クラシック はじめのいっぽ Vol.8 ~フルート~
報告:緑川千華子(千葉県在住・学生) 座席:2階C3列3番
投稿日:2008.09.18
期待に胸を躍らせる中、ヘンデルのラールゴから始まったコンサート。工藤さんのフルートが音を奏でた瞬間、あまりの美しさに、客席からはため息が漏れました。私は2階席の最後列、つまり工藤さんからは最も遠い位置に座っていたのですが、まるで耳元で楽器を鳴らしてもらっているかのような、澄んだ音色。美しすぎて鳥肌が立ってしまいました。
続いて、有名なテレマンのソナタ。演奏の素晴らしさは言うまでもありませんが、曲ごとに繰り広げられる工藤さんのトークにも、非常に楽しませていただきました。作曲家の豆知識などの音楽的なお話から、工藤さんがお住まいのパリのお話にいたるまで、客席からはたびたび笑いが起こりました。工藤さんの気さくなお人柄も、大変魅力を感じさせるものでした。
その後は、歌曲、ピアノ曲など、フルートの名曲だけでなく、幅広いプログラムを楽しませていただきました。フルートのマスターピースをじっくり味わうのも良いですが、オリジナルとは違う、フルート版の演奏を味わうのも趣深いものです。唐揚げだけの唐揚げ弁当よりも、たくさんのおかずを味わえる幕の内弁当のほうが、ワクワクするものですね。
そうして同じ味付けに慣れてきたころ、ボリングの作品が印象的なスパイスとなりました。ジャズの雰囲気が新鮮で、繊細でありながら情熱的な、成田有花さんのピアノがぴったりでした。全く飽きさせないプログラムで、工藤さんのセンスの良さに感服しました。
言うに及ばず、フルートの名曲といわれる作品も素晴らしかったです。「精霊の踊り」、「アルルの女」のメヌエット、「ハンガリー田園幻想曲」と、まるで伊勢えび、マツタケ、松坂牛のオードブルのよう。この内容で、お昼にふらっと聴きにいけるなんて、まさに贅沢と言わんばかりです。チケットがかなり低価格なことにも驚きました。
そして、客席が最も沸いたのは、おそらくバッジーニの「妖精の踊り」でしょう。ヴァイオリンの言わずと知れた難曲ですが、超絶技巧のオンパレードに、曲が終わった瞬間、待ちきれなかったかのように大きな拍手が起こりました。フルートは、「優雅」、「癒し」という印象が強いと思いますが、激しく走り回る音符を目の当たりにして、フルートの新たな一面に驚かれた方もいらっしゃったことと思います。
クラシックのコンサートはなんとなく「敷居が高い」というイメージがあるようですが、お昼のひとときに気軽に楽しめる印象でした。テレビやCDで聴いたことのあるメロディーでクラシックに親しみを覚えると同時に、ちょっと変わった曲やインパクトのある曲によって、クラシック音楽の「奥深さ」も感じさせる、充実した一時間でした。また、工藤さんのような素晴らしい演奏家のコンサートが「はじめのいっぽ」となったなら、これほど贅沢なクラシックデビューは無いと思います。クラシック初心者でも、はたまたクラシックマニアにとっても、心から「おなかいっぱい」になれる素晴らしいコンサートでした。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート #29〉
クラシック はじめのいっぽ Vol.8 ~フルート~
日時: 2008年9月11日(木)11:30開演
出演者:工藤重典(フルート) 成田有花(ピアノ)
演奏曲:
テレマン:ソナタ へ短調
ヘンデル:オペラ「クセルクセス」よりラルゴ
アリアビエフ:うぐいす
グルック:オペラ「オルフェオ」より精霊の踊り
ショパン:小犬のワルツ
ビゼー:「アルルの女」第2組曲よりメヌエット
バッチーニ:妖精の踊り
クロード・ボリング:ヴェローチェ
ドップラー:ハンガリー田園幻想曲