音楽のある週末 第4回 イングリット・フリッター ピアノ・リサイタル
澄んだ丁寧なサウンドに、ココロの張りが解き放たれる時間
週末の午後、室内楽が待っている
トリトン・アーツ・ネットワークは、今年新たな取組み「音楽のある週末」を始めた。
これは、土曜日の午後に開かれ、今回で4回目を迎える。これまでは弦楽器のリサイタルが行われてきたが、本日は初めてのピアノ。
ところで土曜日の午後は、クラシック音楽にとって、激戦の時間だ。都内のあちらこちらのホールで、オーケストラの定期演奏会が開かれている。
きらびやかな交響曲を選ぶか、一人のアーティストとあいまみえる室内楽に足を運ぶか――。1週間の仕事をやりくりしたあとの、落ち着きたい土曜日。でも、頭はなんだか昨日までのアレコレを引きずっている土曜日。
そんな気分の時は、室内楽に定評のあるこのホールの堅実な音の力で、気持ちをフラットにもっていくのも一つの手だろう。
温かな観客の雰囲気
午後2時開演の10分前にホールに入る。1階席は5分の4ほどの入りだ。2階席も人影が動いている。
会場はざわついた雰囲気はなく、これから始まるプログラムを心待ちにしているかのよう。ゆったりとした時間だ。
ホールを見渡すと、小学校中学年くらいの男の子と、おそらくは、その子の父親とが、2人で並んで座っているのが目に入ってくる。そして、時折プログラムを見ながら一言二言交わし合っているのは、ほほ笑ましい様子。
今日のコンサートに行こうと誘ったのは、どちらかな。男の子のほうが熱心のように見えるから、たぶんパパは、家族サービスだろうか。音楽を通じた子どもへの温かい気持ち。
週末の音楽の時間が、こうして始まる。
そして「イングリット・フリッター・ワールド」が展開された
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調op.31-3」から始まった本日のプログラム。
イングリット・フリッターさんの奏でるピアノは、澄んだ音。丁寧に、丁寧に、サウンドを解き放つ。
多少のサムシング・エルスが欲しいような気がしないでもないが、この1週間のココロの張りが、少しずつ溶けていく。
第2部はショパン。「イングリット・フリッター・ワールド」と言ってもよいか、「彼女の考えるショパン」を聴いた。
たとえば「子犬のワルツ」。
スケール感にあふれつつ、キッパリとした音づくり。そして、確かに繰り広げられるリズムに、体が自然と揺れていくのを押さえられない。
* * *
プログラム終了後のサイン会では、ファンの一人ひとりを、フンワリとした笑顔で迎えているイングリット・フリッターさん。
ホールのそこだけが、温かな繭に覆われているような錯覚を覚えつつ、和らいだココロでもって、会場をあとにした。
公演に関する情報
音楽のある週末
第4回 イングリット・フリッター ピアノ・リサイタル
日時: 2010年10月9日(土)14:00開演
出演者:イングリット・フリッター(ピアノ)
演奏曲:
ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲ハ短調WoO 80
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2 「テンペスト」
ショパン:ワルツ 第2番 変イ長調 op.34-1 「華麗なる円舞曲」/第10番 ロ短調 op.69-2/
第6番 変ニ長調 op.64-1 「小犬のワルツ」/第7番 嬰ハ短調 op.64-2/第8番 変イ長調
op.64-3/第1番 変ホ長調 op.18「華麗なる大円舞曲」/第11番変ト長調 op.70-1/