東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
報告:石井洋一/会社員/東京都在住
投稿日:2011.04.22
私にとって一番新鮮だった曲が最古の合唱曲、というのもいかにも東混らしい。
東京混声合唱団(東混)の演奏会を毎回のように聴きに行っていたのは、もう30年以上も前のことになる。
エクソンモービル音楽賞受賞記念東京混声合唱団特別演奏会の第3ステージで演奏された、三善晃編曲による「五つの日本民謡」の初演を聴いたのはその頃のことだった。
日本民謡を採譜してこぶしを細かい音符の動きで表現した作品を聴いて、このような方法があったのか、と思い、衝撃を受けた。そして、これを超える編曲はもう現れないかもしれない、また、この編曲を歌いこなせるのは東混しかないのではないか、とも思ったことを鮮明に覚えている。この日の演奏を聴いて、当時の新鮮さが今もそのまま変わりないことを確認し、前段の予想が当たっていたと思った。しかし、後段のほうはうれしいことに合唱界のレベルが上がり外れたようである。これだけの時間の経過を経て、当時と同じ田中信昭さんの指揮で再び聴くことができたのが何よりも喜ばしく感じた。
第2ステージの柴田南雄作曲「萬歳流し」もそのころの作品で、法政大学アリオンコールによる初演を私は聴いている。その後何度か再演され、その何回かも聴いたなじみ深い曲だが、混声合唱での演奏は初めてだった。柴田南雄さんの一連のシアターピース作品が初めて現れた時も衝撃的だった。客席の四方から響き渡るハーモニーに酔いしれて何とも言えない快感と感動に包まれたのを覚えている。「萬歳流し」はその中でも門付け芸を取り込み、客席に対し歌いかけるように演出され、演奏者と聴衆が一体となって盛り上がるところが何とも言えない。少し後のこととなるが私自身柴田南雄さんの作品の初演にかかわることとなり、先生のアトリエを訪問した時のことも昨日のことのように思い出された。
第1ステージと第4ステージで演奏された小品群は、ただ一曲だけを除き、いずれも自分でも演奏したか、練習した曲ばかりでさまざまな思い出とともに懐かしく聞いた。こうしてみると私の乏しい合唱経験は東混とともにあったのだということがよくわかる。メンバーはほとんど入れ替わってしまい、当時の懐かしい顔の多くは客席でお見かけした。しかし、東混のハーモニーは不変で、昔と変わらず楽しませてくれたのは本当にありがたいことだと思った。
この日の曲目の中で私が初めて聴いた唯一の曲は、最初に演奏された14世紀のカノン「夏は来たりぬ」だった。なんとこれは羊皮紙に書かれた世界最古の合唱曲だという。私にとって一番新鮮だった曲が最古の合唱曲、というのもいかにも東混らしい。ますますの活躍を期待したい。
公演に関する情報
共催公演 TAN’s Amici Concert
東京混声合唱団特別演奏会
田中信昭 エクソンモービル音楽賞受賞記念
日時:4月22日(金)19:00 開演
出演:田中信昭(指揮) 東京混声合唱団(合唱) 古賀満平(照明)