モンテヴェルディ・ガラコンサート
報告:上田淳子/1階4列8番
投稿日:2006.01.19
お恥ずかしながら、オペラやプロの合唱をホールで聴いた経験が殆どありません。そんな私の、このコンサートでの一番の感動は、"人間の声とは、これほど美しいものなのか"ということでした。バロックの歌、歌唱法については、まったく知識も持ち合わせておりませんが、キタローネの演奏と共に、音楽監督でもあるリンドベルイが「このプログラムの演奏に最も適した声の質を探し求め、スウェーデンの若い歌手たちを選びました」ということも功を奏していたかもしれません。(プロフィールによれば、みなさんバロックの専門家のようでした)
プログラムは前半にマドリガーレ(マドリガル)を5曲、その後に歌劇「ウリッセの帰郷」より数曲、そしてまたマドリガーレ、最後に歌劇「オルフェーオ」より数曲。休憩を挟んで後半はまたマドリガーレ5曲に、歌劇「ポッペーアの戴冠」より抜粋、最後にマドリガーレという内容でした。
マドリガーレは世俗歌曲などと訳されたりしていますが、モンテヴェルディの作品は牧歌的なものから劇的なものまで様々です。このコンサートの一番最初の曲「天と地と」は、ヴァイオリン2本、キタローネによる通奏低音の伴奏にソプラノ3人、テノール2人、バス1人の6声でしたが、あっという間に彼らの声に魅了されてしまいました。ホール全体に6つの声が溶け合って、響いてきました。
歌劇「オルフェーオ」の前の「ニンフの嘆き」ではソプラノのマリア・コヘインが可憐な声で愛の苦しみ、悲しみを歌いあげましたが、少し振りも付き、恋に破れたニンフを演じていた姿に引き込まれました。
後半の歌劇の前の一曲「ほんとうのことだ」ではテノールのリンデロートが朗々と歌うのですが、合間合間に合いの手のようなヴァイオリンとキタローネの演奏が入り、そこから歌への受け渡しもなかなか見事なものでした。
さて歌劇のことも書かなくてはなりません。バロック時代の作品なだけに、題材がギリシャ神話、ローマ時代のものである事も面白いものです。ガラ・コンサートと言いつつも、演奏者(歌手)たちは、ちょっとした小道具を使ったり、女性たちは、それほど豪華なものではありませんが、曲にあった衣装に着替えたりして演出も気が利いていました。「オルフェーオ」では、喜びの歌をみんなで歌っていたと思ったら、使者であるヘレナ・エックによって死が伝えられますが、悲しみを見事に表していました。それまでの雰囲気をガラっと変えてしまうのはすごいことだと思いました。最後の「ポッペーアの戴冠」では、それまでの曲では、どちらかといえば縁の下の力持ちの役まわりであったバスのビョークが哲学者セネカを重々しく、存在感たっぷりに、一方ポッペーアのコヘインは無邪気な女性を演じていたのが対照的で楽しめました。
歌い手のことばかりに触れてきましたが、初めてキタローネという楽器も目にしました。リュートの仲間だそうですが、ネック(竿)がとても長い楽器で、低音の撥弦がとてもよく、17世紀ごろの歌の伴奏には通奏低音としてよく演奏されたそうです。今回耳にした、モンテヴェルディの音楽にはヴァイオリンも現代のものでなく、古楽器を使って演奏したことで、非常に効果があったと思いました。
自分からは行かなかったであろう演奏会をモニターさせていただきましたが、非常に良質で、とても素敵な音楽に巡り会えたことに感謝です。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
モンテヴェルディ・ガラコンサート
日時: 2006年1月16日(金)19:15開演
出演者:ムジカマーノ
【音楽監督:ヤコブ・リンドベルイ、
ソプラノ:ヘレナ・エック/アンナ・エミルソン/マリア・コヘイン、
テノール:ヨーハン・リンデロート/コニー・ティマンダー、
バス:ヘンリク・ビョーク、
ヴァイオリン:マリア・リンダル/エヴァ・リンダル】
演奏曲:
モンテヴェルディ:オペラ「オルフェーオ」/「ウリッセの帰郷」/
「ポッペーアの戴冠」より、「愛と戦いのマドリガーレ集」より