エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会2
報告:須藤久貴/大学院生/1階10列9番
投稿日:2006.06.11
ああ、こういう展開になるのか、と驚かせられる。油断して何気なく聴いているうちに、いつのまにかぐいぐいと引き寄せられていて、まんまとうまくしてやられた、と唸ってしまう。エルデーディとはそういうクァルテットだ。
アレグロやプレストでは、彼らは壊れそうなくらいひたすら突っ走っていく。メンデルスゾーンの第6番ヘ短調のように、第3楽章以外がみな速い楽章だと、その普通ならざる突っ走り度合いが、危うさのようにも思えてきて、はらはらした気分にさえなってしまうのだけれど、緩徐楽章になると、第1ヴァイオリン蒲生氏の力まない透明な歌い口が際立って美しく聴こえてくる。おそらく蒲生氏の音楽が、感情や感性を率直に表現しているからなのだと思う。花崎薫氏のチェロが好対照を成していて、楔を打ち込むように音楽の方向性をうまく制御していっている。絶妙なバランスだと思う。
最初に演奏されたメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番イ短調(作品13)は、もっともよかった。エルデーディの今まで聴いたなかで一番いい演奏だったかもしれない。特にこの曲は全曲にわたって第1ヴァイオリンの独奏だから、まさに蒲生氏の独走状態だった。思ったよりテンポも速めで、第2楽章は瑣末なところにこだわるというよりも、全体の音楽のうねりや波を表現していた。リートを歌った第3楽章もよかった。蒲生氏の音色の美しさは、力まず落ち着いて歌い上げるときにその真価が発揮される。さも何でもないことのように弾きながら、すごいことを語りおおせるというような。そのことは第4楽章最後の長いカデンツァでさらにはっきりした。他の三人の奏者が黙して蒲生氏の旋律が伴奏もなく裸のまま投げ込まれたときの、聴衆との一体感はこの上ないものだった。歩いているうちにいつのまにか洞穴に入り込んでしまったみたいで、この先どうなるんだろうと不安になった次の瞬間、単旋律は四重奏のなかに溶け込んでいき、しかもそれが第1楽章の序奏だったので、僕は「やられた!」と思ったものだ。暗い洞窟の先に突然パアッと視界が開けたような爽快な気分だった。
第3番ニ長調(作品44-1)を挟んで休憩後は第6番ヘ短調(作品80)が演奏されたが、終曲での激しさは圧巻だったと言う他はない。蒲生氏のあの「本気さ」は演奏会にいた者なら、得心されるに違いない。弓の毛が何本も切れるくらい、弦をいっぱいにかき鳴らしながら、蒲生氏は何でそんなに激しいのか、と思うくらいの「本気さ」があった。
最後に告白すると、僕が初めて弦楽四重奏の演奏を聴いたのは、エルデーディなのである。2分の1サイズでチェロを習い始めた91年ごろ、小学生だった僕は、彼らの演奏を聴いた。モーツァルトの≪不協和音≫にすごく感銘を覚えて、演奏会が終わってから楽屋を訪ねていって、チェロの花崎薫氏にサインをもらったのだ。さらには僕が所属していたジュニアオーケストラに、蒲生氏が指揮者として指導しにきているということも、不思議な縁を感じてしまう。エルデーディのファンとして、これからも聴いていきたいと思う。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウェンズデイ#48〉
エルデーディ弦楽四重奏団 メンデルスゾーン全曲演奏会2
日時: 2006年5月31日(水)19:15開演
出演者:エルデーディ弦楽四重奏団
[蒲生克郷/花崎淳生(Vn)、桐山建志(Va)、花崎薫(Vc)]
演奏曲:
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第2番イ短調作品13、
第3番ニ長調作品44の1、第6番へ短調作品80