林光・東混 八月のまつり29
暑い夏の夕暮れ時、毎年8月6日の広島原爆記念日近辺の時期に第一生命ホールで行われているという「林光・東混 八月のまつり」を聴きに行った。プロの合唱のみの演奏会というのは、私にとって意外に初体験かもしれない。
自由席なのでまずは1階に入ってみるが、真ん中のブロックは最後列まで、左右のブロックも通路際はほぼいっぱいなので、2階で聴くことにした。ホールに入ってもなかなか身体が冷めず、周りにもプログラムやうちわで自身に風をおくる人がちらほらと目に入る。
最初に林光氏が登場、詩「風に吹かれて」(私は知らなかったが、後で調べたらボブ・デュラン作詞)を読み上げ、「原爆小景を演奏いたします。」と一言、すぐに演奏に入った。
「原爆小景」が演奏されるということは予備知識としてはあったのだけど、いきなり1曲目「水ヲ下サイ」から衝撃を受ける。「水ヲ」「水ヲ」と重なり合い繰り返される歌声。ぱたぱたやっていた観客の手もぴたりと止まり、皆息をつめて聞き入るしかない。3曲目「夜」では歌声の中に「コレガ人間ナノデス/原子爆弾ニ依ル変化ヲゴラン下サイ」とアナウンサーがニュースを読み上げるような朗読が聞こえてくる。壮絶な声の重なりに息苦しくなる。最後の曲「永遠のみどり」では原爆後何年も草木が生えないだろうと言われた広島の街に緑が芽吹いたことを思い起こさせ、少し救われる。
ここで休憩。短いけれど、重い重い第1部だった。
後半1曲目はギターの鈴木大介氏が登場し、「フェデリコ 君の名前はまだ」(ギター版初演)。音のバランスのためかギターはPAを使用していたものの、歌声との相性がよく、客席にも先ほどの緊張感はない。ただ、毎年いらっしゃるようなお客様にはこの構成は周知の事実で、第2部は気持ちを切り替えて聴かれるのだと思うが、私の中ではさっきの「原爆小景」の後にこの曲をどう聞けばいいのかまだ分からない状態で、とまどったままだった。
その後、「日本叙情歌曲集より」では、林光氏のピアノ伴奏で「中国地方の子守歌」、その後、男声のソロで歌われた「城ヶ島の雨」ではひときわ大きな拍手があった。「ちんちん千鳥」「叱られて」などよく知られている曲が続き、客席もリラックスした雰囲気。「野の羊」の後には一瞬、先日100歳で亡くなったという作曲家、服部正の紹介が林氏からあり「曼珠沙華」「かやの木山の」と続いて終わった。
アンコール第1曲目に「お菓子と娘」の後、本公演の白眉は「星めぐりのうた」。舞台後方に星のように豆電球がまたたき、ホール全体も暗くなっていく。最後暗転になり星も消えると客席から「フーム」と思わずもれるため息。そして小さく「ブラボッ」の声が上がり拍手になった。
当初、初心者が迷い込んでしまったような疎外感はあったが、「星めぐりのうた」があったことで、今日の演奏会の聴き方はこれでいいんだと自分なりに納得でき、楽しめた。
「原爆小景」を歌い続けていく大切さ、それが芸術の持つ力だと強く感じた公演だった。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
林光・東混 八月のまつり29
日時: 2008年8月8日(金)19:00開演
出演者:林光(指揮)、鈴木大介(ギター)、東京混声合唱団、古賀満平(照明)
演奏曲:
林光:原爆小景(1958/1971/2001 完結版)(原民喜:詩)
<水ヲ下サイ><日ノ暮レチカク><夜><永遠のみどり>
林光:フェデリコ、君の名前は歌だ(2006/2008ギター版初演)(加藤直:詩)
林光編曲:日本抒情歌曲集より
中国地方の子守歌(日本民謡 山田耕筰:作曲)
城ヶ島の雨(北原白秋:詩 梁田貞:作曲)
ちんちん千鳥(北原白秋:詩 近衛秀麿:作曲)
叱られて(清水かつら:詩 弘田龍太郎:作曲)
野の羊(大木惇夫:詩 服部正:作曲)
曼珠沙華(北原白秋:詩 山田耕筰:作曲)
かやの木山の(北原白秋:詩 山田耕筰:作曲)