The Gents ザ・ジェンツ Love Songs ~ ラブ・ソング
報告:1F5-31 佐々木久枝(中央区勤務)
投稿日:2006.11.20
イギリス民謡集ではヴォーン・ウィリアムズ編曲による「リンデンの草原」や「きじばと」から始まり、グリークラブを思わせる強弱のメリハリや、r音の醸し出す素朴さと哀愁が魅力的でした。「彼女は縁日を通り抜けた」「マリー・マローン」ではたゆたうような哀愁やコーラス/ユニゾンを織り交ぜた歌唱、時に雅楽を思わせる高音パートのオブリガードが存分に披露されました。付点風のフレーズが印象的な「ロンドンデリー」は転調して指揮者自らがソロパートを歌いましたが、低音部メロディと高音部オブリガードとも相まって大人の歌唱を聴かせてくれました。ポップスを思わせるハミングや降り注ぐようなソロはメリハリを伴って展開し、後奏部分の和音がクレッシェンドしていくところは圧巻でした。
ヴェルレーヌのテクストに同郷オーステンによる「ジーグを踊ろう」は目の前で本当に踊っているかのような躍動感が感じられ、「白い月」「秋の歌」は静やかに思いを巡らせる様子が特にベースパートが中心となって歌っていました。「女と雌猫」はしゃなりしゃなりと歩くようで、ラストのたたみかけるような低音パートの積み重なりに雌猫を思わせる高音の"忍び足"が巧みでした。ドップラー効果を狙うような中声部がマルタンのミサ「サンクトゥス」を思い起こさせました。
続く北欧曲プログラムではベースから始まり静かに重なっていく声が哀愁をそそるもので、物思いにふける秋にふさわしい選曲だなと感じました。「海の夜明け」では和音のかたまりからベースが浮かび、続いてテナーが強弱を帯びて浮かび、高音部の和音が明け行く海の様子を効果的に描いていました。激しい中声部分を軸として力強いグリークラブ風かつオペラティックな動きに魅せられました。夜のしじまへいざなうような静かで密やかな歌い口(クーラ:夕べに)、ベースの半音刻みに下がるメロディがやや微妙(同:夕べの情趣)でしたが、続くマンテュヤルヴィ「子供の声」では低音和音に乗ってベースソロの艶やかな高音ビブラートがオブリガードを引き立てていましたし、音域の幅広さには何故か「島へ」を思い起こさせました。
後半は日本ゆかりのプログラムから。英語テクストによる武満作品では水面が広がるようなめくりめく声の輪、木魚を思わせる間奏部分(坊主三人)、全体的に静かで思い出を醸し出すような響き(露の餞)を楽しみました。続いて更にお馴染みの(笑)演歌4曲。ツアー地にちなんだ「琵琶湖周航の歌」では2コーラス目でベース→アルト→ベースのメロディ受け渡しも巧みで、他パートも後出し伴奏が絶妙でした。「みだれ髪」はこぶしの効いたアルトソロがコラール風に歌い、ベースとテナーが後奏のメロディパートを交互に歌って、改めてアレンジの巧みさを披露してくれました。「函館の女」ではボイスパーカッションが登場し、和音アレンジも素晴らしかったです。高音3パートとベースのメロディラインとの組み合わせは新鮮な印象を受けました。続いて前回アンコールでも聴かれた「舟歌」。筆者も偶然前回控え室でのリハーサルを耳にしましたが、その日の本番もさる事ながら、当夜の歌唱では更にボイスパーカッションと効果音(波)がますます冴え渡っていました。さすがです!!
締めくくりのステージは当夜のテーマ「ラヴ・ソング」ビリー・ジョエルやビートルズ、ライオネル・リッチーのほっと温かくなるようなナンバーが次々と歌われていきました。冒頭の「素顔のままで」ではその語りかけるようなソロに思わずほろりときてしまいました・・・・指揮者のみならず、いずれのソロも素晴らしい出来映えです。「恋に落ちたら」ではラストの和音がまるでグレゴリオ聖歌のように清楚な響きでした。
アンコールでは「ララバイ」や「ミシェル」、ピーター・ナイトのナンバーが披露され、上質な大人の恋歌を堪能出来ました。熱烈なオベーションでしたが、欲を申せばもう少し余韻も味わいたかったところです。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈TAN's Amici Concert〉
The Gents ザ・ジェンツ Love Songs ~ ラブ・ソング
日時: 2006年11月2日(木)19:00開演
出演者:The Gents
演奏曲:
イングランド民謡集~彼女は縁日を通り抜けた(アイルランド民謡)/
モリー・マローン(アイルランド民謡)他
オランダの若きモダニストたち歌~ロエル・ファン・オーステン:4つの詩
北欧の歌声~トイヴォ・クーラToivo Kuula: イラッラ 他
武満徹:手づくり諺/日本の歌 舟唄 他
ラヴ・ソングス~ビリー・ジョエル:ちょうどあなたのいる道/
レノン&マッカートニー: イフ・アイ・フェル/ライオネル・リッチー: ハロー/
ビリー・ジョエル: アンド・ソー・イット・ゴーズ 他未定