2007.3.26
プレアデス・ストリング・クァルテット
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅰ
「師匠達、デビュー」
作曲者にとっても時代にとってもあまりポジティブに取り扱われなかった、ピアノソナタ第9番ホ長調を移調編曲した弦楽四重奏曲ヘ長調。これは個人的にピアノで練習しようと考えていたので、和声や強弱の点で非常に参考になりました。第1楽章アレグロモデラートでは第1ヴァイオリンが初めややたたみかけるように弾いており、続く第2楽章アレグレットでは艶やかな付点をもって流れるようなアンサンブルが繰り広げられ、ヴァイオリンどうしが寄り添うように弾き合っておりました。変二長調のトリオ部分でのいっそう緩やかな揺れ動きが印象的でした。第3楽章アレグロでは飛躍する音型の妙を楽しめました。第1ヴァイオリンの激しい提示に呼応するかのように他3者の揃って鋭い三連がフィナーレを形作っていたと思います。
続いてはこれに対して人気曲でもある弦楽四重奏曲第1番へ長調。第1楽章アレグロコンブリオは優雅な第1ヴァイオリンとチェロに挟まれて2つの内声部は細やかに弾いておりました。トリオ音を交えて旋回部分での激しさ増したビオラは味わいあるメロディを奏でておりました。軽やかで文字通りゴキゲンな楽章ですが、難度高さを何ら感じさせない、さすがは師匠達の演奏でした。ロメオとジュリエットから着想を得たという第2楽章アダージオでは、明るい部分での夢見るような響き、中間部で突如チェロが激しくもめまぐるしい強音での展開する短調部分はまるで嵐の中を思わせる、恋の刹那を描き出していました。ビオラに始まる長調部分は慰め部分は大変対照的かつ丁寧に描かれており、ストップモーションを思わせる緊迫部分にも聴き入りました。これだけ内面を描き出せるベートーヴェンが歌劇を1作しかものしていないのが何とも勿体無いと思い起こさせてくれる演奏でした。第3楽章スケルツォのヘ長調部分は正に起承転結の「転」、中間部での舞曲風の刻みはまるで第1ヴァイオリンの為のコンチェルトのようで、拍の後ろも意識しつつここをさり気なく弾き通すところにも改めて敬服。第4楽章アレグロはこれもまた軽快にして快活な節回しに低音部の合いの手が絶妙。どのパートの響きをも均等に置いたと言われているハイドンの如く、どの奏者も対等に渡り合っている演奏でした。
休憩後はこれもまた人気"ラズモ"ものの弦楽四重奏曲第9番ハ長調、第1楽章アンダンテコンモート/アレグロヴィヴァーチェは、最初の不安気な減7和音から文字通り揺れ動きを伴ったフレーズを経て突如明朗快活な展開ではすっかりツボを心得た演奏、自在にテーマを操っており、コーダ部分でのたたみかけるようなアンサンブルは、今や恒例となっているアドヴェントのみならずこの時期にあっても受講生達にも聴いてもらいたいと思いました。現に私の周辺にもお弟子さんとおぼしき若きお客様が楽器携えて聴き入っておりました・・・・彼らは幸せ者です。何故か私はここで「告別」ソナタの第2楽章からフィナーレに向けての揺れ動きや次の瞬間の喜び弾ける部分を思い浮かべましたが、いずれも私の"ツボ"にはすっかりはまりました。第2楽章アンダンテ、アレグレットでのチェロの"ジャジー"なピチカート演奏には一瞬コンサートホールにいるのを忘れさせるような(笑)ノリの良さ。このリズムに乗ってオリエンタルな趣を持つ他3者のメロディが絶妙でした。展開部で代わってチェロがメロディ歌う部分も秀演でした。イ長部分での描くパートの歌い交わしや、ラスト部分にも聴き入りました。第3楽章メヌエットもまた起承転結の「転」で、チェロが悠々と支える上で他3者も伸びやかに歌を聴かせておりました。注目の第4楽章アレグロモルトで多くのクァルテットはここを"超快速"に駆け下りるとの事ですが、当夜の演奏イメージは「センプレ・ヴィヴァーチェ」。速度を響きの幅に見事置き換えてシンフォニックに聴かせてくれました。第1ヴァイオリン→ビオラ→第2ヴァイオリン→チェロと次々リレーされていく中でも熱いテンション保って弾ききっており、フィニッシュ後は場内から熱烈な拍手が送られました。
アンコールでは冒頭の「ややマイナー」な曲の第2楽章。晴海"初登場クァルテット"のみずみずしくも熟された師匠達の音色を堪能しました。
この日第2ヴァイオリンの方がケガされていたようですが、いざ楽器を手にして曲に入ると全く違和感がありませんでした。スポーツ選手ではないですが、「気合だー!!」ではなくとも「集中だー!!」なのでしょうね、きっと。
当夜ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏に出発した"新しき百戦錬磨"の面々。今後の展開が楽しみです。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈クァルテット・ウェンズデイ#55〉
プレアデス・ストリング・クァルテット
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅰ
日時: 2007年3月21日(水・祝)15:00開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(Vn)、川崎和憲(Va)、山崎伸子(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番へ長調作品18の1、同へ長調Hess.34、
同第9番ハ長調作品59の3「ラズモフスキー第3番」
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
この日は朝から雨風が強く、前夜は傘が吹き折られそうになったのもあってお客様は大丈夫だろうかと思いつつ準備に入りました。私の入ったスタジオはいわば御近所の4-5才の子供達。事前に知らされた人数より参加者が増えており、一体どうなるのかと思いました(笑)。さて、スタジオに加わって下さったのはフルートコーナーで、実演は佐久間さんとお弟子さん男女お二人でした。リハーサルでも男性のお弟子さんの軽快なトークを聞かせていただき、我々サポーター達も大うけ。また恒例の"楽器解体"では普段ステージやテレビで見かける楽器があっという間にケースに入る大きさになり、はるか昔にリコーダーを習った身にとっては非常に懐かしいものでした。
さていよいよ開場してスタジオも受け入れ開始。猫のイラストの描かれた水色のカードを首に下げていつもよりちょっとおめかしした子供達が次々とスタジオに入ってきました。尚、今回は後述の全体コンサートで使用するおはなし本に登場するキャラクター毎に色分けカードが用意されました。他には黄色カードのあひる組、ピンク色カードのりす組、緑色カードのかぼちゃ組。それぞれファゴット・オーボエ・ホルンの演奏家がスタジオ参加下さいました。全体開演までの約30分間は私達サポーターもフル回転。折り紙でいろいろと折りながら絵の描かれた模造紙に次々と貼っていきましたが、どの模造紙ゾーンも満員御礼!!皆はいろいろな折り紙の折り方を知っていて、お家や小鳥、チューリップ等を次々と折っては糊をつけて!!と私に差し出してきました。私も犬やトトロ(?)を折って一緒に貼ってみましたが、子供達の折り上がりの方が上手だったかもしれません(笑)。
友人との話題にもよく出るのですが、このくらいの年齢から指先が細かく動くと楽器を始めるにもちょうどよいのだろうなとも改めて思いました。さっきお家を折ってくれた女の子は前日ピアノの発表会で2曲弾いたんだと報告してくれましたっけ。フルートは皆初めて!!とちょうど遠足の前夜のようにはしゃいでいました。
さて、スタジオ開始となり、魔笛のパパゲーノのアリアから。佐久間さんと女性のお弟子さんが二重奏している中で男性のお弟子さんがパパゲーノよろしく吹きつつ登場。このお弟子さんの話術はさすがで、リハーサル以上にテンションが上がっておりました。最低音から最高音まで一気に吹いていく中で能管を思わせる甲高い音に子供達はウワーっと大騒ぎ!!勿論これは予定内の展開でしたが、更にコップ等の小道具で楽器の仕組みを分かりやすく説明するあたりでも大喜び。またカルメン抜粋の演奏では子供達も実はよく聴いた事があるようで、演奏後には口々にこれ知ってる、知ってる!!と叫んでいました。途中クーラウのトリオ直前で何人かの子供達とお手洗いに走る場面もありましたが、受付サポーターさん達の協力もいただき無事に演奏中に戻る事が出来ました。今回は前回までの反省をふまえ、親御さんのお迎え時にスタジオ内に順次入っていただいた事もあって大きな混乱なく引き合わせる事が出来ました。片付けをお手伝い後、私がホールへ行きましたが、本日満員御礼のカフェ前ではさっきまで一緒に遊んだ子供達が親御さんにスタジオの報告をしている光景があちらこちらで見かけられました。今回はホール内は勿論、スタジオお迎えの際にもお父様の姿が多く見られましたが、共通の楽しみを分かち合って一日を過ごすというスタイルが日本でも徐々ながら出てきつつあるのでしょうか。
第2部「みんな一緒のコンサート」ではまずイベールの3つの小品から。第1曲は軽快なリズムが前面に出ており、第2曲では佐久間さんのフルートがグイグイ音楽を推し進めていく印象で、クラリネットの高橋さんが伸びやかに重なって、音色の重なりには子供達でなくとも聴き入りました。第3曲はオーボエの広田さんの艶やかさとフルートとの絡みがコミカルに展開していき、周りの子供達も身を乗り出さんばかりに聴き入っていました。
続いて音楽と絵本「かぼちゃスープ」(ヘレン・クーパー作・せなあいこ訳)が披露されました。春色を思わせるパステルグリーン調の衣装で登場した山下千景さんの表情豊かでリズミカルな朗読は親御さんも熱心に聞いておられたようです。ピアニスト仲道さんとの共演コンサートの御経験もあるので、音と言葉とで織り上げていくステージを堪能出来ました。選曲もテュイレからリゲティまで変化にとんだ構成で、物語の展開にはまっていたと思います。
第2部終了後はすぐにロビーへ。ねこ組メンバーとさっきスタジオで作った折り紙模造紙を掲げながらお客様をお見送りしました。程なくホールを出てきた同じ色のカードを下げた子供達が模造紙に駆け寄って自分の折った折り紙を親御さんに指差して見せていましたが、親御さんも我が子の力作に驚くやら喜ぶやらしつつ我々サポーターに様子を聞いてきました。また来るね!!と手を振って声かけてきた子供達にとって、この一日がもっと音楽を好きになるきっかけとなりますように。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈ライフサイクルコンサート#21〉
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時: 2007年3月25日(日)15:00開演
出演者:オイロス・アンサンブル・クインテット(木管五重奏)
佐久間由美子(Fl)、広田智之(Ob)、高橋知己(Cla)、岡本正之(Fg)、吉永雅人(Hr)
木幡律子(Pf)、山下千景(朗読)
演奏曲:
第1部(約30分)
子どものための音楽スタジオ(幼稚園年少組年齢から年長組年齢対象)
大人のためのコンサート(小学生からホールで聴いて頂きます)
~クラリネットの魅力~
ルトスワフスキ:ダンス・プレリュード
シューマン:アダージョとアレグロ
シューベルト:アヴェ・マリア
第2部(約40分)
みんな一緒のコンサート
イベール:三つの小品
音楽と絵本「かぼちゃスープ」(作:ヘレン・クーパー/訳:せな あいこ)