2008.10
古典四重奏団〈#74〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-2~
私は大学時代室内楽サークルに所属していましたが、プロの四重奏というのを聴いたことがありませんでした。そんな私が聞くことになったのは、ソナタ形式を限りなく発展させたベートーヴェンの四重奏曲第四番、第五番、第六番。
お洒落な晴海トリトンスクエアの中心部にある第一生命ホールは、オーケストラを演奏するには小さそうなかわいいホール。ロビーからは隅田川が見えます。私の席は2階の右サイドでしたが、会場の音響はよくて、演奏が始まるとすぐにうっとりしてしまいました。
曲はどれもベートーベンらしい個性的なモチーフと展開で、さすがベートーベン、という感じでした。バイオリンに触れたことのある身として感想を付け加えると、弾くのは難しそうです。
これらの曲をすてきに演奏してくれたのは、古典四重奏団というユニット。結構知名度も高いそうなのですが、申し訳ないことにプロの四重奏自体聴くのが初めてなので、もちろん彼らの演奏を聴くのも初めて。とても上手でした。ウワサによると、彼らは古典的な解釈に基づく弾き方をしているらしいので、これらの曲の初演もこんな演奏だったのかな、と想像を掻き立てられました。ファーストバイオリンの音程が「音程通り」な気がして、少しうわずったソロに聴き慣れているためか不思議な感じがしました。これも「古典的」の一部なのでしょうか。
第六番、第五番と演奏は進み、20分の休憩のあと第四番。第四番はこの中で私が唯一聞き覚えのあった曲で、交響曲第五番(運命)と同じハ短調の カッコイイ曲です。楽しい時間はあっという間に過ぎ、終演。休憩の前が二曲だったんだから、もう一曲やって欲しいな、と名残を惜しみつつ会場を後にしました。四重奏、また機会があれば聴いてみたいところです。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
古典四重奏団〈#74〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-2~
日時: 2008年10月19日(日)15:00開演
出演者:古典四重奏団
川原千真(第1ヴァイオリン)/花崎淳生(第2ヴァイオリン)
三輪真樹(ヴィオラ) 田崎瑞博(チェロ)
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番変ロ長調op.18-6
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第5番イ長調op.18-5
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番ハ短調op.18-4
古典四重奏団〈#73〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-1~
昨年の同じ日に古典四重奏団を聴いていたなんて!!
昨年はショスタコ体感だなんて書いていたのですが、今回は彼らにとって何度目かのベートーヴェンラウンド開幕~ベートーヴェン・ツィクルスVol.1の1~を聴いてきました。
会場で配られたプログラムでは、曲の詳細や背景については古典四重奏団メンバーの川原さんが詳細にプログラムノートとしてまとめて下さっていますが、何度も聴いている人にとっても、今回初めて聴くような人にとっても、大変重宝なガイドブックになると思いました。
今回の舞台上の配置も音量面を考慮した並び(第1ヴァイオリン、チェロ、ビオラ、第2ヴァイオリン)で、彼らのアンサンブル作りにおけるある種のこだわりを感じさせられました。
第2番ト長調
第1楽章アレグロでは流れるような第1主題で、明るさはそのままに"はしゃぎ過ぎない"第1ヴァイオリンのリードが巧みでした。展開部でも厚味あるアンサンブルを聴かせ、曲が進むにつれてより前向きな姿勢が感じられましたが、この時は様子見ていたようでやや慎重気味に聴こえました。第2楽章アダージオ→アレグロではゆったりとした出だしで艶やかな第1ヴァイオリンとどっしり構えたチェロが好対照をみせ、拍の裏の裏まで意識した演奏を披露していました。中間部で第1ヴァイオリンの快活なメロディの疾走に酔い、たたみかけるような独特のリズムに酔いました。第3楽章スケルツォでは滑らかなヴァイロインからチェロへの受け渡し、たっぷりのばす部分とスパッと切るようなフレージングでメリハリがついていました。まるで舞踏会を思わせる中間部ハ長調のトリルも滑らかで、変奏曲風のフレーズが大変美しい演奏で印象に残りました。心なしかチェロが大きめに入っていましたが、こちらの主張もよく届きました。第4楽章アレグロモルトではたたみかけるような、まるでモーツァルトのディヴェルティメントを思わせる軽快さがよく前面に出ていました。チェロからの再現部でも存在感ある響きで、コーダでの緊張感溢れるアンサンブルは圧巻でした。
第1番ヘ長調
第1楽章アレグロでは特徴ある優美さの冒頭ユニゾンテーマからぐいぐいとエネルギッシュな音楽に引き込まれていきました。初めは弱く、続いて強くメリハリを付けた演奏をしており、中間部で各パートがテーマを弾き継ぐ緊迫した場面は聴きもので、再現部でのヴァイオリンと渡り合うチェロの存在感の大きさはその透明な響きと共に印象に残りました。第2楽章アダージオでは言葉を付けて歌いたくなるような切々としたヴァイオリンのメロディとチェロのフレージングが美しく、転調を繰り返す中で一段と艶やかさと切なさを増していき、第1ヴァイオリンが激しく歌い上げる中で呼吸を探る際の中間部の劇的な事!!再現部での激しい慟哭を奏でる第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロと切々とした第1ヴァイオリンとが内に向かって突き進んでいく部分では、情感を超えた何かを感じさせてくれました。第3楽章スケルツォでは遊び心に満ちた主題が実に細やかに弾き進められていき、細かいフレージングや、チェロとビオラによるギャロップ風フレージングを大変面白く聴きました。恩師ネーフェの作品からテーマ転用した第4楽章アレグロでは、転がり流れるようなテーマを短いながらも劇的に展開させていき中間部ではたっぷりとした音幅で聴かせ、再現部からコーダにかけては歯切れよい歌い口を聴かせており、ここも聴き所でした。
第3番二長調
第1楽章アレグロでは第1ヴァイオリンの変幻自在なフレージングで伸びやかなアリアを奏でており、転調を繰り返しつつも歯切れよい弾き口を保っていました。第2楽章アンダンテでは変ロ長調ののどやかな曲想にあって澄み切ったヴァイオリンと軽やかなチェロ、そしてやわらかく支える内声部とが寄り添うように語り合って奏でていたのが印象的でした。展開部では全体的にやや抑え気味に弾いている印象を受けましたが、楽章の持つ陰影を意識して遠目からアプローチを試みたのでしょうか。再現部以降コーダでユニゾンで強奏する部分はなかなかの迫力でした。第3楽章アレグロでは軽やかで快活な舞曲を本当に楽器どうしが対話しているような印象で、特に展開部での細やかな動きが印象に残りました。第4楽章プレストは弾むような快活なアンサンブルにメリハリがついており、緊張感を保ったまま突き進む演奏でした。よく響かせている上にまるで小規模のヴァイオリン協奏曲を聴いているかのような響きの広がりを感じました。
毎回聴いていて驚かされるのは、プログラムの全てを暗譜して演奏している事。
楽譜の型に入って読み込んで(弾き込んで)その型を出るスタンスを踏んでおられるのでしょうが、こうして言葉に書くのは簡単でも、いざ実際の行為にとなるとおいそれとはいかない。音符や記号のいわゆる丸暗記ではなく、上述のプログラムノート等に裏打ちされているような、背景や構造を踏まえた上での親密な対話という高次元な行為に敬意を抱かせてくれる演奏家なのです。またすぐにツィクルスが続きますが、これは彼らの親密な演奏をまた聴ける喜びと申せましょう。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
古典四重奏団〈#73〉
~ベートーヴェン・ツィクルスvol.1-1~
日時: 2008年10月3日(金)19:15開演
出演者:古典四重奏団
川原千真(第1ヴァイオリン)/花崎淳生(第2ヴァイオリン)
三輪真樹(ヴィオラ) 田崎瑞博(チェロ)
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第2番ト長調op.18-2
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番ヘ長調op.18-1
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番ニ長調op.18-3