育児支援コンサート
子どもを連れてクラシックコンサート
春めいた気候の中、第一生命ホールですでに恒例となっているライフサイクルシリーズの一環、育児支援 コンサート。
今回が8回目となるこの育児支援コンサートはもとより、ライフサイクルシリーズも私にとって初めての鑑賞になります。
第一部は「大人のためのコンサート」として、西野ゆかさんのヴァイオリンと小坂圭太さんのピアノデュオとピアノ独奏。なじみぶかいエルガーの「愛の挨拶」やモンティの「チャルダッシュ」があり、人口に膾炙していなくとも、小さな子供の存在を喚起させるようなショスタコーヴィチの小品まで、思索をこらしたプログラミングでした。
果たして演奏を聴くと、たとえば、エルガーの「愛の挨拶」を聴くと、ぶれない技術と作曲家の世界を踏まえた、十全の音楽。これならば、エルガーのソナタや協奏曲を弾いたら、どう調理してくれるのかな、と想像をたくましくさせてくれるような、細部に目をこらした演奏に感じられました。ベートーヴェンのスプリングソナタも第一楽章だけの演奏というのがもったいないくらいに、情報量が豊かで、もっと長くこの空気に接したいほど。
西野さんの語りはクァルテット・エクセルシオとして豊富なアウトリーチの経験をくぐってきたことをうかがわせる、優しくも記憶に残る語り口。
小坂さんの音楽とお話は格調が高く、聴衆だけでなく、ピアノ初学者に対しても刺激になるのではないでしょうか。
第二部は「みんな一緒のコンサート」。冒頭のモーツァルトとドヴォルザークは小さなお子様にはやや重いのでは、と自らの4~6歳時を思い起こしつつ聴きました。しかし、これを聴いている子供たちは前半、スタジオでクァルテット・エクセルシオと音楽を題材に遊んできたんだ、と考えると、聴衆としての子供たちは、案外頼もしく聴けたのではと、一方で前向きに感じるところでした。そのあとは、絵本「くものすおやぶんとりものちょう」をステージ奥のスクリーンに投影し、飯原道代さんの情感ゆたかな朗読を交え、小坂圭太さんのピアノと古部賢一さんのオーボエを加えての演奏。映像・朗読・音楽のバランスもよく、幸松肇さんの作品に、ロシア音楽を中心とした諸作品がはさまれたスタイルによる組み立ては、さながらオペラやミュージカルを見ているような愉しさがありました。
育児支援コンサートいう非日常の場をもつことにより、参加した子供たちも、クラシック音楽の楽器や世界に興味をもつきっかけにつながり、大変有意義で、今後も育児支援コンサートが継続されることを願ってやみません。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート#37〉
育児支援コンサート
子どもを連れてクラシックコンサート
日時: 2009年3月29日(日)15:00開演
出演者:クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)
小坂圭太(ピアノ) 古部賢一(オーボエ) 飯原道代(朗読)
演奏曲:
第1部
《子どものための音楽スタジオ》(幼児対象)
年齢別に分かれて行う弦楽器と管楽器による楽しい音楽体験
《大人のためのコンサート》(小学生以上)
~ヴァイオリンとピアノによる名曲のひと時~
エルガー:愛の挨拶
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調op.24「春」より第1楽章
シューマン:「子どものためのアルバム」op.68より「勇敢な騎士」「楽しき農夫」
ショスタコーヴィチ:「子供のノート」op.69より「楽しいおはなし」「誕生日」「マーチ」
シューマン:「子どもの情景」op.15より「トロイメライ」
モンティ:チャールダッシュ
第2部
《みんな一緒のコンサート》
モーツァルト:ディヴェルティメント変ロ長調K.137より第2楽章
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調op.96「アメリカ」より第4楽章
音楽と絵本/「くものすおやぶんとりものちょう」(作:秋山あゆ子/福音館書店出版)