ロベルト・シューマン没後150周年記念
漆原朝子&迫昭嘉のシューマン
報告:高橋 芳子(サポーター)
投稿日:2006.07.21
出かけようとドアを開けると梅雨特有の曇り空で思わずため息。心を落ち着かせようと電車の中では隅の席を確保。目を閉じると聞こえてきたのは 「あっはっは・・・」 「うっそぉー!」 「マジ?」という甲高い声。 向かいの席に座った女子大生風お嬢様方、何が楽しいのか異常にテンションが高い。それでも笑い声が夢の中でだんだん遠ざかっていったのが救い。
静寂。
静けさの中から足音と共に現われたのは胸にスパンコールをあしらった艶やかな紫色のドレス姿の漆原さん。数歩遅れて相変わらず若々しい迫さん。8割以上は入ったのではないかと思われる聴衆の拍手に迎えられる。
プログラム(漆原朝子&迫昭嘉のシューマン)
・ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 イ短調 op.105(1851)
・ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第3番 イ短調 遺作(1853)
・ヴァイオリンとピアノのための 「3つのロマンス」 op.94(1849)
・ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 ニ短調 op.121(1851)
静寂に溶け込むように「ソナタ 第1番」の第一音が奏でられる。瞬間、張り詰めた空気がスーッと和らいでいくのを感じた。人の持つ感性のボタンを丁寧に押すような豊かな表現、ホール全体が二人のシューマンの世界に魅了されるには時間はいらなかった。まるで上質なディナーの一皿目を頂いた様。続く「ソナタ 第3番」はお二人の円熟ぶりが聴けた一曲だった。休憩を挟んで「3つのロマンス」は口にも目にも優しい一皿。一転、重厚な「ソナタ 第2番」へ。アンコールの第1曲目の【森の情景 op.82より 予言の鳥】は、まるで柑橘系のシャーベットのように爽やか、第2曲目のブラームス【「F.A.E.の ソナタ」のためのスケルツォ】は濃厚なケーキの様。大好きなケーキを口にした時のような喜びに溢れた演奏が印象的。聴き終わってみれば、まさにフルコースを頂いた時のように一曲一曲を味わいつつ全体のバランスの良さを実感できる演奏だった。
おばさん二人と、「涙がでそうだった!」「本当、すごく良かった!」とテンションが高くなっている大学生のお嬢さん二人が合流して帰途へ。帰りの電車は立ったままでも疲れ知らず、行きの電車のお嬢さん達に負けないくらい4人で会話が弾んだ。疲れたお仕事帰りの方々ゴメンナサイ。反省。
気になった事2点
その1 良くあることだが咳き込んだ時の飴さがしのガサゴソがホール全体に響き渡ってしまった。(たぶん私が今まで経験した中で一番長く大きな音)
おまけに演奏中に退席。さらに演奏中に席に戻るというウルトラC。(レセプショニストがいないドアだったようだ)多くの方が経験ある事だと思うが本人にとっては辛いもの。対策としてできるだけ音の出にくい包装の物を上着のポケットやバッグのポケットなど取り出しやすい所に準備。
決して大袋から取り出すことの無いようにお願いしたい。
その2 譜めくりについて。譜めくりはいわば黒子。この日もせっかく目立たない服装で現われたのに、足音を立てずに歩こうとしたのか歩きにくい靴なのか歩き方がぎこちない。ついつい目がいってしまったのが残念。譜めくりの方もいわばアーティストの分身と再確認した。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
ロベルト・シューマン没後150周年記念
漆原朝子&迫昭嘉のシューマン
~ヴァイオリンとピアノのためのソナタ全3曲&3つのロマンス~
日時: 2006年7月7日(金)19:15開演
出演者:漆原朝子(ヴァイオリン)、迫昭嘉(ピアノ)
演奏曲:
シューマン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番イ短調 作品105、
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番イ短調遺作、
ヴァイオリンとピアノのための「3つのロマンス」作品94、
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番二短調作品121