第24回ロビーコンサート
報告:小林美恵子/サポーター
投稿日:2006.01.16
弓が弦に触れるや否や、柔らかな音色が拡がった。ロビーの隅々にまで伸びやかに行き渡り、心の奥まで染み通った。
バッハの無伴奏チェロ組曲、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ、全曲に取り組む今川本さんの<バッハシリーズ>。
演奏曲目は、本来チェロ用、ヴァイオリン用に書かれた曲である。これをヴィオラで演奏する際には、ヴァイオリン曲での速いパッセージなどは楽器が少し大きくなるだけで技術的に何倍も難しくなるだろう。逆にチェロのための曲では、低弦の幅広い音を出すのが大変だろうと想像する。川本さんの演奏は、そのような技術的な困難さを微塵も感じさせる事のない、すばらしいものだった。
艶やかな音で始まったプレリュード、歌のあるアルマンド、流れるようなクーラント、陰影に富んだサラバンド、踊り出したくなるように軽快なジーグ。そして最後に到達するシャコンヌは、緊張感に満ちて格調高く、長調に変る瞬間には長い苦悩の後で訪れた安らぎを感じた。
たった1挺のヴィオラで、極限まで楽器を駆使し、これほどの音楽表現を持つ曲を作ったバッハの偉大さにあらためて驚かされる。380年以上も前に作曲されているのに、その後の時代の変化も、地域も、宗教をも超越した普遍性をもって我々を魅了する。今、バッハの作品を聴く事が出来る幸せに感謝の念が湧いてくる。
作曲家の書いた曲、その心を聴き手に伝えてくれるのは演奏家である。川本さんの真摯な演奏があってこそ、バッハの音楽の神髄に触れる事が出来たと言える。演奏家にとって技術的にも精神的にも高度なものを要求されるバッハの音楽、川本さんも『バッハを弾く時は、神に裁判を受けているように緊張する』と話された。立派な演奏をされながら、謙虚な川本さんだった。
無私で向き合う人に、ミューズの神は微笑む・・と感じた今日のコンサートであった。
公演に関する情報
第24回ロビーコンサート
日時: 2006年1月13日(金)
場所: 第一生命ホールロビー
出演者:川本嘉子(ヴィオラ)
演奏曲:
バッハシリーズ 3
J・S ・バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調 BWV 1010
プレリュード/アルマンド/クーラント/サラバンド/ブ−レ/ジーグ
J・S ・バッハ:無伴奏パルティータ第2番ニ短調 BWV 1004
アルマンド/クーラント/サラバンド/ジーグ/シャコンヌ