プレアデス・ストリング・クァルテット〈#72〉
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会IV ~
本日のプログラムは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の二曲と大フーガという、休日の昼下がりに聴く音楽としては、随分と重いプログラムに関わらず、ホールの客入りは8割程度と予想以上の盛況であった。客層は、プログラム構成からか、クラシックファン風のご年配方が目立っていたが、学生風の若者もちらほらと。
私の座席は、ホール後方より手前のほぼ真中の席で、舞台上の奏者の姿が、譜面台に被ることもなく、視覚的にも満足。また音響的にも、舞台上の雑音が届かず、ホール全体の響きがよくわかる場所で、目も耳も十分に楽しめる絶好の座席であった。
さて、プログラム前半はベートーヴェンのラズモフスキー1番。1楽章冒頭のチェロによるテーマから、非常に伸びやかな歌に溢れた演奏であった。チェロ山崎さん、ヴィオラ川崎さんといった円熟期の演奏家2名が、しっかりとした音楽の土台を作り、その上にヴァイオリンの2人が乗っかるという様な印象を受けた。それはラズモフスキー1番という曲だからこそかもしれないが、チェロの山崎さんが全体をコントロールし、ベートーヴェンであっても、肩肘張らない自然な音楽作りが特徴的で、聴くものを圧倒するのではなく、聴くものの呼吸を自然とベートーヴェンの音楽に惹きこんでいくような感じであった。特に、3楽章の途中、チェロのピチカートをベースにヴァイオリンが美しいメロディーを奏でる箇所など、そのピチカートの息遣いやフレージングが素晴らしく、思わず息を呑んでしまうような緊張感があったことが印象に残っている。ただ、一つだけ残念だったのが、1楽章と2楽章の間で、後から入ってきた聴衆の誘導の為に、演奏者も暫らく待たされてしまい、1楽章で出来上がった空気感が壊れてしまうようで、少し残念ではあった。
さて、後半のプログラムは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番と大フーガ。ベートーヴェンの晩年の作品だけあって、非常に内容の濃い作品である。ただ、第13番などは、他の後期弦楽四重奏から比べると幾分か取っつきやすく、楽章ごとのキャラクターに変化の富んだ名曲と言えるかと思う。演奏はというと、ラズモフスキー1番のどちらかと言うと中低弦主導で、高弦の個性が隠れていた印象から一転、第13番と大フーガに関しては、高弦の主張がはっきりし、4パートそれぞれが主張し合い、また場面によっては見事なまでの統一感があった。また、ラズモフスキー同様に各パートから歌が溢れ出るものがあり、第5楽章の緩徐楽章では、どこか移ろいゆく儚いメロディーを、1st Vlの松原さんはヴァイオリンという楽器が奏でることができる限界を駆使して聴かせてくれた。楽器から直に空間を振動させ直接耳に飛び込んでくるこのライブ間は、やはり生のコンサートならではのもの。得がたい経験であった。
今後もこのカルテットの活動は注目していきたく、また、演奏会にも機会があれば是非足を運びたく思う。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド 2008-2009 Galleria〉
プレアデス・ストリング・クァルテット〈#72〉
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会IV ~
日時: 2008年9月15日(月・祝)15:00開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(ヴァイオリン) 川崎和憲(ヴィオラ) 山崎伸子(チェロ)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番ヘ長調op.59-1「ラズモフスキー第1番」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130、大フーガ変ロ長調op.133