2011.4
東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
報告:河上高廣/団体職員/松戸市在住
投稿日:2011.04.22
人間の声の暖かさ、合唱の素晴らしさを改めて感じることが出来た「心に響く、レベルの高い、楽しい演奏会」でした。
東京混声合唱団特別演奏会を聴きました。この演奏会は、「田中信昭エクソンモービル音楽賞受賞記念~東京混声合唱団創立55周年記念 / 第一生命ホール10周年記念~」とのとこ。
震災後いくつもの演奏会が中止になっていたため、開催されるかどうか少し不安もありましたが、無事開催され、ホッとしました。
人間の声の暖かさ、合唱の素晴らしさを改めて感じることが出来た「心に響く、レベルの高い、楽しい演奏会」でした。被災地の合唱団の人達にも聴かせたい!!
演奏に先駆けて指揮者の田中信昭氏から挨拶がありました。煎じ詰めると「東京混声合唱団が活動を開始してから55年。ここまで継続できたのは、沢山の作品、来場者の暖かい声援や厳しい意見などがあったから。」というもの。実直で暖かみのある挨拶でした。
1.第1ステージ
・1曲目は「夏は来たりぬ」 (14世紀のカノン)
3本のリコーダーも加わり、3組に分かれて歌われました。肩から力の抜けた演奏で、良い意味でさらっと始まりさらっと終わりました。あのようにふわっと歌えたらいいなあと思います。この曲の最初の音取りはリコーダーでした。
・2曲目は「アヴェ・マリア」(作曲:ジョスカン・デ・プレ)
数多いアヴェ・マリアの中でも有名な合唱曲。印象的なメロディ。アルトが特に良かったように思いました。
・3曲目は「鳥の歌」(作曲:クレマン・ジャヌカン)
ジャヌカンはルネサンス時代のフランスを代表する作曲家。この曲は随所に鳥の鳴き声が取り入れられています。「クルル」「タルタル」「ティフィ・ティフィ」など。私にとっては大学1年生の時の定期演奏会で歌った思い出の曲です。当時は鳥の擬音の巻き舌に苦労しました。「目覚めて聴かずや、愛しの人よ・・・」と私達は日本語で歌いましたが、今日の演奏は原語。4つのパートが独立して歌われるため、一旦出遅れたりすると大変ですがさすが東混。全くそんな不安は感じられません。うまいなあ。この曲には録音が良いことで有名なCDがありますが、今日の演奏もそれに匹敵する名演でした。
・4曲目は「ほら、波がささやいて」(作曲:モンテベルディ)
モンテベルディはイタリア・クレモナ生まれで、「聖母マリアの夕べの祈り」などの他、9巻にわたるマドリガル曲集を作っています。この曲は28歳の時に作曲した第2巻に収められています。「ほら、波がざわめいている。木の葉が震えている、朝のそよ風に・・・」という当時の大詩人タッソの詩に見事な曲を付け、自然の美しさを表現しています。テノールの「エコー・モラー・ローンデ・・・」で始まる曲の冒頭。東混のテノールは柔らかい声で秀逸。
2.第2ステージ
混声合唱のための五つの日本民謡(作曲:三善晃)
1973年の東京混声合唱団の委嘱作品。阿波踊り(徳島県)、佐渡おけさ(新潟県)、木曽節(長野県)、ソーラン節(北海道)、五ッ木の子守歌(熊本県)の5曲。歌ったら難しそうです。3列編成で、3列目全部と2列目の右端二人と左端二人(バスが左端!)が男声、2列目の中央部と1列目全部が女声という少し変わった並び方でした。三善さんらしく音取りが難しそうな曲でした。そーらん節が勢いがあって楽しめました。
~20分間の休憩。ホールの一階下のロビーでコーヒーを飲んで一息。~
3.第3ステージ
萬歳流し~シアター・ピース~(1975)(作曲:柴田南雄)
会場全てがステージという演出。男声は二人一組(太夫と才蔵と言うそうです)になり場内を歌い(語り?)歩きます。お客様がご祝儀をお渡しているところもあります。女声(きれいな衣装です)は二手に分かれてバックコーラス。何とも不思議なそして楽しいステージでした。
4.第4ステージ
・荒城の月(作曲:滝廉太郎、編曲:林光)
この曲は外国に行った日本人が聴いて必ず涙を流すとのこと。最後の部分の張り詰めた緊張感、そして息をのむピアニッシモ!素晴らしかった。編曲も良いですね。
・さくら(日本古謡、編曲:武満徹)
無伴奏の武満作品の最難曲。複雑に移りゆくハーモーニー、繰り返されるクレッシェンド・ディミネンド、聞き惚れました。ただ、さすがの東混も集結部だけは・・・。
・小さな空(作曲:武満徹)
何か懐かしさを感じさせる曲です。口ずさみたくなる分かりやすいメロディ、親しみのある歌詞。口笛のところも良かった!
・峠の我が家(編曲:デビッド・ギオン)
これまでの3曲と世界が一変、リラックスできました。
・ジェリコの戦い(黒人霊歌、編曲:ホーガン)
ソプラノソロが大人の雰囲気で色っぽかった。格好良かった。
・赤とんぼ(作曲:山田耕筰、編曲:篠原眞)
この曲は何度聞いても胸が一杯になります。東混の第1回定期演奏会で演奏されたそうです。
・汽車ポッポ
指揮者が上手(かみて)に「シュッポー・シュッポー」と言って消えてしまい、しばらくすると下手から再登場するという演出。その間「ポー!!」というテノールソロ(?)の声の大きいこと、目立つこと!大受けでした。東混の第1回定期演奏会のアンコールで演奏されたとのことです。
このステージは一般的なSATB(左からソプラノ、アルト、テノール、ベース)という並び方でした。
5.閉館時間の都合とのことで、アンコールはありませんでした。残念! 田中信昭氏の指揮は、無駄のない動きでとてもきれいでした。また、照明も自然な感じで良かったです。
6.この演奏会で、私の学生時代の合唱団の指揮者の方とボイストレーナーの方(お二人とも東京混声合唱団OB)にお会いすることができました。帰り際に少しだけ話も出来、暖かな気持ちで帰路につきました。
公演に関する情報
共催公演 TAN’s Amici Concert
東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
日時:4月22日(金)19:00 開演
出演:田中信昭(指揮) 東京混声合唱団(合唱) 古賀満平(照明)
東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
報告:石井洋一/会社員/東京都在住
投稿日:2011.04.22
私にとって一番新鮮だった曲が最古の合唱曲、というのもいかにも東混らしい。
東京混声合唱団(東混)の演奏会を毎回のように聴きに行っていたのは、もう30年以上も前のことになる。
エクソンモービル音楽賞受賞記念東京混声合唱団特別演奏会の第3ステージで演奏された、三善晃編曲による「五つの日本民謡」の初演を聴いたのはその頃のことだった。
日本民謡を採譜してこぶしを細かい音符の動きで表現した作品を聴いて、このような方法があったのか、と思い、衝撃を受けた。そして、これを超える編曲はもう現れないかもしれない、また、この編曲を歌いこなせるのは東混しかないのではないか、とも思ったことを鮮明に覚えている。この日の演奏を聴いて、当時の新鮮さが今もそのまま変わりないことを確認し、前段の予想が当たっていたと思った。しかし、後段のほうはうれしいことに合唱界のレベルが上がり外れたようである。これだけの時間の経過を経て、当時と同じ田中信昭さんの指揮で再び聴くことができたのが何よりも喜ばしく感じた。
第2ステージの柴田南雄作曲「萬歳流し」もそのころの作品で、法政大学アリオンコールによる初演を私は聴いている。その後何度か再演され、その何回かも聴いたなじみ深い曲だが、混声合唱での演奏は初めてだった。柴田南雄さんの一連のシアターピース作品が初めて現れた時も衝撃的だった。客席の四方から響き渡るハーモニーに酔いしれて何とも言えない快感と感動に包まれたのを覚えている。「萬歳流し」はその中でも門付け芸を取り込み、客席に対し歌いかけるように演出され、演奏者と聴衆が一体となって盛り上がるところが何とも言えない。少し後のこととなるが私自身柴田南雄さんの作品の初演にかかわることとなり、先生のアトリエを訪問した時のことも昨日のことのように思い出された。
第1ステージと第4ステージで演奏された小品群は、ただ一曲だけを除き、いずれも自分でも演奏したか、練習した曲ばかりでさまざまな思い出とともに懐かしく聞いた。こうしてみると私の乏しい合唱経験は東混とともにあったのだということがよくわかる。メンバーはほとんど入れ替わってしまい、当時の懐かしい顔の多くは客席でお見かけした。しかし、東混のハーモニーは不変で、昔と変わらず楽しませてくれたのは本当にありがたいことだと思った。
この日の曲目の中で私が初めて聴いた唯一の曲は、最初に演奏された14世紀のカノン「夏は来たりぬ」だった。なんとこれは羊皮紙に書かれた世界最古の合唱曲だという。私にとって一番新鮮だった曲が最古の合唱曲、というのもいかにも東混らしい。ますますの活躍を期待したい。
公演に関する情報
共催公演 TAN’s Amici Concert
東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
日時:4月22日(金)19:00 開演
出演:田中信昭(指揮) 東京混声合唱団(合唱) 古賀満平(照明)
音楽のある週末 第7回 中村紘子 ピアノ・リサイタル
報告:齋藤健治/編集者/月島在住/1階12列21番
投稿日:2011.04.9
TANが贈る音はいつだって、私たちの側で待っている―ホール・TAN創立10年、これからの10年、大震災を迎えて―
2000年、20世紀の最後の年、偶然にも私は月島に越してきた。
そして新しく越してきた町のあちらこちらを歩いた。晴海のほうでは新しいビルが建築途上だった。
その中心に、ぽっこりとした円い建物が見える。
これはいったい何? まさかプラネタリウムでもあるまいし......。何だろう。
2001年、21世紀の最初の年。晴海トリトン・スクエアがオープン。そして「ぽっこりした円い建物」が何であるかを知る。
そう、わが「第一生命ホール」だ。
そしてこのホールの運営主体がNPO法人「トリトン・アーツ・ネットワーク」であることを仕事を通して知り、幸いなことに知遇を得た。
なんたる偶然のことか。
大好きな音楽が自分の暮らしに、どんどん入り込んできた。受動的なリスナーではなく、徐々に主体的な関係者となっていった。
まさかこんな暮らしが始まるとは。でもTANは私の側にいつでもあった。
* * *
前置きが長くなったが、晴海・第一生命ホール、トリトン・アーツ・ネットワーク発足から10年。
意欲的なプログラムが次から次へと用意されている。
2011年4月9日。今日は、新年度を飾る、中村紘子さんのリサイタルだ。
* * *
最初はバッハ。
思わず、涙ぐむ。
なんて、アグレッシブな演奏なのか。まるでコンクールに臨む野心たっぷりの若手アーティストのような舞台。
勝手ながら円熟味を増した演奏に接することができると思っていたが、そんな予想はものの見事に覆えされる。
* * *
「私は『ここ』に『いる』。私はいま、バッハを弾いている。バッハを弾いている! 私は、いま、バッハを弾く!」
「でもね、あなたは『ここ』にいない。『あなた』に『ここにいてほしかった』。でも私はいま、バッハを弾いている!」
そんなメッセージをステージから受け取ったかのように身震いする。
3.11震災後に初めて聴いたコンサートだったから、聴いている私のほうも高揚気味だった。
しかしその気持ちを、ある時は高め、ねじ伏せ、最後は平穏へと導く。
先に書いた「円熟味を増した演奏」。もしかすると「円熟」とはこうしたサウンドのことを指すのかもしれない。
円熟とはけっして、ゆったりとした滋味豊かな味わいばかりではない。しみじみとしたものでもない。
人々の心を大きくゆさぶりながらも、けっして自分勝手に投げ出さず、責任をもって大きな掌で受け止める。
アーティストがステージから投げ掛ける音が、確かにオーディエンスの生活の一部に食い込んでいく。一日、一日の暮らし方に食い込む。
ふとした瞬間に、あの時聴いたステージの音が立ち上がってこないだろうか。
それは仕合わせな一時である。少なくとも私にとっては。
音がいつも自分の生活の側にある。
* * *
その後、ベートーヴェン、シューベルト、チャイコフスキー、ラフマニノフと続く。
アンコールは、ブラームス。
* * *
これまでの10年、TANはいつも考えてきた。
「『あなた』に、『いま』、『この音楽』を、『聴いてほしい』」
こんな願いでコンサートを創ってきたと思える。
なぜなら、端から見て、そしてスタッフと接し、スタッフはいくつもの新しいことにチャレンジしてきたことを見てきたから。
こう書いてくるとTANのすべてを肯定しているようだが、苦言もずいぶんしてきた。
でも、TANの基本理念は揺るいでいない。
「『あなた』に、『いま』、『この音楽』を、『聴いてほしい』」
これまでの10年、そして大震災後のいま、確かな音楽を、TANは伝えてきた。
これからの10年もそうあってほしい。
ひっそりと暮らす人の一日を、シアワセな音で包み込んでほしい。
TANはいつも素敵なアーティストを連れて、私たちの側にいるのだ。
公演に関する情報
音楽のある週末 第7回 中村紘子 ピアノ・リサイタル
日時:4月9日(土)14:00 開演
出演:中村紘子(ピアノ)