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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

©武藤章

佐藤美枝子

昼の音楽さんぽ 第17回
佐藤美枝子ソプラノ・リサイタル

平日の昼、気軽に音楽を楽しんでいただく「昼の音楽さんぽ」に、佐藤美枝子さんが初登場。その魅力を60分に凝縮したプログラムをお楽しみいただきます。

日本を代表するプリマドンナによるうたの世界

大切に歌い継ぎたい日本の歌

今回は日本の歌をプログラムの前半に歌われます。

まずは、ぜひ唐木亮輔さんが作曲された「花の雨」を紹介したいと思って、1曲目に入れました。まだ若いのですがすばらしい才能をお持ちで、いずれ脚光を浴びる作曲家だと思います。それから、皆さんによく知られた日本歌曲を。日本人が上の世代から受け継いで、下の世代の子どもたちにまで歌い継がなくてはと思います。「からたちの花」は、チャイコフスキー・コンクールの二次予選でも歌った、大好きな想い出の曲。山田耕筰先生の音楽は、まるでベッリーニの作品ように、言葉が音にきれいに乗っています。「からたちの花」は伴奏も最小限に押さえた研ぎ澄まされた状態で書かれている。朗々と歌うのではなく、語りかけるように歌うところに日本語の良さが出ています。小学校や幼稚園などで子どもたちに歌う機会もありますが、必ずプログラムに入れます。すると、「からたちの花」が一番好きでしたという感想をいただいたりする。むずかしいと思われがちな曲も、心に響けば心に残って、音楽を好きになるきっかけになるのです。

後半はフランスものでまとめました。

日ごろ私が歌わないようなものも聴いていただきたいと思って。ラヴェルヴォカリーズは、妖艶な雰囲気漂う、ヴォカリーズの中で一番好きな曲。デラックァ作曲ヴィラネルは、今回初めて挑戦します。大好きで、私の声にも合っていると思います。アダン「きらきら星変奏曲」は超絶技巧ですごく難しいのですが、どんどん声を転がすようにご存じのテーマが変奏していくので、聴いている方には喜んでいただけると思います。フルコースの中のシャーベットのように少し気分を変える意味で入れてみました。


テクニックと感情表現が見せ場の「狂乱の場」

佐藤美枝子さんと言えば、ドニゼッティ作曲のオペラ「ランメルモールのルチア」に出てくる「狂乱の場」が代名詞。主人公が悲しみのあまり狂乱して歌う超絶技巧のアリア「狂乱の場」が見せ場になっているオペラはいくつかありますが、今回歌われる「狂乱の場」は、トマ作曲「ハムレット」のオフィリアですね。

ありがたいことにチャイコフスキー・コンクール優勝以来、ルチアの「狂乱の場」をリクエストされることが多いのですが、初めて聴く方には、このオフィリアの曲の方が「なんてきれいな曲だろう」と感じていただけるかもしれません。「狂乱の場」は、確かに作曲家が技巧を盛り込んでいますが、一番大事なことは、やはり音楽に乗せた言葉を、感情を込めて届けること。私自身は、誰にも負けないテクニックを身につけようと必死にやってきましたが、技巧ばかりでテクニックをひけらかすような歌であっては絶対にいけないと思います。登場人物の感情の吐露と、テクニック、そのバランスこそが「狂乱の場」の難しさでしょうね。

これまでに、この演奏を聴いて人生が変わったという経験はありますか。 

歌を学んでいた高校2年生の時、レコードでマリア・カラスの歌うオペラ「トスカ」のアリア「歌に生き恋に生き」を聴いて、こんな歌手になりたいと思いました。役に憑依したようで、ただ美しいのではなく、言葉に命が吹きこまれている。他にも色々な名歌手のアリアが入っているレコードだったのですが、彼女だけが、まるでお芝居の中で歌っているように聞こえました。それ以来、あの人のようになりたいという気持ちでずっと生きてきたので、亡くなったと聴いたときにはショックでした。私に乗り移ってほしいと(笑)、本気で願っていたのですけれど。

お客様へのメッセージを。

この「昼の音楽さんぽ」シリーズは、チケット代もリーズナブルですね。この機会に、オペラや歌曲は敷居が高いと思わず、たくさんのお客さまに気軽に聴いていただければと思います。