〈クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット 第1日
ミロ・クァルテットがやってきた!
この日を、どれだけ待ち続けていたことでしょうか。
2005年のベートーヴェン作品18全6曲の演奏会で、 ミロ・クァルテット(以下、ミロQ)の演奏にノックアウトを受けてからというもの、ますますベートーヴェンが気になり、大好きだったピアノの演奏会よりも弦楽四重奏の演奏会へ出かけることが多くなりました。
1曲目 第4番ハ短調op18-4
第1楽章が始まると、ピンとまっすぐ背をのばしながら聴き入っていました。前回とほぼ同じ席に座っていたので、5年も経つと、演奏にこれだけ深みが増すのかと、興奮してしまいました。音が分厚く、やわらかく、迫力のある演奏です。1階席でこれなら、2階
席だとどんな風に聴くことができたのか、なんてことも考えてしまうほど思いが広がっていきます。
調弦が終わって2楽章に入ると、ようやく少し冷静に聴くことができました。というのも、なんだか音色が変わったように感じたのです。第1楽章の時と違って、ミロQらしくないという印象でした。「もしかして、湿気のため?」と思い当たり、この数日の天候不順が影響しているのかもしれないと感じました。湿気たっぷりの状態でお客さんはホールに集まってきたと思います。「日本の季節感は、楽器にはダメージが強いんだ」と改めて認識した瞬間でした。
第3楽章の音色の混じり具合やテンポの加減は、見ていても聴いていても楽しく、CDで何度も聴いてきた印象とは変わったものが心に刻まれました。第4楽章は、第2バイオリンとビオラとの掛け合いがやわらかくて、前方の席ではこうしたやり取りも垣間見ることができました。
2曲目 第16番ヘ長調op.135
演奏が始まるまでの静けさが、この曲への期待感を増していったように思います。ミロQの本領が発揮されたかのように始まりました。第2楽章では、細かな動きと重厚な音が入りまざります。この曲は、交響曲第9番の後に作られたそうですが、晩年とは思えない明るい印象があり、この日の演奏はそのイメージをストレートに伝えてくれました。そうかと思うと、第3楽章の出だしは、やわらかく始まり、音の重なり具合に工夫がされているのもベートーヴェンらしく、第1バイオリンの美しさにうっとりしてしまいました。そして、第3楽章が終わった時の空間は、この曲が始まる前の静けさとは別物で、終楽章への期待をかきたててくれました。
3曲目 第8番ホ短調op.59-2 ラズモフスキー第 2番
今回、最も期待していたのは、この曲でした。2005年にミロQ のベートーヴェンを聴いた人なら、楽しみにしていたのではないでしょうか。なぜなら、5年前のミロQ自身のコメントには、今後もベートーヴェンが作曲した年頃と自分たちの年齢にあわせて弾いていく、という話があったからです。それから5年の間に、私もいくつかのクァルテットでこの曲を聴いてきたこともあり、ミロQがどう聴かせてくれるか、心待ちにしていました。
第1楽章では、何度か出てくるモチーフを楽しみながら、リラックスして聴いていました。第2楽章は静かに始まり、内声部分の楽器の活躍と第1バイオリンのやわらかな音が素敵です。第3、第4楽章では、4人のやり取りや表情も一緒に楽しんでしまうほど、ステージに引き込まれてしまいました。
アンコール「第13番op.130より第5楽章カヴァティーナ」
観客の数を上回るかのような、ものすごい拍手の音量でした。そしてこの曲は、まるで小編成のオーケストラを思わせるほどの様々な音色が折り重なっている響きに、うっとりと聴き入ってしまいました。そのうちに、ベートーヴェンでこれほど聴かせてくれるなら、他の音楽家はどういう演奏を聴かせてくれるのか気になってきました。ピアノも入る第4日も、聴きに行こうと思っています。
演奏が終わって、「よかったね」といいながら席を後にする人、ロビーでは、CDを購入したり、サイン会を待つ人が多くいました。この光景も5年前と同じ。Festa 最終日、そして今後の演奏活動に期待をしてしまいます。
公演に関する情報
〈クァルテット・ウィークエンド2010-2011“Festa”〉
ミロ・クァルテット
《オール・ベートーヴェン・プログラム》
日時: 2010年5月29日(土)14:00開演
出演者:ミロ・クァルテット
〔ダニエル・チン/山本サンディー智子(ヴァイオリン) ジョン・ラジェス(ヴィオラ)
ジョシュア・ジンデル(チェロ)〕
演奏曲:
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番ハ短調op.18-4
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番ヘ長調op.135
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調op.59-2「ラズモフスキー第2番」