モンテヴェルディ・ガラコンサート
報告:渡辺和/音楽ジャーナリスト/2階C1列12番
投稿日:2006.01.23
最先端ニューイヤー・コンサート
1月16日、第一生命ホールで「ニューイヤー・コンサート」が開催された。今時の季節、あちこちの文化施設がこの名前でおめでたい演奏会を行うのは、いつのまにやら恒例になっているようだけど、この晴海の場所で、トリトン・アーツ・ネットワークが主催なり共催なりして行うのは始めてじゃないかしら。今年は週末にも主催のそれが控えているようだし。さて、この晩の新年演奏会は、ひとことでいえば「ニューイヤー・オペラコンサート」である。なぜかNHKが松ノ内に全国放送を続けたおかげで、いつのまにかオペラ歌手がオーケストラ伴奏でオペラアリアなどを歌い上げ自慢の喉を披露するイベントは、新年の定番となっている(完全に日本独自の文化のようだが)。この日に第一生命ホールで披露されたのも、作りは同じ。オーケストラ、というわけにはいかないが、著名オペラ指揮者が統率する歌劇場のアンサンブルが、傑作オペラの抜粋や、限りなくオペラに近い独唱を披露するのだ。
ひとつだけこの演奏会がそんじょそこらの「ニューイヤー・オペラコンサート」と違ったのは、披露されるのがヴェルディではなく、モンテヴェルディ、ということ。
それだけの違いである。でも、決定的な違い。要するに、今、音楽ファンの間で最も最先端の流行となっている「バロック・オペラ」なのだ。「オルフェオ」、「ウリッセの帰還」、「ポッペアの戴冠」の3大傑作から名場面を抜粋。さらにはオペラにも匹敵する劇的なソロカンタータの傑作「アリアンナの嘆き」まで。アンサンブルを披露してくれるのは、モーツァルト以前のバロック歌劇上演では世界的に高い評価を受けるドロットニングホルム歌劇場の歌手と同オーケストラのバロックヴァイオリン2丁。テオルボを弾きつつ全体を統率するのはヤコブ・リンドベルイ。同歌劇場での世界最初の歌劇ペリ「エウリディーチェ」上演で絶賛されたバロックオペラの第一人者である。チョン・ミュン・フンが指揮するNHKニューイヤー・オペラコンサートにも匹敵する豪華なラインナップ。正しく21世紀の最先端ニューイヤー・オペラコンサートだ。
音楽の内容については、別の方がモニターなさるだろうから、そちらをご覧あれ。背景に黒い屏風を立て、そこを出入りするだけの簡素極まりない舞台だが、歌手の表現力と演技で場面を作り上げる。恐らくはフィレンツェ・カメラータで世界で最初のオペラが始まったときには、ちょうど第一生命ホールの空間程度のメジチ家の一室が使われ、こんな風な演技が成されたのだろう。後にヴェネチアの裕福な商人やフランス絶対王朝の宮廷が派手な見せ物に堕落させる前の本来のオペラのあり方に接するには、丁度良い規模である。
それにしても、ディスクやらDVDでは大人気、マニアも多いはずのこのジャンルである。レベルの高さはマニアであればあるほど判るはずだ。どうして晴海の夜会場が聴衆で溢れかえらないのかしら。「セネカの死」の絶唱を聴き、新年に相応しい安らぎと独特の厳しさを感じながらも、不思議に思ったものである。このメンバーで北とぴあ音楽祭ででも上演すれば、古楽愛好家が日本中から押し寄せるはずなのに。オーセンティシティ趣味と抜粋は相反するのかしら。もったいないこと。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
モンテヴェルディ・ガラコンサート
日時: 2006年1月16日(金)19:15開演
出演者:ムジカマーノ
【音楽監督:ヤコブ・リンドベルイ、
ソプラノ:ヘレナ・エック/アンナ・エミルソン/マリア・コヘイン、
テノール:ヨーハン・リンデロート/コニー・ティマンダー、
バス:ヘンリク・ビョーク、
ヴァイオリン:マリア・リンダル/エヴァ・リンダル】
演奏曲:
モンテヴェルディ:オペラ「オルフェーオ」/「ウリッセの帰郷」/
「ポッペーアの戴冠」より、「愛と戦いのマドリガーレ集」より