プレアデス・ストリング・クァルテット〈#78〉
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会V~
報告:佐々木久枝(2FC1-7/TANサポーター)
投稿日:2009.03.23
弦楽四重奏曲第4番
第1楽章出だしは走り過ぎず、それでいて推進するパワーを込めていました。第1ヴァイオリンが切々と歌いながらもその中にパッションを感じさせるテーマ提示。転調しても端麗さはそのままに保ち、響きをタテにそろえつつ打を意識したアンサンブルでした。第2楽章スケルツォでは第1ヴァイオリンの動きが軽妙でそれに引かれるように第2ヴァイオリン達も粒揃いの響き。チェロ以外によるテーマ提示の和音も巧みに揃ったアンサンブルでした。テーマ再現部分のコミカルな動きも趣があり、細やかな刻みの中にも自由奔放さをも忘れずに弾き進めていました。第3楽章メヌエットでは厚みのある音色で不安な雰囲気をかもし出していましたが、チェロの深みある刻みに乗って他3パートが響きに溶け込んでいました。トリオでは第1ヴァイオリンが丁寧に歌い上げており、再現部でテンポをだいぶ上げて不安をいっそうかき立てて強音で力強く締めくくっていました。第4楽章アレグレットでは速いパッセージの第1ヴァイオリンの疾走の中に厚みある響きが印象的でした。コーダでは更にテンポアップしてメリハリを一層前面に押し出していました。力強いユニゾンによるフィニッシュはこの曲での白眉かもしれません。
弦楽四重奏曲第10番「ハープ」
第1楽章では表情豊かな序奏に続いてピチカートも軽やかに始まり、転調しつつ一音一音に大変気合のこもった連係プレーが聴きどころでした。ピチカートと通常のボウイングとが絶妙に溶け込んでいき、チェロと他3パートとの対話部分や第1ヴァイオリンと他3パートとのかけ合いも巧みに繰り広げられていました。第2楽章アダージオではコラール風に奥行きのある響きを聴かせ、展開部での第1ヴァイオリンの切々とした歌い口に続き、静かな和音上昇部分もよく歌い上げられている部分では感慨深い印象を受けました。変ニ長調での第1ヴァイオリンとチェロの心を込めた歌い口が印象的で、第1ヴァイオリンがテーマの変形を切々と歌い進めていく部分も名演だと感じました。第3楽章スケルツォでは激しい第1ヴァイオリンの刻みを伴う全パートの強弱メリハリのついたユニゾンは迫力満点。チェロから第1ヴァイオリンへのパッションのリレーも聴きどころでした。チェロ→ビオラ→第1ヴァイオリンの特色あるメロディの受け渡しもスムーズでした。第4楽章アレグレットでは響きを揃えた軽やかな演奏テーマを展開していましたが、低音部のメロディラインが情緒たっぷりで、細やかなアンサンブル。第1ヴァイオリンの上昇形に他3パートが呼応する部分も好調で、チェロの細かい刻みに乗って他3パートが舞曲調のメロディを奏するところも軽快さに満ちていました。
弦楽四重奏曲第14番
第1曲ではチェロがしっかり土台を作ってよく響かせており、これから始まる劇的展開を予感させるようなアンサンブルでした。第2曲では舞曲を思わせるような軽やかな歌い口を聴かせていましたが、第1ヴァイオリンがなめらかで軽やかなメロディラインを奏でており、チェロも重過ぎない音色がちょうどよく響きました。第3曲では一転して哀愁に満ちた調べで雰囲気をかもし出していました。第4曲ではチェロがピチカートをよく響かせ、第1ヴァイオリンとチェロがまるでピアノで両腕を交差させて弾いているような巧みな響きでした。いずれの変奏部分の演奏も美しく、チェロとビオラのかけ合いも面白く、続くフーガ部分では息の合った響きでした。別の変奏では弱音で刻みを揃えた響きで、ディナーミクも巧みに特にチェロが曲の雰囲気を作り出している印象を受けました。各パートのソロを経てチェロの分散和音に続けて第1ヴァイオリンが自在に弾き進めていく部分は聴き入りました。第5曲ではたたみかけるような部分でも音型を崩す事なくチェロの響きに触発されるように各パートも集中力を途切らせない演奏をしており、特に第1ヴァイオリンは高音部も明確に弾いていました。第6曲では哀愁この上なく静かに歌い上げられていました。フリスカに入って4人のパッションが一体となり、各パートが長調に転調した部分も生き生きとした演奏をしていました。最後の第7曲は歯切れ良くタテに揃った響きに続いて滑らかな各パートソロを経てユニゾンも力強く劇的なフィナーレを弾ききっていました。
いずれの曲も好調、特にチェロの山崎さんの推進力が素晴らしく、アンサンブル全体を率先して導いていきました。曲の枠にとらわれ過ぎず自由な雰囲気で弾いていたのが大変印象に残りました。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
プレアデス・ストリング・クァルテット〈#78〉
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会V~
日時: 2009年3月22日(日)15:00開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(ヴァイオリン) 川崎和憲(ヴィオラ) 山崎伸子(チェロ)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番ハ短調op.18-4
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第10番変ホ長調op.74「ハープ」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調op.131