古典四重奏団〈#75〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-3~
うららかな秋の日の中、晴海には花のじゅうたんもお目見えし、ホール外では連休最終日を惜しむかのようにイベントが賑やかに開催中。勿論、ホールにも多くのお客様が来場し、秋のひとときを堪能していました。
今回の舞台上のメンバー配置も音量面を考慮した並び(第1ヴァイオリン、チェロ、ビオラ、第2ヴァイオリン)、親密な響き作りへのこだわりを感じさせました。
第7番ヘ長調~ラズモフスキー第1番
第1楽章アレグロでは伸びやかに堂々と歌うチェロとヴァイオリンとのかけあいに引き込まれていきました。細い音でつなぐ部分の緊張感もよく保持し、フーガでも集中していました。再現部でのチェロの歌い口豊かな演奏がアンサンブル全体を牽引していく印象でした。第2楽章アレグレットヴィヴァーチェでは、チェロ→ヴァイオリン、ビオラ→ヴァイオリンの対話で変ロ長調独特のシンフォニックなテーマ提示の刻みの歯切れ良さが心地良く聴かれ、短調での切々とした第1ヴァイオリンの歌い口からチェロへの響きの受け渡しが巧みで、拍の裏もしっかりと「弾いている」印象を受けました。第3楽章アダージオでは切々としたチェロの泣けるくらいに美しい弾き口に惹かれ、続いてまるでピアノの腕を交差したような(チェロが主旋律、ヴァイオリンが分散和音)美しい場面では、第1ヴァイオリンのむせぶような弾き口が魅力的でした。2度目の「交差」でも美しさに惹かれましたが、チェロ(後にヴァイオリン)のピチカートがまるでため息の響きに聴こえてきました。再現部でのビオラの細やかな刻みに乗っての3度目の「交差」では更に哀しみをたたえていました。ヴァイオリンのユニゾンとチェロの分厚い支えとがいっそう哀しみを倍増させておりました。第4楽章アレグロではくるみ割り人形序曲を思わせる明るくたたみかけるようなテーマ提示から入り、生き生きとした響きを聴かせていました。第1ヴァイオリンの細やかさとチェロの伸びやかさとの好対照が印象的でした。チェロ→第1ヴァイオリンのメロディリレーを堪能しました。
第8番ホ短調~ラズモフスキー第2番
第1楽章アレグロではこれから何かがおきそうな劇的な弾き口で聴き手をぐいと引き込んでいきました。展開部に入って更に緊張感が増し、チェロがしっかりと主張していましたが、タタターンとたたみかけるテンポ運びも絶妙で、疾走と急ブレーキを繰り返す中にあってもこの四重奏団は作曲者の中にある激情をたくみに読み取っている印象を受けました。第2楽章モルトアダージオでは、ピアノソナタ第1番の第2楽章にも通じる瞑想的な楽章で、分散和音の刻みや大きいうねりに乗って弾き進められるメロディ、続くチェロの上昇音にのって第1ヴァイオリンとビオラの対話も印象的でした。チェロの分散和音に乗って上声部が切々とした歌い口で進んでいく部分はなかなかの聴きもので、第1ヴァイオリンのオブリガードからメロディラインへの移行もスムーズ。コーダへと突き進んでいく強さはアンサンブルの集中の高さを如実に表していると思いました。第3楽章アレグレットでは特徴あるンタタータというリズムが小気味良く弾き進められていきましたが、中間部のスラヴァが何回か反復する時も呼吸がぴったり。第4楽章プレストでは軽やかなギャロップも響きがタテによく揃っていて爽快、第1ヴァイオリンの華やかなメロディ歌いに続いてチェロの細やかな刻みも相まって快演でした。
第9番ハ長調~ラズモフスキー第3番
第1楽章アンダンテコンモート-アレグロヴィヴァーチェでは第1ヴァイオリンの艶やかな経過句の歌い口に続いて快活なテーマが展開されていき、はつらつとした響き。ここでもチェロが大熱演しており、展開部での力強いアンサンブルでも第1ヴァイオリンの艶やかさは保たれ、再現部での軽やかさも印象的。コーダに向かって前進していくエネルギーには圧倒されました。第2楽章アンダンテコンモートクワジアレグレットでは第1ヴァイオリンの艶やかさがここでも遺憾なく発揮されていました。チェロの長めに伸びたピチカートも異国情緒を醸し出してよく響かせており、第1ヴァイオリンの紡ぐ新たなテーマも細やかな音の動きの中に新鮮なオリエンタリズムを感じさせるものでした。第3楽章メヌエットグラジオーソでは、優美なメロディが耳にも心地良く、とても覚えやすいものでした。細やかに元気に音符が動くトリオが二重丸、チェロの確信的な打法に支えられ上声部3者が心置きなく響きの粒が揃ったアンサンブルも魅力的で、チェロがメロディを弾き第1ヴァイオリンがオブリガードを奏でる部分も絶妙でした。第4楽章アレグロモルトでは集中力を途切れさせない高みを感じさせる演奏を聴かせ、後拍の歯切れ良さが印象的。各パートがこれでもかこれでもかという腕の限りを尽くしての弾き口には圧倒されました。ビオラ→第2ヴァイオリン→チェロ→第1ヴァイオリンと息つく間もないテーマリレーにも魅了されました。
これだけの密度の濃い演奏を繰り広げてくれる彼ら古典四重奏団、同時にそのハードさゆえにコンディション保持は大丈夫なのだろうかと大いに心配してしまうのですが(そういえば第9番あたりでややお疲れ気味?と思わせる場面があったのですが)、4人ならではの集中力に満ちた演奏には今後も期待したいものです。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
古典四重奏団〈#75〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-3~
日時: 2008年11月3日(月・祝)15:00開演
出演者:古典四重奏団
川原千真(第1ヴァイオリン)/花崎淳生(第2ヴァイオリン)
三輪真樹(ヴィオラ) 田崎瑞博(チェロ)
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番ヘ長調op.59-1「ラズモフスキー第1番」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調op.59-2「ラズモフスキー第2番」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第9番ハ長調op.59-3「ラズモフスキー第3番」