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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

© Kiyotaka Saito

仲道郁代

音楽のある週末 第18・19回
仲道郁代のモーツァルトI・II

2012年の第一生命ホールでの「ショパンの世界」が大好評だったピアニスト仲道郁代さんが、今回は2回にわたりモーツァルトの魅力に迫ります。

ますます進化発展する「仲道郁代のモーツァルト」

1回目は、モーツァルトの短調に焦点をあてたプログラムです。

モーツァルトの短調作品は、曲数は多くありません。当時は好まれる調性が限られていて、短調はあまり書かれなかったためです。ですからモーツァルトがあえて短調を書く時、そこにはきわめて個人的な想いが込められています。母の死、父の死、親しかったハッツフェルト伯爵の死......。その想いが浮き上がってくる。依頼されたのではなく、書きたくて書いているから心に残るし、語りたいことの強さを感じます。暗いけれど、その中に明るさが見える「透明な暗さ」。ベートーヴェンやチャイコフスキーの短調とは全く違う軽やかさを持つ、悲しみさえも突き抜けたような美しさが、モーツァルト独特ですね。

モーツァルトは、長調もただ明るいだけではありませんね。

長調の中に、明るいんだけど悲しみが聴こえる。悲しいことを知っているからこそ、明るさがより明るく感じられ、幸せを知っているから、悲しみもより透明なものになるような気がします。

共演は、ヴァイオリニストの川久保賜紀さんです。

きっかけは、2011年の第一生命ホールの10周年記念ガラ・コンサートです。ご一緒に、モーツァルトのピアノ三重奏曲を演奏させていただいて、またぜひやりましょうと。

2回目は、モーツァルトの時代のフォルテピアノ「シュタイン」と現代のピアノを弾き比べていただきます。

シュタインは1790年製のモデル。フォルテピアノは、以前第一生命ホールでも演奏したショパンの時代の「プレイエル」の他、ベートーヴェン時代の「ブロードウッド」(1816年製)も手に入れました。フォルテピアノの前の時代に演奏されていたチェンバロも買ったので、自宅がまるで博物館のようになってしまって、人間様はすみっこに追いやられて生活しています(笑)。自分でも古楽器にここまで夢中になるとは思っていませんでした。やはり手元にあれば、「モーツァルトのこのフレーズのこの感じ、どう解釈するのかしら」という時に、すぐに触ってみることもできます。もちろん弾く楽しみ、その時代の香りを感じることができるという楽しみもありますし。

やはり楽器を弾いてみて分かることが多いということですよね。

そうですね。特にモーツァルトの時代は、ピアノの原形であるフォルテピアノが出来たころで、現代のピアノとは別の楽器なのではというほど発音形態も違いますし、楽器の構造も違います。当時の楽器を弾くと、なるほど、このフレーズは、この楽器の音の伸びがこれくらいでこのような減衰をしているから、この和声になって、だからこのスラーや、スタッカートが書いてあるんだなと。当時の楽器を触ることで分かることがたくさんあり、作曲家が本来思い描いていた音楽を探求できるのがおもしろい。その時代のモーツァルトさんに会えるわけではないし、その時代に生きているわけでもない。でも手がかりは多い方がいいですものね。
問題は、私は現代の楽器を弾く人間で、お客さまも現代に生きている方、ホールも昔のモーツァルトが弾いていたような部屋とは違うこと。これらを知った上でどう演奏するかが一番難しいし面白いところでもあります。

いろいろなレパートリーをお持ちの中から、このモーツァルトの聴き比べのプログラムはどのように選ばれましたか?

シュタインの面白さ、軽やかさを聴いていただける曲を選びました。小さな楽器なのですが、表情が豊かで、意外にとてもドラマチックなのです。音の音量の幅は現代の楽器より少ないのですが、表情の幅は広いくらい。もしかしたら現代の楽器より心に響くように感じる曲もあります。2台の楽器を並べて同じ曲を弾き比べますので、違いを感じていただけるのではないでしょうか。ピッチ(音の高さ)も、タッチも違うので、交互に弾くのは結構大変なのですが。
それから、シュタインは音が小さく繊細で、大きな会場では聴いていただくのが難しいので、今回の企画はどこででもできるわけではありません。第一生命ホールの音響があるからこそできることなのです。

仲道さんは、モーツァルトのソナタ全曲演奏をされ、全集のCDも出されました。モーツァルトは手の内に入ったレパートリーと言ってもよいと思います。

それがモーツァルトは私の中でどんどん変わりつつあって(笑)。モーツァルトの時代は、ちょうどチェンバロからフォルテピアノに移行する時代なので、最近手に入れたチェンバロを弾いたり、モーツァルトの後のベートーヴェンの時代のフォルテピアノを弾いたりすることで、また前後の時代からモーツァルトが見えてきます。もちろんシュタインに日々触れる中で発見することもあります。当時についての学問もまだまだ研究途中で、色々な方から教えていただくことで変わってくることもある。また、本番から教わることもたくさんあるので、舞台で演奏しながらも変わってきているし、まだまだ現在進行形です。だから音楽っておもしろいですね。いつも、何か満足することなく、もっともっとと思いながら続いている感じでしょうか。

ますます進化発展する「仲道郁代のモーツァルト」をどうぞお聴き逃しなく。

【使用楽器】J.A.シュタインモデル※1790年頃の楽器を複製
鍵盤61鍵 ツッカーマン社製(山本宣夫改造 仲道郁代蔵)