います。
最終楽章では激しいテーマにも関わらず聴いていて不思議な陶酔。艶やかな音色を存分に各パートがぶつけ合い、勢いに富んだアンサンブルを聴かせてくれました。間奏部分では優雅さをたたえつつ、ユニゾン部分ではより幅広く演奏していました。
オクターブを奏でるチェロを軸として音のキャッチボールを高い集中力を保って行っており、一瞬たりともスキを見せずに弾き進めていました。
急遽アンコール「浜辺の歌」が演奏されましたが、チェロのさざめくような響きに続き、ヴァイオリンの滑らかなメロディが奏でられました。変ホ長調に転じてからはチェロのメロディの伸びやかさが印象に残りました。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット
《2人の巨人I シューベルト×ベートーヴェン》
日時: 2010年6月4日(金)19:00開演
出演者:ミロ・クァルテット
〔ダニエル・チン/山本サンディー智子(ヴァイオリン) ジョン・ラジェス(ヴィオラ)
ジョシュア・ジンデル(チェロ)〕
演奏曲:
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番ト長調op.161 D.887
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130/133「大フーガ付」