〈クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット 第2日
報告:井出春夫/会社員/2階L1列46番
投稿日:2010.05.30
始まったら、やはりびっくり。
最後に音が小さく消えた瞬間、仄かな光が射し込んだような気がしたが何ともやりきれない気持ちが残る。
ミロ・クァルテットは前回(約5年位前だっただろうか)第一生命ホールで初めて聞いてとても感動し、またこのホールで聞きたいと思っていたクァルテットである。そして、今回そのチャンスが来た。このクァルテットは、とても音が美しくホールによく響き、ホールとの相性もいいように思う。特に弱音(ピアノやピアニッシモ)が弱い音ではあるが、ゆたかな音で聞こえる。フェスタ2日目は、弦楽四重奏では超有名曲、ドヴォルザークの「アメリカ」ミロカルテットと大親友の作曲家ケヴィン・プッツ「クレド」、ジョージ・クラム「ブラック・エンジェルス」の現代曲である。現代曲の2曲は初めて聞く曲だが、第一生命ホールならではのプログラミングではないだろうか。まず、プログラミングに拍手!
第1曲目のドヴォルザーク。とても新鮮でみずみずしい。音楽の感じがどんどん変わっていくのがとても面白く、音に弾力があり、4人の音が自然に混ざりあっていくこのライブ感はたまらない。
第2曲目と3曲目は、曲が演奏する前に解説があった。現代音楽は、どこを聞いたらいいかわかりにくいから、その曲が出来た経緯や、演奏者と作曲家の関係などがわかると曲を聞く上での道標になるので助かる。
2曲目、ケヴィン・プッツ「クレド」は、ミロ・クァルテットの依嘱作。アメリカの明るい面を追求したいという要望があったようだが、2007年は、イラク戦争など悲しいことが多かった。この曲は2007年のアメリカの状況を自分の内面を見つめながら作曲したという。曲想は暗めであるが曲を聞いていると何だか優しさや暖かさ感じられ何だかとても癒される感じがする。休憩時間にロビーにでてみたら、今のは現代曲だったのと話されていた方がいらした。
3曲目はジョージ・クラム「ブラック・エンジェルス」。曲が始まる前に、銅鑼やグラスなど弦楽4重奏曲には登場しない楽器(というより「モノ」)が並んでいる。打楽器奏者でもいるかしらと思ったら、出てきたのは4人。あらかじめ今までの弦楽四重奏とは全く違うという解説はあったものの、どうするのかしら、オーケストラだって、弦楽器奏者は指を鳴らしたり、かけ声をかけたりするくらいしか見たことがない。始まったら、やはりびっくり。チェロは普通左手で押さえるところを弓で弾いたり、銅鑼やグラスを弓で弾く。声が聞こえる。数字を数える等々。だいたい演奏中に楽器の場所まで歩行が入る四重奏曲を知らない。曲は暗くなまめかしい。でも、音を聞いていると何だか画像が浮かんでくるような気がした(怪奇映画やドラマ、お化け屋敷など、この曲とは関係のないものであったが)。最後に音が小さく消えた瞬間、仄かな光が射し込んだような気がしたが何ともやりきれない気持ちが残る。
アンコールとしてバーバーの四重奏曲から2楽章。これまたこの曲で癒された。ナイス、アンコールプロ。
ブラック・エンジェルスはCDでは聞いたことはあったけれど、どんな風に演奏しているのかがわかってとっても面白かった。アンコールで救われた感じがしたなど、話している方がいたのと、いつになく、よかったというような感想を多くの方が持ったように感じ、ホールを後にした。
現代曲は、演奏家やホール、そしてそれをささえるスタッフ、そして満員にはならないが聞いて下さるお客さんなど演奏を成功させるための要因が揃わなければ出来ないであろう。このホールにはそれがあるのではないか。とすればここは、あまり演奏されない作品や現代作品を継続的に取り上げて行く必要があるのではないだろうか。
公演に関する情報
クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット
《アメリカへの旅》
日時: 2010年5月30日(日)14:00開演
出演者:ミロ・クァルテット
〔ダニエル・チン/山本サンディー智子(ヴァイオリン) ジョン・ラジェス(ヴィオラ)
ジョシュア・ジンデル(チェロ)〕
演奏曲:
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調op.96 B.179 「アメリカ」
ケヴィン・プッツ:クレド(2007)(日本初演)
ジョージ・クラム:ブラック・エンジェルズ(1970)