日本音楽集団第183回定期演奏会 コンチェルトの夕べ
報告:2FC1-10 佐々木久枝(中央区勤務)
投稿日:2006.05.23
今回は全てコンチェルト尽くし。元々和洋問わず好んで聴いているジャンルなので、本番を聴く前から楽しみにしていました。自称「音楽集団熱烈サポーター」としても、今回の演奏は聴き逃す訳にはいきません!!(笑)
三木稔「コンチェルト・レクイエム」
幕開けは静まり返ったホール内を石を打って入場する場面から。俗世を離れ時空を越えた世界に聴き手をいざなう、凝った演出でした。左右2列の奏者が石を打ちつつステージに上がる様子は礼拝で僧侶達が祈りの言葉を唱えつつ祭壇に向かう姿を思い起こさせ、誰もが息を呑んで見守っていました。その中をソロの熊沢さんが静々と入場して演奏開始。尺八と横笛がうねるように切分音を打つ中で琴が低音から弾き出されていき、その後の横笛が切ない歌、ため息のような尺八と石打ちの響き。琴のめくるめくようなアルペジオと尺八群との緊密な絡み合いが見事。展開部では石打ちのクレッシェンドに総奏があおられていくような展開。琴ソロの裏拍と琵琶の拍刻みが重なり、琴の弾き口はまるでガムランのような倍音を聴いているよう。小鼓に4名の琴が加わって徐々にフォルテになり、ソロの細かい弦の動きもまた心地良い滑走ぶり。カデンツァでは所狭しと琴全体に覆いかぶさらんかのように熱がこもり、ショパンのピアノ協奏曲第2番フィナーレでも見られた弦をたたくような響きも興味深く聴きました。コーダではゆったりと幅広いアンサンブル。今度はソロから石打ちに響きのリレーをして照明が徐々に落とされていくフィナーレ。
長沢勝俊「琵琶協奏曲―校倉による幻想」
聖武天皇への思いを雪の光景の中に歌った和歌からインスピレーションを得て書かれた一曲。その思いはしんしんと降る雪の静けさの中にも熱さがこもっていて、聴いていてもその思いがひしひしと伝わってきました。ソロ琵琶と琴がしんしんと降る雪を、琴3人があたかも寺院の鐘の音を思わせるように弾き始め、そこへ尺八がこの静かなる物語の語りのようにそっとアンサンブルに寄り添っていました。展開部では付点リズム風で、笛が通り昔の思い出を思い起こさせるように奏でていました。細かい琵琶の刻みにボンゴ(琵琶ソロの田原さん共々衣装も見もの!!)と笛がアドリブのように絡み合い、即興的な掛け声も加わってこれがまたエキゾチックな趣を見せていました。この快活な全体のアンサンブル部分は野を駆け巡っているかのように快活。まるで"我が背子"聖武天皇と共に野を巡っている回想部分のようで、全体にしっとりした印象の中でこの部分が非常に印象的でした。途中ソロ側と伴奏側の琵琶どうしが掛け合う部分はまるで山のこだまのよう、きっと歌垣もこのように交わされていたんだろうなといろいろ想像がふくらみました。尺八がメロディはまるで物語を語るように神秘的な響き。途中ソロ琵琶とボンゴの掛け合いはどこか異国の市場に迷い込んだよう。横笛に合わせて琵琶ソロが歌う部分には光明子の心からのつぶやきの様子が伺われました。むしろ、この万葉の頃の方が感情の発露に実に素直に生きられていたのかもしれません。
牧野由多可「太棹協奏曲」
日本で唯一の太棹三味線協奏曲ですが、ソロの田中さんによると演奏者自身の「いま」と向き合うチャレンジャブルな曲との事。作曲から40年の月日を経て再生の響きを耳にしたのですが、全体を通して力強さと内に秘めた哀しみと、その他さまざまなものをバチに込めて聴き手に、演奏者自身の中に解き放つような印象を受けました。太棹三味線は人の声にも近いようで、尚更人間臭さというものを描き出すのかもしれません。曲の冒頭から鋭く切り込むような弾き口。尺八の静かな吹き始めから琴5名にリレーし、そこへ太鼓(育児支援コンサートでもお世話になった慮さん!!)が加わって早くもテンションが上がっていました。テンポも上がって三味線ソロとの掛け合いもまた聴きもの。低音で弾く琴や尺八との掛け合いも鋭い切り口。艶っぽくどこか切ない太棹三味線のA音連打の響きに私は惹かれており、2階の子供達もまたまた身を乗り出していました。カデンツァではめくるめくような弾き口に激しい「打」の部分も加わり、打楽器とも緊迫した掛け合いが繰り広げられ、全体的に積極的な演奏でした。その一方でまるで子守唄のような尺八の息のこもったソロ部分もまた印象的。水底から連綿と湧き立つような琴の流れる響きもまた興味深いものでした。太鼓の裏拍と太棹三味線と琴の低音部が一つアンサンブルにはまっており、熱い曲全体があっという間に駆け抜けたという印象でした。
福嶋頼秀「笛協奏曲-富嶽三章」
まず最初に驚いたのはソロ越智さんがバッサリ髪を切っての(刈って?)登場。プロフィール写真から大変身!!しかしながら明るい色調の衣装はまるで富士の山を思い起こさせるようでした。尺八ソロと琴との掛け合いに導かれるように吹き始められた第1楽章。朝の爽やかな目覚めの光景が描かれていました。琴のめくるめくような幅広い音の連なりと三味線の小粋な弾き口が素敵。尺八三重奏も三味線や琴の響きを敢えて抑え気味に止めて弾くのも面白く聴きました。打楽器がこの時はお一人だったのですが、まるで打楽器が集まっていたようにリズミカルな刻みでした。勿論、笛はありとあらゆる技巧の詰まったソロを存分に吹いており、ちょうど少し前の演奏会で聴いたモーツァルトの「ジュノム」協奏曲のように、アンサンブルとソロとが積極的に盛り上げていくような楽しさを感じました。たたみかけるような三味線もまた小粋!!
第2楽章では琴に導かれて深い山谷を思わせるような響き。山道に何かが現れそうな雰囲気もたっぷりと、笛が悠然と尺八共々吹き進めていました。よどみない琴の響きもまた山谷の深い深い霧の広がりが音同様にクレッシェンドしていくように効果的でした。第3楽章では冒頭からほとばしるような打楽器パワー(ここでは3名登場)で、海の光景と町の賑やかな光景が鮮やかに描かれていました。過度な響きを抑えて歯切れよさを前面に出した演奏が印象的。小気味よい粋な演奏はこういうものを聴けるものなのでしょう。
春の育児支援コンサートで和楽器体験したとおぼしき子供達が1階にも2階にも大勢来ていました。幕間ははしゃいで走り回っていたのですが、一度演奏が始まると皆身を乗り出すようにして聴き入っていました。本番後に育児支援コンサート以来で演奏者の方達にお会いしましたが、客席での子供達の様子を伝えると非常に嬉しそうな御様子。アウトリーチにも意欲的な御様子が印象的でした。
「今回はどの曲もメインディッシュの趣で、全体的にヘヴィ級の演奏会だったかも・・・・」とある団員さんは仰っていましたが、今回のソリストのそれぞれ曲に対する並々ならぬ意気込みが実によく伝わってきました。これからもその熱い熱い音作りを熱烈応援します!!
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
日本音楽集団第183回定期演奏会 コンチェルトの夕べ
日時: 2006年5月18日(木)19:00開演
出演者:日本音楽集団(指揮:田村拓男・福嶋頼秀)
演奏曲:
三木稔:コンチェルト・レクイエム(二十絃箏独奏:熊沢栄利子)
長沢勝俊:琵琶協奏曲~校倉による幻想(琵琶独奏:田原順子)
牧野由多可:太棹協奏曲(太棹三味線独奏:田中悠美子)
福嶋頼秀:笛協奏曲「富嶽三章」(笛独奏:越智成人)