プレアデス・ストリング・クァルテット
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅰ
「師匠達、デビュー」
作曲者にとっても時代にとってもあまりポジティブに取り扱われなかった、ピアノソナタ第9番ホ長調を移調編曲した弦楽四重奏曲ヘ長調。これは個人的にピアノで練習しようと考えていたので、和声や強弱の点で非常に参考になりました。第1楽章アレグロモデラートでは第1ヴァイオリンが初めややたたみかけるように弾いており、続く第2楽章アレグレットでは艶やかな付点をもって流れるようなアンサンブルが繰り広げられ、ヴァイオリンどうしが寄り添うように弾き合っておりました。変二長調のトリオ部分でのいっそう緩やかな揺れ動きが印象的でした。第3楽章アレグロでは飛躍する音型の妙を楽しめました。第1ヴァイオリンの激しい提示に呼応するかのように他3者の揃って鋭い三連がフィナーレを形作っていたと思います。
続いてはこれに対して人気曲でもある弦楽四重奏曲第1番へ長調。第1楽章アレグロコンブリオは優雅な第1ヴァイオリンとチェロに挟まれて2つの内声部は細やかに弾いておりました。トリオ音を交えて旋回部分での激しさ増したビオラは味わいあるメロディを奏でておりました。軽やかで文字通りゴキゲンな楽章ですが、難度高さを何ら感じさせない、さすがは師匠達の演奏でした。ロメオとジュリエットから着想を得たという第2楽章アダージオでは、明るい部分での夢見るような響き、中間部で突如チェロが激しくもめまぐるしい強音での展開する短調部分はまるで嵐の中を思わせる、恋の刹那を描き出していました。ビオラに始まる長調部分は慰め部分は大変対照的かつ丁寧に描かれており、ストップモーションを思わせる緊迫部分にも聴き入りました。これだけ内面を描き出せるベートーヴェンが歌劇を1作しかものしていないのが何とも勿体無いと思い起こさせてくれる演奏でした。第3楽章スケルツォのヘ長調部分は正に起承転結の「転」、中間部での舞曲風の刻みはまるで第1ヴァイオリンの為のコンチェルトのようで、拍の後ろも意識しつつここをさり気なく弾き通すところにも改めて敬服。第4楽章アレグロはこれもまた軽快にして快活な節回しに低音部の合いの手が絶妙。どのパートの響きをも均等に置いたと言われているハイドンの如く、どの奏者も対等に渡り合っている演奏でした。
休憩後はこれもまた人気"ラズモ"ものの弦楽四重奏曲第9番ハ長調、第1楽章アンダンテコンモート/アレグロヴィヴァーチェは、最初の不安気な減7和音から文字通り揺れ動きを伴ったフレーズを経て突如明朗快活な展開ではすっかりツボを心得た演奏、自在にテーマを操っており、コーダ部分でのたたみかけるようなアンサンブルは、今や恒例となっているアドヴェントのみならずこの時期にあっても受講生達にも聴いてもらいたいと思いました。現に私の周辺にもお弟子さんとおぼしき若きお客様が楽器携えて聴き入っておりました・・・・彼らは幸せ者です。何故か私はここで「告別」ソナタの第2楽章からフィナーレに向けての揺れ動きや次の瞬間の喜び弾ける部分を思い浮かべましたが、いずれも私の"ツボ"にはすっかりはまりました。第2楽章アンダンテ、アレグレットでのチェロの"ジャジー"なピチカート演奏には一瞬コンサートホールにいるのを忘れさせるような(笑)ノリの良さ。このリズムに乗ってオリエンタルな趣を持つ他3者のメロディが絶妙でした。展開部で代わってチェロがメロディ歌う部分も秀演でした。イ長部分での描くパートの歌い交わしや、ラスト部分にも聴き入りました。第3楽章メヌエットもまた起承転結の「転」で、チェロが悠々と支える上で他3者も伸びやかに歌を聴かせておりました。注目の第4楽章アレグロモルトで多くのクァルテットはここを"超快速"に駆け下りるとの事ですが、当夜の演奏イメージは「センプレ・ヴィヴァーチェ」。速度を響きの幅に見事置き換えてシンフォニックに聴かせてくれました。第1ヴァイオリン→ビオラ→第2ヴァイオリン→チェロと次々リレーされていく中でも熱いテンション保って弾ききっており、フィニッシュ後は場内から熱烈な拍手が送られました。
アンコールでは冒頭の「ややマイナー」な曲の第2楽章。晴海"初登場クァルテット"のみずみずしくも熟された師匠達の音色を堪能しました。
この日第2ヴァイオリンの方がケガされていたようですが、いざ楽器を手にして曲に入ると全く違和感がありませんでした。スポーツ選手ではないですが、「気合だー!!」ではなくとも「集中だー!!」なのでしょうね、きっと。
当夜ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏に出発した"新しき百戦錬磨"の面々。今後の展開が楽しみです。
公演に関する情報
第一生命ホール5周年記念コンサート
〈クァルテット・ウェンズデイ#55〉
プレアデス・ストリング・クァルテット
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅰ
日時: 2007年3月21日(水・祝)15:00開演
出演者:プレアデス・ストリング・クァルテット
[松原勝也/鈴木理恵子(Vn)、川崎和憲(Va)、山崎伸子(Vc)]
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番へ長調作品18の1、同へ長調Hess.34、
同第9番ハ長調作品59の3「ラズモフスキー第3番」